地球はイデ隊員の星

連載第6回 放送第5話『ミロガンダの秘密』

 今回のイデ隊員は、すごい。いいところ、全く無し!
 第4話まではコミカルな三枚目でありつつ、さりげない形で貢献する、シリーズの路線を固める大事なセリフを言う、といった役割でキーマンとなってきたイデ隊員です。この連載の趣旨的には、満足すぎるぐらいの〈男らしさのヒント〉を与えてきてくれました。
 ところが、この第5話では……。任務中に子どもみたいにはしゃぐ。アラシ隊員の馬鹿力にひっくり返され、大げさに痛がる。ねちっこくイヤミを言う。謎の犯人に命を狙われる女性が美人だと、急に見栄を張る。なのに、「順番からいえば、(殺される)残りはもう貴女しかいないんですからね」とぶしつけなことを言う。しかも女性をガードする任務中に、さぼって芝生で昼寝する。「アキコちゃ~ん」と、にわかには信じ難いほどフザけた物言いを無線でして、フジ隊員に怒られる。一貫して、テッテー的にC調です。
 こんなにひどいともう天晴れというべき。実はここまでで、いちばん声に出して笑ったエピソードです。

 監督は、第2、3話に続いて飯島敏宏。特に第2話「侵略者を撃て」を併せて考えると、イデ隊員のパブリック・イメージのキャラクターを決定付けたのは、この人の演出です。イデいじりとでも言いましょうか。このキャラはこういう役割、と明快な判断に基づいてどんどんオーバーアクションを求めている感じが、ビンビン伝わります。
 そこにあるのは、ドライなナンセンス。C調でろくでもないのにおかしい、チャーミング、というのはギャグの文脈でしか説明がつきません。円谷プロには、怪獣映画、次郎長もの以外にも東宝から引き継がれたものがある気がします。サラリーマンもの、さらにそこから派生したクレージー(キャッツ)映画です。この第5話のイデ隊員って、あのピカレスク社員、平均(たいら・ひとし)に似ているんですよネ!
 第2話の仕掛け-イデ隊員が顔にできたアザの理由を語るところから始まるが、実はストーリーとはなんの関係も無かった-を、あまり上手くいっているとは思えないと僕は書いたものの、あの結論はどうも、早計だったかもしれない。あんなに勿体つけて引っ張っておいて意味なしなんて、よくよく考えると、相当にスラップスティックです。ギャグとして捉えれば、リチャード・レスター、『地下鉄のザジ』(60-61公開)のルイ・マル、一時期の大島渚のラジカルさに匹敵します。

 なんで、ここまでイデ隊員がドライに跳ねているのか。以下の要因が挙げられます。

  1. 飯島敏宏演出であること。は、今書いたとして。
  2. この第5話になって初めて、ホシノ少年が登場しない。
  3. 今までよりもストーリーに怪奇ミステリー色が強い。(脚本は藤川桂介)
  4. それほど深くはないが初めて、「アラシ隊員の責任感」という科特隊内のドラマが描かれる。

 2と3の要因は、セットになっていると思われます。まず、ストーリーを整理してみましょう。
『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 都内で新聞記者、地質学者が続けて窒息死する怪事件が発生。特殊な案件として警視庁から科特隊に調査が依頼される(あ、そういう流れもあるんだ!)。2人は、南洋のオイリス島調査団のメンバー。一方、植物の品種改良で知られる、調査団長の博士も酷似した形で怪死し、やはりメンバーの動物学者も襲われる。
 調査団長の研究用温室からは、オイリス島で採取した花ミロガンダが消えていた。調査団の残る1人は、同行していた女性カメラマン。科特隊は彼女の身辺を警護するが(イデ隊員がサボるのはここです)、果たして植物状の怪物-ガンマ線を浴びた影響で原始植物に戻ったミロガンダ-が現れる……。

 もともとロジカルな推理ものが苦手なせいもあり、1回見ただけではアタマに入ってこない、ちょっとややこしい展開です。緑の怪物に襲われる姿が描かれる人と描かれない人がいて、描かれない人のほうの現場で重要なヒントが見つかるのは、小説ではともかく、シナリオとしては不備ではないかなあ? さらに、科特隊のオブザーバーみたいな形で岩本博士というサブレギュラーが初登場します。えらい先生の名前があれこれ飛び交い、途中で、えっと、誰が誰だっけ……と混乱してしまいます。怪物化したミロガンダが調査団メンバーを襲う理由も、いちおうエクスキューズはあるのですが、強引な気がする。
 なんでも、もとは『ウルトラQ』以前から用意されていた企画プロットなのだとか。『ウルトラマン』用に仕立て直せば、後半は当然、巨大化したミロガンダ(そこからグリーンモンスという怪獣に)がウルトラマンと戦うパートに尺を取られるわけで。初めてホシノ少年が登場せず、前半ややバタバタしているのは、こうした事情に拠るのでしょう。とはいえ、前半十数分であれだけの情報量を畳み込むのも、ホンの力技。科学特捜隊の本来の任務である科学捜査を、ミステリー調で丁寧に描いてみよう。そんな狙いは上手く出ていると思います。「つまり、この連続殺人事件の謎を解くカギはですねえ。え~……」と、なんの考えもないのにカッコつけてみせるイデ隊員を、「バカモン、シャーロック・ホームズみたいに気取るんじゃないよッ」とたしなめるアラシ隊員のセリフがあります。実は犯人は人間ではなかった、という展開には、エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」的趣向も感じられる。

 イデ隊員に代わり、それこそホームズみたいに颯爽とミロガンダの秘密を推理してみせるのは、ハヤタ隊員です。ここまで本来の主人公・ハヤタ隊員にあまり触れずにきました。……実はこの人、有能な隊員であること(科特隊のなかではサブリーダー的存在らしい)、ウルトラマンに変身する役割を担っていること、の他はちょっと驚くほど存在感がありません。こうして自分の推理を披露する場面があるだけで、(お、ハヤタが変身の時以外で目立った……)と驚くほどです。
 公明正大、爽やかで一点の曇りもない好青年。現在のドラマツルギーでは、こういう人が主人公になるのはちょっと難しい。しかし、当時はそれがスタンダードだったのですね。つまり、東宝からはもう一つ、「若大将」シリーズのイメージさえ引き継がれている。田沼雄一くんからハヤタ隊員へ……。そう考えるとイデ隊員には、平均だけでなく、青大将マインドも注入されていることになるな!
 ハヤタ隊員は主人公なのにキャラの陰影が浅い。なぜか? これからイデ隊員の存在感を考えていく上でもきっと合わせ鏡になる、たいへんに重要な課題だと思います。

 今回のポイント、イデ隊員のドライな跳ねっぷりの要因のもう一つ、4。
 C調で稚気たっぷりなところを見せるイデ隊員と、すこぶる真面目で直情・熱血タイプのアラシ隊員。この2人は、お互いのイビキで閉口し合ったり(第2話)、からかいあったり、いつのまにやら、とてもいいコンビです。エピソードを重ねるうちに自然とそうなったらしい辺りが、また好ましい。テレビのレギュラー・シリーズのなかで脇役同士が喧嘩友達コンビを組む効用について、俳優の立場から活き活きと考察している本があります。レナード・ニモイの自伝「わたしはスポック」(富永和子訳・扶桑社)です。あの『宇宙大作戦(スター・トレック)』におけるミスター・スポックとドクター・マッコイのおなじみの関係は、ニモイとディフォレスト・ケリーの演技にスタッフが刺激される形で徐々に場面を増やしていったのだそうです。そして、エンタープライズ号の名物コンビが今なお愛されているのは、毎回どんなに辛辣にやり合おうと、「彼らの口論はいかなるときも友情と尊敬に裏打ちされていた」から。

ウルトラマン Vol.2 [DVD] アラシ隊員は、女性カメラマンのもとに現れた怪物化ミロガンダに襲いかかられ、危うく命の危険にさらされますが、隊員たちの援護もあり、スーパーガンでなんとか撃退します。ところがその大奮闘は逆効果。かえってスーパーガンのエネルギーによってミロガンダを巨大化させてしまったのではないか? と岩本博士に指摘され、アラシ隊員は大ショック。
 この時、ここまでアラシ隊員のバカ力、単純な一本気を冷やかす立場だったイデ隊員が、「わかってる、わかってる」と高ぶるアラシ隊員を慰めます。フジ隊員も「私の特別料理、アキコ・スープよ」とねぎらいの軽食を作ってくれたりして。さりげない点描で、それゆえに心に残ります。いいチームなんだ……とホントに思います。冒頭でいいところ全く無しと書きましたが、対照的な性格のアラシ隊員との掛け合いによって、イデ隊員の心根にある優しさもジワリと光っている。今後はそこもチェック・ポイントになるでしよう。

 あいにく岩本博士の予想通りにミロガンダは巨大化、グリーンモンスとなって丸ノ内に現れます。責任を感じたアラシ隊員が1人で攻撃を仕掛けるが、いかんともしがたく……。あとはもう、ウルトラマンの出番。
 前にも書いたように、本連載では特撮場面にはそれほど文量を割かない方針です。しかしこの第5話は、ちょっと特別。怪獣がビル街を破壊して回る本格的なミニチュア特撮が、『ウルトラマン』では初めてたっぷりと見ることができます。ウルトラマンとグリーンモンスが時計台を挟み、ゆっくりと回りながら間合いを詰め合う。その時、時計台が午前12時の鐘を鳴らす……。西部劇のガンマンの決闘を思わせるアイデアと、それを俯瞰で撮るスペクタクル感。ウルトラマンと怪獣の戦いそのものに、実は第4話まではあまり内実がありませんでした。しかしここでは、地球に留まることになった宇宙人と、放射線を浴びて怪物化した原始植物との対峙。その絵姿そのものに、いくらでも深読みできてしまう神話的な魅力があるのです。
 スペシウム光線を浴びて燃えるグリーンモンスの姿をしばらく見せるのも、異例。燃えつきた灰が都会の夜空を舞う、不気味でどこか物哀しい演出までされています。ウルトラマンの活躍をしっかり見せようとしたら、自然、怪獣もただ退治されればよい存在、と片付けるわけにはいかなくなる。この相互関係は、『ウルトラマン』の今後に奥行きを与えていくことになるでしょう。

 ウルトラマンが飛び去るラストに、イデ隊員が「あれ? ハヤタは? ハヤタはどこへ行ったんだ?」と不審がるのは、もはやルーティン。(「ハヤタさん」と先輩口調だったのが「ハヤタ」になった点については未だ宿題です) そういえば、特撮場面=怪獣出現となった途端、すっかりC調を封印したイデ隊員でした。やはり、基本的には職務をわきまえている男です。
 そこを踏まえた上で、今回の〈男のなかの男〉度が高いセリフは、これ。

 イデ隊員のおとこ語録:第5話 「お嬢さん、ご心配なく。日本一頼りになる男、この私がついています。(自分の胸を叩き、むせて)ウッグッ、プルブル……」

 謎の怪物に狙われる可能性が高い女性カメラマンを前にした時の、セリフです。前述のように、こんな調子のいいことをぶってみせたあとに、さぼって昼寝するわけです。ふつうに考えればサイテーなオトコですが、ふつうの物差しでは〈男のなかの男〉にもなれません。わざわざむせて、自分で自分を落としてみせるあたりに、女性を安心させ不安をほぐす優しさと機知を、僕は見ます。
  そして同時に、イデ隊員は半分以上は本気でそれだけの矜持を持っています。オレはかなりの男だぜという自信と自惚れが、すぐに三枚目、道化になれるフットワークの良さ、つまり自分の良さなんかいちいち人に分かってもらっても仕方ないというある種のニヒリズムと同居しているのです。そこらへんのニュアンスの深さ……、やはり回を追うごとに興味深い。

(つづく)

( 2010.9.10 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

『円谷プロダクション公式Webサイト: 円谷ステーション』 2012年3月24日(土)公開「ウルトラマンサーガ」

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  • 監督:飯島敏宏;野長瀬三摩地;円谷 一
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2010/09/10/11:25 | トラックバック (0)
若木康輔 ,地球はイデ隊員の星
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