――芥川賞作家、目取間俊が原作と脚本を書き下ろし、『絵の中のぼくの村』
でベルリン映画祭銀熊賞を受賞した巨匠・東陽一監督がメガホンをとった話題の映画、『風音』。
7/31に公開となるこの映画を特集する(7/31~渋谷ユーロスペース、テアトル新宿)。
風葬。屍を土の中に埋葬せず、風雨に曝し、あるいは鳥の啄ばむままにして風化を待つ土俗的な風習。現代沖縄のとある切り立った崖の中腹に、
そんな風葬場が残っている。そこに誰かがひっそりと置いた、銃弾が貫通した跡のある頭蓋骨。こめかみの穴を風が吹き抜けるとき、
まるで人が泣いているような不思議な音が鳴る。島の人々は畏れを込めてそれを「風音」と呼んだ――。
不思議な「音」を物語の中心に配置したこの映画は、古来よりの大らかな死生観と、米軍のヘリコプターが上空を行き交う沖縄の「いま」
を同一線上に描き、寓意に富んだ作品世界を予感させる。ラテンアメリカ文学を想起させる、幻想的な物語世界を紡いだのは、『水滴』
で芥川賞を受賞した作家、目取間俊。今作では原作と脚本とを兼任し、平易な言葉遣いながら、手際の良い人物配置と豊饒なイマジネーションで、
沖縄の潮風をスクリーンにも書籍の中にも吹かせている(原作小説『風音』はリトルモアから発売中)。
演出を手がけるのは、いまや巨匠の呼び名が相応しい東陽一監督。ATG(アート・シアター・ギルド)で制作された『サード』(78')、
『もう頬杖はつかない』(79')で、寄る辺なき孤独な若者の姿をドキュメンタリータッチでみずみずしく活写し、80年代は、田中陽造脚本によるロマンポルノ、
『ラブレター』 (81')、田中裕子がレイプ事件の被害者を演じた社会派ドラマ『ザ・レイプ』(82')、渡辺淳一原作、
黒木瞳主演の官能ドラマ『化身』(86')といった、優れた女性映画を多く手がけてきた。90年代に入ると、
住井すゑ原作の被差別部落問題と真っ向から向き合った『橋のない川』(92')で話題を呼び、『絵の中のぼくの村』(96')で、
見事ベルリン映画祭銀熊賞を受賞。近作『わたしのグランパ』(03')
でも浅野忠信や石原さとみといった若手俳優から自然な演技を引き出した。
そんな東監督と沖縄にはちょっとした因縁がある。記録映画や企業PR映画を手がけてきた岩波映画出身の監督は、会社を退社後、
借金をしてまで記録映画『沖縄列島』(69')の制作に情熱を注いだという経緯がある。監督デビュー作となったこのドキュメンタリー映画は、
ベトナム戦争の真っ最中に沖縄の米軍基地から次々と飛び立っていくB-52爆撃機を捉え、当時大きな反響を呼んだ。しかし監督には
「本土の視点から沖縄を描いている」という、忸怩たる思いが少なからずあったようだ。今回、
沖縄に住んで執筆活動を続ける目取間俊という作家の「内側の視点」を得たことで、監督は35年ぶりに、沖縄への「借りを返した」
という気持ちがあるのかもしれない。熟練の巨匠による期待作だ。
<ストーリー>
夏。沖縄。とある切り立った崖の中腹にある風葬場に、
銃弾が貫通した跡のある頭蓋骨がある。こめかみの穴を風が吹き抜けるとき、まるで人が泣いているような不思議な音が鳴るそれを、島の人々は
「風音」と呼んだ。東京からひっそりと帰郷した和江とその息子、マサシが島に足を踏み入れた日から、その音がぱったりと聞こえなくなる。
時を同じくして、謎の老女が本土から現われる。平和だった島に不穏な風が吹きはじめた――。
<スタッフ/キャスト>
監督:東陽一
製作:山上徹二郎
原作:目取間俊
脚本:目取間俊
出演:上間宗男、加藤治子、つみきみほ、光石研、北村三郎 他
公式サイトhttp://cine.co.jp/fuon/index.htm
配給:シグロhttp://cine.co.jp/index.htm
7/31(土)~渋谷ユーロスペース、テアトル新宿で公開。
主なキャスト / スタッフ
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