膳場 岳人
劇場に置いてあるこの映画のチラシを注意深く見て欲しい。
「ファーストフードを一日三食一ヶ月間食べ続けると、人間どうなる?」――それがこの映画の概要だ。
より具体的には「マクドナルドを一日三食一ヶ月間食べ続けると、人間どうなる?
」という実験の様子が記録された映画である。改めて気づかされるのは、
ここに当然明記されるべきマクドナルドの文字が注意深く排除されていることだ。もちろん、
イエローとレッドを組み合わせたポップなレイアウトや、マクドナルドの前に立つモーガン・スパーロック監督の写真などから、
ファーストフード=マクドナルドを指していることは明らか。だが、
この映画がたとえテレビで紹介されることがあったとしても、そこでマクドナルドの名前が出ることはないだろう。言うまでもなく、
大手スポンサーである日本マクドナルド社、
ひいてはマクドナルド本社の機嫌を損ねないためである。
そもそもこの映画の公式サイトにおいても、やはり表記は「ファーストフード」となっている。いいのか、そんなことで?
さて、『スーパーサイズ・ミー』だ。2002年秋、
ブロンクスに住む肥満に悩む女性二人が
「うちらがデブになったのはマクドナルドのハンバーガーが原因」として、
マクドナルド社を相手に訴訟を起こした。
「一ヶ月間、三食マクドナルドしか口にしない」
という本作のコンセプトを監督が思いついたのは、そのニュースを知った時だ。
日本のバラエティ番組に近似した企画はいくらでもあるが(大抵は貧乏生活をモチーフとするが、
ファーストフードもまた貧者の食べ物である)、この映画はそのシンプルなアイデアから出発して、
ファーストフードが身体に及ぼす影響を緻密に検証し、それがもたらす肥満や性欲減退(「最近は私が上になるのよ」
と監督の恋人はぼやく)や鬱症状、さらにはその中毒性を明らかにする。被験者となるのはスパーロック監督自身。
彼が毎日のようにマクドナルドに足を運び、
ビッグマックやマフィンやポテトを食い散らし、バケツみたいなサイズのコーラを飲み干して、
げんなりした顔で毎日を送る様子が克明に記録されてゆく。それがいかなる結末を迎えるのかは、実際に映画を見て確かめて欲しい。
筆者個人としては、「マクドナルドのドライブスルー=ゲロ」
という最悪な印象を当分のあいだ拭えそうにない。
同時に映画は、ジャンクフードが社会に蔓延することになった構造を追及し、
アメリカ人の食生活を不健全なものにしている張本人、GMA(アメリカ保存食品製造業者協会)
やロビイストの存在を詳らかにしていく。そこから浮かび上がるのは、過剰な営利追求の欲望が、いかにして人々の食生活を蝕み、
結果として多くの病人とバカを生んでいるかということだ。
全米の殆どの小学校では体育の授業が行われておらず、学校給食にはスナック菓子やジュースなど、
ジャンクフードが平然と並べられているという。子供たちが昼食にそれらをガツガツ食べている映像は衝撃的だ。
油脂や糖分や着色料や保存料が、育ち盛りの子供の体に怒涛のごとく吸収されてゆく。
"切れやすい子供"の多くに食生活の乱れが指摘されているのは周知の通りだが、ガス・ヴァン・サント監督『エレファント』
の誕生する必然性が、よく理解できる一コマだ。
コロンブスの卵的な発想で名声をものにしたスパーロック監督だが、
彼には同じような映画作りによって社会問題を告発する、マイケル・ムーアほどのユーモアセンスもケレン味もない。
マクドナルド社側のきちんとしたインタビューが取れていないなど、
ドキュメンタリー映画としてははっきりと詰めが甘い。早々とファーストフードの危険性を感じとり、
縁のない暮らしを送っている聡明な人には、新しい発見はあまりないかもしれない。しかし、それでもこの映画は必見だ。
こういう映画は、スポンサーの顔色をうかがう宿命にある民放のテレビでは、決して放映されないからだ。『スーパーサイズ・ミー』
は、ファーストフードの持つ危険性を認識する上で、きわめて適切なテキストである。
本作はサンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞。5週間で500万ドル以上の興業収入をあげ、世界26か国での上映も決定、
8月の段階で1650万ドル以上の興行成績を記録している。この映画が2004年のサンダン映画祭で上映された後、マクドナルド社はメニューから「スーパーサイズ」を廃止。
だがこの映画の影響ではないと明言している。
……まあ、そんなこと言いながらも、筆者は月に2、3回ファーストフード店に足を運んでいるけどさ。
マック喰いながら家でビデオ見るのって、たまらなくいい気分だもんな。マクドナルドのフライドポテトって最高だろ?
スーパーサイズ・
ミー 監督:モーガン・スパーロック |
主なキャスト / スタッフ
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