(2003年 / アメリカ / ティム・マッキャンリーズ)
信じる、ということの本質

仙道 勇人

 誰かのことを信じるということは、今も昔もとても難しい。安易に人を信じる者は馬鹿を見る。誰だって裏切られたくないし、 傷つきたくはない。だから人を信じるな、とは言わないけれども、慎重に。そんな処世術を、 人は成長する過程で自然に身につけて行くものかもしれない。そんな世知辛い世の中だからこそ、せめて映画の中では純粋なものに触れたい―― そう多くの人が思ったのだろうか。本作は「スクリーンで観たい脚本」ランキングの第一位を獲得した脚本を映画化したものである。

 物語は実にシンプルだ。父親のいないウォルターが、母親の「都合」のためにそれまで会ったこともなかった「変なおじさん達」 の元で生活することとなり、様々なことを学んでいくという殆ど「夏休み」もの定番と言っていいものだ。実は筆者は実際に観るまで、 本作がなぜそんなに高い支持を得たのか理解できなかった。ありがちな設定と感動をやたらと喧伝する物語、 いつものハリウッド的感動作でしかないだろうに……。そう思っていたのである。そしてその予見は、ある程度まで的中したと言っていいだろう。 映像や動物を用いた息抜き演出など、いかにも「ハリウッド的」な作品であったからだ。しかし、 その一方で本作がなぜ映画化を望まれたのかを察することもできた。それはひとえに、本作が「信じる」 ということの本質的な部分を直球で表現した作品だからにほかなるまい。いや、表現などというレベルではなく文字通りハリウッド的に、 恥ずかしげもなく明言しているのだ。

 と言って、そこへ到る過程を等閑にしているわけではない。父親がおらず、尻の軽い母親にお荷物のように扱われてきたウォルターが、 地に足のついた生活を共有することで初めて大人と向き合っていく姿をユーモアを交えながら描いていくのだが、 おじさん二人とウォルターが織りなすエピソードは気楽に楽しめるものばかりで実に微笑ましい。 何よりおじさん達が詳細不明の大金を隠し持っている、という噂に群がってくる人々が実に滑稽で、その滑稽な演出に誤魔化されそうになるが、 このおじさん二人組も基本的に他者を信じていないということは留意しておくべきだろう。ウォルターの母親もそうだが、 近づいてくる者が皆隠し財産目当てであるに違いないと考えるおじさん達が、 片時もショットガンを手放さないのはそうした他者への不信感への現れに他ならないのだ。 そこへ現れたのが他人を信じる術を知らないウォルターであり、この交流を通じて双方に「人間的な回復」 がもたらされる様子が物語の背骨になっている。

 本作がこれだけの作品であれば、まさしく「ハリウッド的感動作」の一言で済まされる作品でしかなかったかもしれない。が、 本作ではもう一つ仕掛けが施されている。おじさん二人が過ごしたという大冒険の「お話」を、ウォルターがどのように受け止めるかがそれで、 作品の鍵ともなっているのである。実際、語られる話は映像として見せられるのだが、当初はセット感バリバリの安っぽい映像と相俟って、 余りにも突飛で嘘臭い内容にウォルターでなくとも「老人の戯言」で済ましたくなるものばかりなのだ。が、話が進むに従い、 細部がきちんと描かれるに至って、この「お話」の映像が話を聞くウォルターの脳内映像を再現しているということに気付かされる。 つまり(と言うか、怪しすぎる爺さんだけに当然)ウォルターは当初、おじさんの話を全く信じていなかったことを示唆しているのだ。 通常の交流のみならず、聞かせてもらう昔話のディテールを通じて、ウォルターの内面に育まれる彼らへの信頼を描くという試みは、 役者の演技に頼らないアプローチという意味で実に新鮮だった。

 最後の最後で、ある明快な事実によっておじさん達の大冒険の真偽が明らかにされるが、おじさん達自身は決してその話の真偽は語らない。 語らないがゆえに「本当」か否かが重要ではなく、大切なものは別なことという寓意性が際立つこととなっている。 本作が一生心に残る感動作であるとは思わないが、それでもほんの少しだけ優しい気持ちになれる作品であることは間違いないだろう。

(2004.6.14)

2005/04/30/19:04 | トラックバック (0)
仙道勇人
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