(2003 / タイ / プラッチャヤー・ピンゲーオ)
未だ見ぬ強豪は、まだいた!

百恵 紳之助

 かつてプロレス界には「未だ見ぬ強豪」なんて聞いただけでワクワクしてしまうような言葉があり、 初来日の外国人選手をこの言葉を使って煽ったりしていたものだが、 もはやこのご時世では完全に死語かと思われていたこの言葉を久々に思い出さずにはいられないチョー快作であった。いや、ホント世界は広い。 「未だ見ぬ強豪」がすぐそばのタイにおったなんて。

 村の大事な宝物が盗まれて、それを取り戻しに村一番の腕利き純情青年が旅に出る!もうこの青年の強いの強くないのって、強すぎなのだ。 リアルファイトの俳優部門ではセガール以上だろう。 しかもセガールのファイトはある程度の技術論が分かってないと楽しめない部分もあったので、観客的にはこのタイ人の勝ちとしたい。

 CGなし!ワイヤーアクションなし!という「なんも売りはありません!」 と言ってるようなこの作品の最高の売りはそのリアルなムエタイのムーブメントなのだろう。 ムエタイの技術論なんて語れもしないどころかその試合すら観たこともない筆者がそう言うのはおこがましいが、とにかくスゲェ! スゲェのニ言である。マジでこの作品を観たらプライドやK-1なんか「屁」みたいなもんだと思ってしまった。 やっぱ肘と膝という人間の体の中でワンツーフィニッシュに硬い部分を使わずして(K-1は膝あるけど) 我こそは最強なんて名乗るんじゃねぇということだ。とにかくこの作品では肘と膝を使った攻撃が多々見られるのだが、 おそらくその攻撃こそがムエタイの真骨頂なのであろう。ムエタイの選手からしたらプライドやK-1のリングなど生ぬるいのだ。

 驚くべきはこの映画の中で使われている肘、膝の攻撃が相手にもろに入っているように見えるということである。とにかく痛そうなのだ。 本当に入れているのならそれはそれでいいのだが、もしフェイクであれば(まあ、映画だからフェイクなんだろうけど) これは是非ともプロレスラーの方たちに見て勉強して頂きたい受身の技術である。プロレスも映画も「どう見えるのか」が最も大切なことである。 たいした場面じゃないのにスタントマン二人死んでます的な「どうだったか」という部分は観客には関係ない。 最近のレスラーたちは痛そうに技を受けられない・・・って話が大幅にズレてしまった。

 まあ、とにかく今まで映画の中の格闘シーンにおいて最も完成度の高い格闘シーンを見せていたのが、ジャッキー・ チェンであることに異論を挟む者はいないだろう。もはやその格闘シーンは様式美と言っても過言ではなかったのだが、 そのあまりに完成されたスタイルは成熟し、爛熟し、腐乱の道をたどる以外ない。 また格闘シーンとしての完成度は低いがリアルファイトの凄味で勝負にきたのがセガールだった。しかしどうにもこうにも地味すぎた。 そこに忽然とリアルファイト+見せる凄さもあり!で乱入してきたのがこの作品なのだ。 そういう意味では映画史に名を残す作品になることは間違いない。

 プロレスラーが総合格闘技の選手にコロコロと負けまくりの昨今、どこに最強伝説を求めればよいのやら迷いに迷いまくり、 死んだジャンボ鶴田個人に最強伝説を求めよう口角泡を飛ばして議論している筆者の迷いを完全に吹き飛ばしてくれた作品だった。 もう筆者は完全にムエタイ最強論者です。・・・が、最後に一言、 この作品で言うムエタイ部分を小橋健太の逆水平に置き換えて似たような痛快な映画を作れないものだろうか。「当ったら一番痛い技」 の幻想は筆者はまだまだプロレスの逆水平に求めてしまうのである。逆水平5000連発CGなし!なんて場面見たいけどなあ。 プロレスってスゲェ・・・そう思える作品が完成する確信はある。

(2004.7.18)

2005/04/30/19:13 | トラックバック (0)
百恵紳之助
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