2001年9月に行われた、カナダ・トロント国際映画祭でのワールド・
プレミアで会場を騒然とさせ、熾烈な争奪戦の末にミラマックス社が全米配給権を獲得。しかし、
その翌日の9月11日に起きた米同時多発テロ事件によって、作品公開は延期に継ぐ延期を余儀なくされた――。
本編同様の嘘かネタのような話だが、本作公開にまつわる因縁話だという。最終的に公開延期は5度に渡ったということだが、
その理由は本作は観れば誰もがたちどころに了解するに違いない。米陸軍の腐敗を徹底的に風刺した本作には、
911直後の愛国心と国防意識に燃えるアメリカでは到底受け容れられないような「危ないネタ」が山盛りなのである。
舞台は冷戦末期、ベルリンの壁崩壊もすぐそこまで迫っていた1989年。
西ドイツのシュツットガルトに駐屯する米陸軍基地の弛緩しきった状況を、本作はブラックなユーモアを鏤めながらテンポ良く描き出していく。
ドラッグの蔓延から物資の横流し、公式文書を適当に改竄するのは当たり前。昇進のことに頭が一杯で、
恙なく任務をこなすことを最優先するボンクラ上官がいれば、ドラッグの売買に血道を上げるMP(MilitaryPolice)がいて、
ドラッグでラリって街中を戦車で駆け抜けようが何の痛痒も覚えない兵士がいる。ヘロインの精製などに手を染め、
その稼ぎで兵隊らしからぬリッチな生活を満喫する主人公エルウッドもまた、そんなダメ米兵の一人だ。言葉巧みに上官に取り入り、
万事安泰と思われていた彼の立場が、ベトナム帰りの新任上官リー曹長に着任によって徐々に揺らぎ始めていく様子を通じて、
軍隊という組織のもつ構造的な病理が炙り出されている。
本作で槍玉に挙げられている米軍の内部実態は、いくらなんでもネタだろう、
面白くするために誇張しているのだろうと思うようなものばかりで、とにかく呆れるほど酷いのだが、
いずれも実在の人物の体験談やリサーチに基づいたものなのだというから驚かされる。
圧巻は何と言っても戦車が市街地を駆け抜けていくシーンである。傍若無人に突き進む戦車の姿は、まさに動く要塞、
鉄の城といった感じでその頑丈さに言葉を失う。こんなのが自分の住む街に突然現れたら――そんな想像をせずにはいられないが、
これも当時現実にあった事件を元にしていると知ってはただただ恐れ入るばかりだ。同様に米軍/
米兵の無軌道ぶりがノリノリで描かれているので、始めこそ笑いながら観ていられるものの、
そうした乱れきった風紀の浄化に乗り出すリー曹長までもが「気にくわない奴は殺すだけ」という非道さを発揮するに到って、
もはや笑うどころの話ではなくなってしまうのである。
本作が暴き出す米軍の堕落は、冷戦下ですることもなく退屈だったから、というのがその表向きの理由となっているが、
一番恐ろしいのはそうした腐敗や暴走が、ベトナム戦争映画でも繰り返し描かれたものと殆ど変わらない、ということであろう。
ベトナム帰りのリー曹長がエルウッドに「お前らよりも悪いことは散々やってきた。最高だった」と言い放つシーンが如実に物語っているが、
本作で描かれていることは、退屈や恐怖といった外的な因子によって引き起こされるのではなく、
軍隊とはどこに行こうが本質的に自らの存在を維持するためにマッチポンプになりやすい、ということなのだ。
ゆえに本作で描かれるような米軍の不祥事の数々は、これまでもどこかの基地内であったことだろうし、
これからもどこかの基地内であり続けることだろう。事実、実質的に現在も継続中のイラク戦争でも、
アブグレイブ刑務所での常軌を逸脱した拷問があったことは記憶に新しいし、米軍/
米兵による不祥事は今も後を絶たず報道されていることを鑑みれば、本作の先見性に誰もが驚かされるはずだ。
最後のオチは些か狙い過ぎの感があるのは確かだが、作品を覆う緩い雰囲気とは裏腹に、
堅苦しい批判や揶揄だけのものとは一線を画した奥行きのある作品になっている。
さて繰り返しになるが、本作は冷戦末期の米陸軍の腐敗を描いた作品である。米軍の腐敗と言えば、先述のアブグレイブだけでなく、マイケル・
ムーアの『華氏911』でもロックを響かせながらノリノリで進撃していく兵士の姿などが暴かれていた。こうした現実を見せつけられた時、
ともすると我々は「今も昔も米軍ってしょうがねえんだな」の一言で終わらせてしまいがちだ。しかし、思い出して欲しい。
日本にもその米軍が常時駐屯しているということを。本作で描かれたことは、他人事で済まされるような問題では決してないのだ。その意味で、
日本人にとっては『華氏911』以上に必見の作品と言えるかもしれない。
(2004.12.13)
主なキャスト / スタッフ
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