(2004 / アメリカ / スティーブン・ソダーバーグ)
盗むなら現実世界ではなく劇中で盗め!

仙道 勇人

 あの顔ぶれがまた帰ってくる。今更説明するまでもないだろう、本作はジョージ・クルーニー、 ブラッド・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、ジュリア・ロバーツといったハリウッドきってのスター達を競演させ、 話題を振りまいた前作「オーシャンズ11」の続編である。今回は前作のメンバーに加え、キャサリン・ゼタ=ジョーンズとヴァンサン・ カッセルが参戦、前作同様の、否、前作以上の興奮と夢のようなひとときを楽しませてくれる――。

 恐らく本作に興味を抱いている人の多くは、そう期待しているに違いない。或いは、 前作で裏切られた人も本作で前回の汚名を返上してくれるのではないか、なにせあのソダーバーグなのだから……。 そう密かに期待している人もいることだろう。しかし、最初から断らなければならないが、本作にそのような期待をもってはいけない。 やはりと言うべきか、本作も前作同様の、否、前作以上に酷い作品になっているのだから。

 ストーリーは、到ってシンプルだ。前作でカジノ王から莫大な金を盗み取ったオーシャンズ11の面々の元に、 どこから情報を得たのかカジノ王本人が直々に取りたてに現れ、盗んだ金と利息分を耳を揃えて返せと要求する。期限は二週間。 再集結を余儀なくされたオーシャンズ11は、今度は自分達の命を賭けて借金返済のためにヨーロッパ遠征を企てるが、 なぜか彼らの行く手にヨーロッパ随一の天才泥棒と名高いナイトフォックスが立ちはだかる。かくしてオーシャンズ11とナイトフォックス、 そして警察との三つ巴の戦いの火蓋が切って落とされる……、というもので、こうしてあらすじだけ読むと割とまともなんじゃないのか、 という錯覚を抱くかもしれない。が、あに図らんやそうではないのである。

 本作の基本軸は、当然のことながら二週間以内にオーシャン達が盗んだ金(と利息分)を無事返済出来るのか? という点を中心に進行していくが、そこにナイトフォックスとの「盗み勝負」とラスティー(ブラッド・ピット)&イザベル(キャサリン・ ゼタ=ジョーンズ)のエピソードを同時進行させているせいで、話がグダグダになってしまっているのである。「盗み」 というテーマを中心に置いた場合、「いかに盗むのか」というスリルと「いかに追っ手を出し抜くのか」 というサスペンスを物語の両輪にするのが基本だが、本作には最大の見せ場と言える場面になってもスリルもなければ、 サスペンスもないという有様で、これはもう怠慢としか言いようがないのだ。特に十二人目のメンバーを使った盗みのシーンは、 噴飯もののやり取りに気恥ずかしいやら、情けないやらで、 なんだってこんな映画に金を払ったのだろうと真剣に後悔しそうになったくらいである。しかも、シナリオの大暴走はここで終わらない。 最後の最後に「ご都合主義」という名の大どんでん返し的な種明かしが待っているのだ。「例の十二人目」のシーンがあっただけに、 もう矢でも鉄砲でもなんでももってこいといった感じでさしたる驚きもなく脱力しただけであったが、 それでもこんな投げやりなストーリー展開を見せる映画は近年でも稀ではなかろうか。

 本作は、ハリウッド・セレブ達のありえない顔合わせだけを楽しむべきであって、物語や話の辻褄は大体合っていれば十分なのだ、要は 『お祭り映画』なんだから細かいことをとやかく言うのは野暮だ、という向きもあるかもしれない。確かに、 俳優達のリラックスした雰囲気が醸し出す自然な連帯感や台詞なのかアドリブなのか判然としない絶妙な間合いやリズムなど、 やはりスターを張ってる人間だけあってなかなか魅せてくれる場面も少なくない。物語の展開自体には問題があるとはいえ、 進行と演出は実に軽妙でテンポ良く、気楽に楽しめるのはこの作品ならではの魅力と言えるだろう。しかし、 本作に見られる魅力的な部分というのは、果たして『映画』でなければならないものなのだろうか?はっきり言って、 本作の面白さはテレビ的な面白さの域を出ていないとしか思えないのである。

 同じ『お祭り映画』で「ご都合主義」と「役者自身の楽しみ」が炸裂している「カンフー・ハッスル」が、 その点について余り気にならないのはなぜかと言えば、それ以上にスクリーンから「観客を楽しませたい」というチャウ・ シンチーの真摯な思いが伝わってくるからに他ならないだろう。だが、本作はどうか?結局のところ、 本作は役者自身がただただ楽しんでいるだけで、観客を楽しませようという意識が余りにも乏し過ぎるのである。 本作には某有名俳優がカメオ出演しているのも話題の一つだが、出演者の殆どが彼と同じく「カメオ出演」 感覚で撮影に臨んでいたのではあるまいか。某有名俳優が出演する一連のシーンなどは、 役者全員が弛緩した雰囲気をひたすら垂れ流しているだけでお寒いことこの上ない。ここまでお寒いカメオ出演は、「デビルマン」 ('04)で見られた小林幸子やKONISHIKIに匹敵すると言っても、それほど強い否定はされないに違いない。

 誤解を恐れずに言うならば、本作の楽しさはテレビのバラエティ番組で出演者がゲームをしているのを見せられている感覚に極めて近い。勿論、 そうした楽しみ方を完全否定するつもりはないが、「映画」という枠組みでそれをやるからには(しかも二作目であれば尚更だ)、 最低限のクオリティは守ってしかるべきではなかろうか。件のご都合主義も、「主義」などではなくて、 本当に役者達の都合に合わせて改編した結果なのではないか、とすら疑いたくなるくらいである。こうした観客を置き去りにした姿勢は、 エンターテイメントとして極めて低劣と断じざるを得ない。これではハリウッドが商業主義だと揶揄されても、誰が反論できようか。 大金を注ぎ込んで映画を製作するからには、「なるほど、さすがだ!」 とこちらを唸らせるモノをハリウッドには是非作り続けてもらいたいと切に願うが、近年の「海外作品のリメイク乱発」 や本作のような商業主義まる出し路線が続くようでは、ハリウッドの凋落も始まっていると思わねばならないだろう。本作の陣容ならば、 まともなシナリオでもっと華麗にクールに盗んでくれるだけで格段に良い作品になったはずなのだが、 作品云々以前に金を払ってくれればそれでいいとでも思っているのであれば、残念と言うほかない。

 以上、本作は各人のお気に入りの俳優を眺めるだけの作品だが、個人的には限りなく地味な存在感を見事に発揮していたマット・ デイモンとキャサリン・ゼタ=ジョーンズの目も覚めるような美貌あたりに注目することをお勧めしておこう。 泥棒映画としては不完全燃焼この上ない本作にあって、筆者にとっては二人の存在がせめてもの救いなのであった。

(2005.1.24)

2005/04/30/20:00 | トラックバック (0)
仙道勇人
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