連載第4回 第3話『科特隊出撃せよ』
第1話、特に第2話と、イデ隊員度の高いエピソードが続き、さァ、これは大変なものに手を付けたようだぞ、とドキドキしていましたが。第3話はとうとうというか、ようやくというか、イデ隊員の見せ場がほとんど無いエピソードです。ちょっとホッとする気持ちも、正直あったりして。
しかし、イデ隊員が脇役に徹しているエピソードこそ、本連載のがんばりどころであります。もともと、コミカルな三枚目のなかに隠されたイデ隊員の普遍的な魅力を引き出すことが目的でしたから。ここまでのイデ隊員が、いささかフィーチャーされ過ぎだったのです。
これ以上出張ると、ハヤタ隊員よりも面白くて目立つ→イデ隊員が主人公、となってしまう。『ウルトラマン』の設定や演出タッチが明確になるまでは大車輪で、そろそろルーティンに入るとなれば、サッと奥に引っ込みマークを外す。しかも、そのポジション・チェンジを素早く、さりげなく行い、すぐには気付かせない。なかなか出来ないことです。
サッカー観戦に熱心だった頃。FCバルセロナは当時のスーパースター、ロナウジーニョが確かに凄いんだけど、後ろで効果的に走り回って相手の守備を引きつけ、ロナウジーニョに華麗なプレーができるスペースを作ってあげるデコはさらに凄いのではないか、と少々ムキになったものです。イデ隊員は、科学特捜隊のデコ。フットボール愛好の方には、こう書けば僕の執着が分かってもらえるのではと思っております。
では、第3話はどんなお話かというと。
- 科学特捜隊による異常現象の捜査→怪獣出現→怪獣の出自の解明と対策→防衛および攻撃→怪獣を倒せずピンチ→ウルトラマンが現れる。このパターンが初めて固まる。
- 初めてホシノ少年がフィーチャーされる。
- 初めて地上の怪獣とウルトラマンが戦う。
この3点にポイントがあり、シリーズ全体を考えれば、やはり重要なエピソードだと言えます。タイトルが示すように、まずは科学特捜隊の奮闘ありき。人間側がベストを尽くさないとウルトラマンも現われてくれない、暗黙のルールが固まったわけですね。ここまで僕は「科学特捜隊」と正式名称を書いてきましたが、第2話に「科特隊」と省略して呼んでみせるセリフがあり、この第3話ではタイトルに堂々と使われているので、今後は「科特隊」も併用します。
ポイントの1~3を煎じつめて言えば、『ウルトラマン』は宇宙へ目をやる未来派スペクタクルであると同時に、前作『ウルトラQ』の世界観も引き継いでいる、ということになります。
その典型が第1話の「ゴメスを倒せ!」(脚本・千束北男)。ストーリー展開が今回と非常によく似ています。
- 「ゴメス」=列島横断トンネル工事→怪獣を冬眠から目覚めさせる→空想力豊かな少年の活躍とがんばりで正体が分かる→神社の古い記録に残っていたゴメス→一緒に蘇ったリトラと戦う
- 「科特隊」=発電所の地下ケーブル工事→怪獣を目覚めさせる→ホシノ少年の調査で正体が分かる→昔、井戸の中に住んでいた怪物ネロンガ→ウルトラマンと戦う
急速な人類の発展と開発は、輝かしく未来を建設する一方、時には怪獣・怪物が跋扈していた神話の地層を掘り起こしてしまうかもしれない。こうした文明風刺的なタッチは、『ウルトラQ』全体に通底するものでした。あいにく僕は『ウルトラマン』同様、『ウルトラQ』も全話の見直しをしてはいませんが、基本テーゼとしてそういう視点はあったとみて間違いないでしょう。なんとなれば特撮の本家・東宝怪獣映画の精神的な軸がまさにそこでしたから。
また、未来と神話層の断裂に敏感なのは、往々にして好奇心旺盛な子どもたちの感性である、という作りも『ウルトラQ』の特長でしょう。第12話「鳥を見た」は、異次元の穴を通じて迷い込んできた1,000年前の古代鳥と少年の物語。アルベール・ラモリス『白い馬』(52)への作り手の愛着が明らかに込められた、しっとりとしたメルヘン。その鳥を守る少年は偶然にも(キャスティングに関してはしらばっくれて言います)、ホシノ少年と瓜二つなのでした。
設定上は、ホシノ少年の存在も理屈がつけられます。スポーツの世界で素質あるジュニアを上部リーグの合宿や練習に参加させるのと同じで、科特隊の任務にホシノ少年を同行させるのは将来の幹部候補生育成システムの一環ではないかと。これもまたフランス式といえるのかもしれません。
しかし、大人がワカランチンな常識人ばっかりの世界であれば子どもの存在も引き立つのですが。『ウルトラマン』の場合、あくまで科特隊という特殊な(ある意味大人げない稚気も込みの)チームが主体です。あの流星マークのヘルメットと、オレンジの襟なしジャケット型隊員服で大真面目な顔でキビキビ動き回られると、子どもが活躍する余地がなくなります。
『ウルトラマン』を子どもの頃に見ていた方々の少なからずが、ホシノ少年に対して冷淡な思いを抱く理由はそこですね。僕も、序盤の段階でホシノ少年が出てくると、ああ今回はハズレ、と早々に見切っていた再放送世代のひとりです。科特隊の活躍に自分が大人になった姿を想像、投影するのが楽しいのに、同じ年頃のホシノ少年にウロチョロされると(しかも今回のように勝手な行動で隊員たちに迷惑をかけたりすると)、気分台無しなわけです。
つまりホシノ少年は、『ウルトラQ』の世界を引き継いだ面の象徴であり、やがて居場所がなくなる運命の、むずかしい存在。そのホシノ少年を第3話においてフォローしてみせるのが……他ならぬイデ隊員でした。見せ場がほとんど無いと思わせといて、つくづく侮れない男だ!
実際のストーリー上でホシノ少年とよく絡むのはアキコ隊員とアラシ隊員なのですが、この2人はもう大人。ものわかり良く見守る立場で、それはもう、逆説的にホシノ少年はまだ子ども、と完全に見做しているのと同じです。
ところがイデ隊員、ホシノ少年がネロンガは昔の伝説にある怪物だ、まだ生きていたんだ、と訴えると、「ですからね、ホシノ博士。何百年もの間ジーッとしていた奴が、なんだって急に暴れ出したりするんです?」とヘンに小馬鹿にしたように言い返します。全く大人げない態度ですが、ムキになって絡んでくれる大人がいなければ、ホシノ少年の存在は、立たないのです。そういう損な役回りができる大人といえば、これはもうイデ隊員しかいません。
一方で、ネロンガが発電所を破壊し、暴れる場面。「ウルトラマン、ネロンガをやっつけてくれよ」と願うホシノ少年の声を聞いたハヤタ隊員がウルトラマンに変身します。するとイデ隊員は、ホシノ少年に笑ってこう語りかけるのでした。「君が呼んだから、来てくれたんだよね?」
およそイデ隊員らしくない、いただけないセリフです。が、これもまた、アラシ隊員のスパイダー(光線銃)を勝手に持ち出してネロンガを倒そうとした(同年代の視聴者が見ると非常にイライラする)ホシノ少年への、素早いフォローなのでした。
ホシノ少年はイデ隊員に感謝しなければいけないところです。でも、なにぶんまだ子どもなので、分からないでしょう。ハヤタ隊員のほうが、カッコよく頼もしく思えるでしょう。いいのです、いいのです。イデ隊員の本当の深さが、子どもにすぐに分かってたまるか、なのです。
> それにしても、『ウルトラマン』初の四肢の怪獣、電気を食うネロンガは、いかにも怪獣という風情があって良いですね。
爬虫類のイメージがあるからでしょうか、四肢怪獣は一見グロテスクな印象が強いほど僕の好みです。そういう意味では、四肢怪獣の登場が多かった昭和の「ガメラ」シリーズ、あれは大したものだった。バルゴンやジャイガーなんか、あともうちょっとで気分が悪くなる寸止めのデザインだし、近くに寄ればいかにも異臭が漂いそうだし、邪気たっぷりでサイコーでした。
『ウルトラマン』の場合、第1話のベムラーは、スチールなどで本当によく目にする怪獣の1つですので馴染み深い存在ですが、よく見れば、凶悪さを出したいのかユーモラスな雰囲気も残したいのか、ちょっと方向性が定まらない感じです。一方、第2話のバルタン星人は、いきなりウルトラ怪獣の最高傑作。フォルムも設定上の内実も、ほぼ完璧です。出し惜しみしないことの美とでも申せましょうか。そうそう、「フォッフォッフォッ……」とあの声で笑う時、バルタン星人は黄色い目を動かして見せるのだとDVDを見て知りました。でも、まだウルトラマンの露出が少ない第2話においてはカッコよすぎて、ウルトラマンより目立ってしまう嫌いが。だから戦いは夜の空中戦が主体で、ウルトラマンとバルタン星人が直接絡むカットは少なかったのかな。
ネロンガのように適度にグロテスクな雰囲気をまとった地上の怪獣を相手にして、やっとウルトラマンの銀と赤の流線形のボディが映え、ヒーローとしてのイメージが打ち出せるようになったのだと思います。
ネロンガは発電所を襲い、電気を食べると「電子イオンの働き」で姿が見えるようになる怪獣です。ということは、侍に一度は退治されたと伝えられている頃(電気を大量に食べて巨大化する前)は当然、電力発明以前の時代ですから、雷が落ちた時や何らかの気象条件で大気に静電気が溜まった時など以外は、ほとんど姿が見えなかったことになります。そういう怪物は、当時はなんと呼ばれていたか? 妖怪変化か、あるいは霊獣か。
そう連想していけば、怪獣は四肢のほうがウルトラマンの姿が映えるというイメージの根拠も、だんだんと見えてきます。なにしろ、ウルトラマンと怪獣が戦う姿ほどの超自然的光景なんて、ふつうは絶対に見られません。霊獣を鎮める使命を帯びた者としてのウルトラマン……。ここらへんについては、また今後書いていきたいと思います。
第3話においては、ネロンガを倒したウルトラマンが飛び去った直後、ひょっこりと戻ってくるハヤタ隊員を見て、「おっかしいな、あいつ……」と、イデ隊員が1人だけ不審がるのがポイントです。
第2話で「僕はてっきりハヤタさんがウルトラマンかと思いましたよ」と危険球発言をしたイデ隊員が、実はまだ〈ハヤタ隊員=ウルトラマン〉の秘密に疑いを抱いている! しかも、「ハヤタさん」と後輩口調だったのが「あいつ」に戻っていたりして。科学特捜隊の職場の位置関係も含めて、イデ隊員にはまだまだ底知れぬ面があるのでした。
今回も順調に長くなってしまいました。まだシリーズの序盤なので仕方ない、と開き直ります。
イデ隊員の〈男のなかの男〉度が高いセリフは、これです。
イデ隊員のおとこ語録:第3話 「一時的に関東地方全部の発電を止めたらどうでしょう?」
発電所を襲うネロンガの対策を話し合っている時のセリフです。すぐに「バカを言うな、イデ!」、アラシ隊員に、電気が止まれば都市の機能はマヒしてしまうんだぞ、と叱られてしまいます。イデ隊員の三枚目キャラを利用した〈誘導ボケ〉セリフの1つです。イデ隊員をたしなめる形で、電気が現代の暮らしにいかに大切か、子どもの視聴者へ向けた説明ができています。
で、僕はさらに加えて、打ち合わせの場でこんなスッコーンと抜けた案を出す。そこにイデ隊員の凄みを感じるわけです。企画・プランニングの会議で斬新な切り口のアイデアを出すのに苦労した経験がある人なら、分かるでしょう。ああいう場は、まずアホな案をダメモトでも言い出す勇気のある若手がいると、大変に助かるものです。「いやいや、さすがにそれはないぞ……(苦笑)」と空気が動いて、やっとみんな発言できる雰囲気になったりする。そこに大きな人材的価値があります。
出番が少なくても、アナーキーなセリフの1つはきっちりと言っておく。なんかイデ隊員に、ある種の美学すら感じてきました。
(つづく)
( 2010.8.27 更新 )
(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。
- 出演:特撮(映像)
- 発売日:2001-06-25
- おすすめ度:
- Amazon で詳細を見る
- 監督:円谷 一;飯島敏宏;野長瀬三摩地
- 出演: 小林昭二, 黒部 進, 二瓶正也, 石井伊吉(現:毒蝮三太夫), 桜井浩子
- 発売日:2009-02-18
- おすすめ度:
- Amazon で詳細を見る
TRACKBACK URL: