地球はイデ隊員の星

連載第14回 放送第10話『謎の恐竜基地』(中)

 カジュアルな夜釣りデートを楽しんでいる途中で、〈モンスター博士〉こと中村博士の研究室に閉じ込められてしまうイデ隊員と女性記者・久保さん。中村博士は15年前、ネス湖で発見した恐竜をひそかに日本に持ち帰り、ジラースと名付けて湖中で巨大に育て上げていました。
 この後は、あいにくイデ隊員にほとんど見せ場はありません。しかし、研究室の扉をむなしく叩く久保さんに「無駄だ、やめてくれ」と言うのには、ドキンとなりました。こんな冷たい口調で人に接するイデ隊員は、第10話にして初めてだからです。中村博士に壊された通信機を直さないことにはどうにもならない、無駄な疲労は慎んでくれ、と若い女性にでもピシャリと言う。これがイデ隊員の素なのではないかと僕は想像します。ふだんの明るい三枚目振りはやはり処世術的なカモフラージュで、火急の時には冷徹な素顔が出るのではないかと。少なくとも、ここで久保さんと一緒にオタオタするような男ではないと分かって、僕までなんとなく鼻が高いぞ。

 第10話の後半は、ジラースを自分の「傑作」と呼ぶ中村博士にスポットがギンギンに当たります。鴉を飼う研究室のポー的おどろおどろしさ、行き過ぎた研究の熱情が災厄を呼ぶフランケンシュタインの怪物に通じるテーマ、「海底2万哩」のネモ艦長を思わせる中村博士の暗い妄執振り。そして、中村博士の正体は実は……と発覚する際のスリラー風味。古典SFの黄金律がみごとに揃っています。
 それに加えて、戦後に世界的な話題となったスコットランド・ネス湖のネッシー生存説をうまく取り入れている。第7話でバミューダ・トライアングルをモデルにしていたことも併せて考えると、『ウルトラマン』のメインライター・金城哲夫のSF作家としての“ネタ使い”の消化力、フットワークは凄いな。思い出すのは、FBIのコンビが超常現象を捜査するアメリカの連続ドラマ『Xファイル』です。ただ、『Xファイル』が地上波で放送されていた時は科学特捜隊のことは頭に浮かばず、(同じ円谷プロが作った)『怪奇大作戦』みたいだなあと捉えていたのですが。
『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 シナリオの段階から気合の入ったエピソードだからか、音楽もここまで耳にしないトラックが使われています。ジラースが姿を現した時の、サスペンスを煽るドラム・ソロ。絶命したジラースと中村博士の姿を劇的に、レクイエムのように彩るスコア。僕らがお気に入りのテレビ番組を見る時には習慣性を楽しむところが多分にありますから、いつもとパターンの違う音楽が流れると、それだけでけっこうなショックがあります。ふだんは主題歌と同じテーマで明るく締めくくられるのに、こうして哀切な音楽で終わるとそれだけで異色編の印象が強烈に刻まれる……。しかしこの激しい演出によって〈モンスター博士〉のペットとなったジラースの哀れが強調されると、ジラースを倒したウルトラマンってかなり立場が無くなる。〈悪い怪獣をやっつけるヒーロー〉を讃える快いカタルシスで終われなくなる。作り手自身がウルトラマンの存在を否定しかねないギリギリのところに踏み込んでしまっているわけで、かくしてジラースとウルトラマンの闘いは、かなり異例づくめになっています。

 まず、ハヤタ隊員がウルトラマンに変身する時の姿が、初めて具体的に描写される。今まではハヤタ隊員がベーターカプセルをかざすとすぐウルトラマン登場でした。実際はなんとベーターカプルから光の輪が出てきてハヤタ隊員を包む。そんな風になっていたのか……。
 本連載ではハヤタ隊員とウルトラマンは果たして一心同体といえるのか? とあれこれ書いてきました。この第10話での変身シーンを見ると、連載第9回で書いた仮説(ふだんのウルトラマンはベーターカプセルの中にいて、変身=実体化の際にハヤタ隊員の肉体を一種の〈依代〉として利用する)が当たらずとも遠からずだったかと思うのですが。ここでわざわざ変身シーンを描くポイントは、ウルトラマンの体内にはハヤタ隊員の意識が存在している、ということでしょう。ウルトラマンはウルトラマンになっても、ジラースが中村博士に育てられて否応なく巨大化してしまった、巨大であること自体は問題なんだけど悪意を持った存在ではないことを知っている。なので、(カカッテキタマエ)と胸を叩くような余裕ある態度を見せ、スペシウム光線を使うまでもなく倒した後は、もぎ取ったエリマキを遺骸にかける人間味(?)あるところを見せる。

 この矛盾ある態度は、ウルトラマンという特異なキャラクター独特の苦渋ととれます。「地球ノ平和ヲ守ル」圧倒的に強い宇宙人としての自負と、ハヤタ隊員の倫理が内部で衝突しているのではないか。つまり『ウルトラマン』には製作を重ねるごとに、地を治めるために天から降った若い闘神が、生真面目で心優しい青年の体を借りることによって徐々に怪獣もまた命あるものだと学んでいく、神話的かつ教養小説的な裏構造さえ醸成されているのではないか。ジラースを前に「ハハハ」と笑ったりいばったりしてみせた末、絶命させてしまった後味の悪さに立ちすくむウルトラマンのブレまくった姿は、異様でありつつ、ラゴンやゲスラなどをあっさりと倒してきた時よりは遥かに魅力的なのです。
 いずれ僕は本連載で、中学生ぐらいの頃からボンヤリと転がしていた想念-「古事記」を読むとなぜかウルトラマンが頭に浮かぶ-について、ちゃんと書かねばならないようです。

ウルトラマン Vol.3 [DVD] ここまで書くと、ウルトラマンにかなりの内実を与えたジラースにこだわる必要が出てくる。怪獣としてはさほど強くない部類に入りますが、なにしろ誰にでも分かるぐらい、ゴジラと近い種族だからです。そして実際、撮影にはゴジラの着ぐるみが流用されている。
 正確には、胴体はシリーズ第4作『モスラ対ゴジラ』(64)で使われていたもので、頭部は第6作『怪獣大戦争』(66)に使われたのと同じモデル。これをつなぎ合わせたそうで。また、元祖ゴジラ俳優で知られる中島春雄は、ジラースとゴジラとでは演技を変える工夫をしたそうです。ナルホド、意識して見直すと、ゴジラでは見られないポーズ、動きをジラースは見せます。
 これらの情報は、今年(10年)の夏に洋泉社から出版された「怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄」を読んで知りました。本連載ではキャラクターと演者がゴッチャにならないようなるたけ俳優については語らない方針で、だからこの第10話にウルトラマン役の古谷敏がチラッと出てくるファンにはお楽しみ場面もスルーしますが、それでも「怪獣人生」と、古谷が去年著した「ウルトラマンになった男」(小学館)の2冊は触れざるを得ない。どちらもメチャメチャいい本です。特に「怪獣人生」のデータ・写真の充実は鬼気迫るものあり。月刊誌の「スターログ日本版」ぐらいしか情報ソースが無かった中高生の頃にこんな本が出ていたら、興奮で発狂しかけたでしょう。「ウルトラマンになった男」にも、初代ウルトラマンを演じた唯一の俳優の回顧という貴重な価値があり、今後の重要文献となるのは間違いないと思います。

 ジラースはベテランのゴジラ俳優が演じている怪獣で、なおかつゴジラとは違う怪獣として登場するのですが、ウルトラマンはその、せっかく付けたエリマキをもぎ取り、強引に〈ゴジラ対ウルトラマン〉の図式に持っていってしまう。当時のゴジラはすでにキングギドラなどの悪役怪獣を倒す側にまわり、ユーモラスな動きを見せる〈安全な人気者〉になりつつあるところですから、〈ゴジラ対ウルトラマン〉が力比べをするあたりの演出には、人気スター競演の花相撲的な明るさがあります。しかし、どちらかが倒れねばならないために、結末はどこか陰惨なものに……。
 ジラースに寄せる哀惜の演出には具体的には、特撮映画のパイオニアである東宝の大スター・ゴジラに円谷プロのニューヒーローが勝ってしまうことへの免罪符的な意味合いはあっとた思います。気を使った、ということね。つまり〈ゴジラ対ウルトラマン〉は、エースとエースに勝負をさせる、本来はやっていけない一種のタブーなんです。
 そういう難しいところに手を付けてしまった話だからか、ジラースの設定自体は、製作当時のゴジラ・シリーズとは離しています。むしろ初期にあったテーマが、この第10話でもう一度変奏されているとみたほうがいい。第1作の『ゴジラ』(54)とはどんな映画だったのか、改めて考えてみざるを得なくなってきました。

(つづく)

( 2010.11.5 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2010/11/05/14:15 | トラックバック (0)
若木康輔 ,地球はイデ隊員の星
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