雨宮 慶太
(映画監督・キャラクターデザイナー)
映画「牙狼<GARO>
~RED REQUIEM~」について
2010年10月30日(土)より、
新宿バルト9ほかにて全国3Dロードショー!
現在絶賛公開中の映画『牙狼<GARO>~RED REQUIEM~』は、2005年に放映されていた深夜テレビシリーズ『牙狼<GARO>』の劇場版にあたる。放映終了後も根強い人気を誇っている人気番組を、世界的にも珍しい本格3D映画として新たに甦らせた雨宮慶太監督にお話をうかがった。テレビシリーズ製作当時のお話から『牙狼<GARO>』そのものを特徴づけているデザイン、更には監督の描くヒーロー像について……など、『牙狼<GARO>』だけでなくこれまでの雨宮作品の魅力に迫ったファン必読のインタビューをお届けする。(取材:ガイガン山崎・かとうあきら)
雨宮 慶太 (映画監督・キャラクターデザイナー)
1959年8月24日生まれ、千葉県出身。有限会社CROWD代表。1988年に『未来忍者 慶雲機忍外伝』で監督デビューを果たしたのち、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)でTV作品初演出にして、パイロット版の監督に抜擢される。近年では、『鉄甲機ミカヅキ』(2000)や『魔法少女隊アルス』(2004)などのように自ら原作を手掛けることも多い。また、キャラクターデザイナーとしての顔も持っており、自作を含めた様々な作品のデザインを手掛けている。
●原作者・雨宮慶太
――今回の映画は、原作者でもある雨宮監督ご自身がメガホンをとられていますが、2005年に放映されたテレビシリーズには、雨宮監督も含めて総勢4人もの監督がいらっしゃいましたよね。こういった形式の場合、各回で雰囲気にバラつきが生じがちだと思うのですが、実際に放映されたエピソードは、いずれも雨宮作品としか言いようのないものに仕上がっているように感じられました。
雨宮 そうだね。これまでの作品の場合、合成からアクションから全部ひとりでやっていくので精一杯って感じだったんだけど、『牙狼<GARO>』はそうじゃなかった。ある程度、チームでやっていくことが決まっていたから、きちんと自分の作家性の部分を出すようにしてたんだよ。アクションに関しても、「こういうシチュエーションで、ああやって撮ろう」程度のことは考えるけど、細かい手や何発殴るかっていうのは、アクション監督に全部考えてもらってた。自分は、作品の流れる空気感……誰がどの役をやるのか? どういうストーリーにするのか? この回のトーンは、赤なのか青なのか? そういうところを考えてたんだ。各スタッフに対しても、「こうしてください」っていうよりは、「こういうふうにするには、どうしたらいいか考えて」っていう振り分け方をしていった。以前よりも、わりと他人に仕事をやらせる頭になってきたってことなのかな。そうやって楽をする代わりに、作品の毒というか、作品の癖のほうに力を注いでたのが『牙狼<GARO>』。ほら、オリジナルヒーローって、万人受けを狙って、どうしてもクセがなくなっちゃうじゃん。そういう意味では、『牙狼<GARO>』はクセのある作品だと思うんだよね。自分がやった作品の中で、最もポピュラーな存在になりつつあるからこそ、なおのこと強く作家性を出すべきだろう、と。
――それが、テレビシリーズのクレジットにあった「原作・総監督」というお仕事の内容なんですね。
雨宮 うん。つまり作品に(雨宮印の)ハンコを押す仕事だね。ハンコを押せるだけのものができあがれば押せばいいし、そうでなかったらやり直してもらえばいい。今までは、そのハンコを押す書類まで、自分で作っていたワケだ(笑)。まぁ、それだけ奇跡的に優秀なスタッフが集まったってことだよね。今までアクション監督をやっていた阿部(光男)ちゃんは、どちらかというと殺陣師に近いアクション監督で、コンテ的なものは僕に依存していたんだけど、(『牙狼<GARO>』のアクション監督・横山)誠はアメリカで監督もやっているから、わりと丸投げしちゃって、できあがったものを見せてもらって、「こことここだけ直そう」っていうことができた。合成にしても、オムニバス・ジャパンのほうで考えてきてもらったものを採用するかしないか決めるくらい。たとえば、「ビルから落下しながら戦う」っていうシチュエーションさえ決まったら、大体もう見えてきちゃうんだよね。そこで3発殴ろうが、5発殴ろうが一緒っていうか(笑)。それよりも何話で何が出るとか、このタイミングでこのキャラクターが出るとか、そういうところのほうが、意外と大事だったりするんじゃないかと思ってる。今回の映画も、わりとそういう感じなんだよね。こんな感じで始まって、最後は鏡の中に入ろう、とか。
――なるほど。『スター・ウォーズ』シリーズにおけるジョージ・ルーカスに近いスタイルですね。
雨宮 まぁ、ルーカスよりは仕事してるんじゃないかな(笑)。あれは楽チンだよね。やっぱり前から自分の作品を観てくれてる人に、楽しんでもらえればなっていう想いはあるよ。「雨宮慶太、なんか毒がなくなっちまったな」って思われるのが、一番嫌だなぁ、と。そこは最もこだわっているところなんで。どうしても映画っていうと、モブがガーッと出てくるとか、『ロード・オブ・ザ・リング』みたいな始まり方になっちゃうじゃん。そこは、いきなり自分の絵から始まったほうがいいよなって思う。映画は始まって3分くらいで、すぐに誰が撮った作品なのか分からないとね。『牙狼<GARO>』から入ったファンなら、「『牙狼<GARO>』っぽいね」って思ってくれるだろうし、前からのファンは「雨宮っぽいね」って感じてくれるんじゃないかな。
●デザイナー・雨宮慶太
――“雨宮っぽい”といえば、牙狼の鎧には、過剰と言ってもいいほどのディテールが施されていますよね。これまでの雨宮キャラクターとは、デザインの方向性に若干の違いが感じられたのですが。
雨宮 “シルエット的に描きやすいもの”っていう基本は、まったく変わってないよ。『ゼイラム』や『人造人間ハカイダー』と同じラインのデザインのつもり。たとえば、ミカヅキなんかは、牙狼よりもディテールが多かったんじゃないかな。ただ、『牙狼<GARO>』っていう作品では、(東映の)宇宙刑事シリーズよりも、さらに突き進んだ鏡面仕上げのメッキヒーローをやりたかったの。シンプルなデザインをメッキでやると、どんどん間延びしていくんだよね。それにラインを多くしておかないと、鎧に人物とかがハッキリ映り込んじゃって、処理に必ず苦労してしまう。あの過剰に施された装飾は、メッキのキャラクターを作るうえでのひとつの答えだね。で、意味もなくラインを増やすわけにもいかないんで、他の魔戒騎士たちよりもスペシャルな黄金騎士ならではのエンブレムとか、そういったものを入れていった。基本的にミカヅキのデザインを、そのままメッキにしただけなんだよ。実は、何の変化もない。にも関わらず、ディテールが細かく感じられたっていうのは、ひとえにメッキのヒーローだったからだろうね。表面に映り込んだいろいろなモノまで、鎧のラインの一部として目に入ってくるから、すごく情報量の多いキャラクターになってる。
――なるほど。まずメッキありきのキャラクターだったわけですね。メッキ以外で、特にデザインで意識されたことはありますか?
雨宮 『牙狼<GARO>』は、玩具の制約がない作品だったんだけど、そういう作品で玩具の制約があるようなデザインをするのが好きなんだよね。変な話、みんなの中にマーチャンダイジングに則ったヒーローが刷り込まれているせいで、その文法から外れたヒーローって、ちょっと違うものに見えちゃうんだよね。それを考えると、マーチャンがあろうがなかろうが、そういった認識を活かしたほうがいい。あまりやりたくはないけど、パワーアップ的なものも欠かせないのかもしれないね。これはデザインではないけど、鋼牙が鎧を召喚するとき、頭上で剣を回すでしょ。これだって、別にやらなくてもいいんだ。そんなことやってる間に、敵から攻撃を受ける可能性だって、充分にあるわけでさ(笑)。でも、ひとつの儀式、セレモニーじゃないけど、ああいうのがないと、観ているお客さんも落ち着かないんじゃないかな。歌舞伎の見得みたいなもんだからね。デザインに限らず、そういう文法はすごく意識したね。
――これまで雨宮作品で貫かれてきたオリエンタルなビジュアルも、『牙狼<GARO>』では控えめでしたが、ここには意図的なものがあったのでしょうか?
雨宮 昔ほど、こだわらなくなってきたっていうのもあるけど、そもそも和的なものを一切排除するところから始めた作品なんだよ。まったく違うところを出発点にしないと、もう新鮮味がないからね。表札や車のナンバープレートも、ちゃんと貼り替えるようにしてた。まぁ結局、魔戒法師とか出しちゃったワケで(笑)、要するにそういう和的な絵面が好きってことなんだろうな、きっと。
――西洋的なSF・ファンタジー作品に、和のイメージを盛り込むという発想は、そもそもどこからきているものなんですか?
雨宮 単純な話、自分が日本人だからだね。僕は大体、いつも勝ち負けで考えるんだ。外人……ハリウッド映画に勝つか、負けるか。ずっと負けっ放しなんだけど、どこかでとどめを刺すには、たぶん日本人的なものが……それぐらいかなぁ。筆文字勝負だったら、ジェームズ・キャメロンにも勝つ自信があるんだよね。スティーブン・セガールには負けるかもしれないけど(笑)。これは、デビューのときから言ってることなんだけど、日本人の役者さんがいて、それを撮影するキャメラマンも日本人で、日本人のスタッフで作ってるわけだよね。で、日本の水で現像する。今はもう水は必要なくなって、そのぶん国境の差はなくなってきてるけど、昔は国によってフィルムの質感も違ったような気がする。でも空気感……空とか道路の色が、国によってバラバラなのは今でもそうだし、その反射で人の肌つやも変わってくるのも一緒。だから、日本という環境で撮っている以上、和的なものは排除するんじゃなく、逆に入れていかないと駄目だと思う。
▶『監督・雨宮慶太』につづく
- 原作・総監督:雨宮慶太
- 出演:小西大樹(現:小西遼生), 藤田 玲, 肘井美佳, 螢 雪次朗
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- (監修):東北新社
- (編集):特撮ニュータイプ
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主なキャスト / スタッフ
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