朝倉 加葉子 (監督)
映画『羊とオオカミの恋と殺人』について【2/3】
2019年11月29日(金) TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――この状況をシリアスに捉えると本当に大変なことだと思うんですが、映画として成立しているのは主演お二人の魅力のおかげでもあると思います。原作よりも透明感が増した主人公のキャラクターに、杉野遥亮さんと福原遥さんがとても合っていました。引きこもり男子の黒須を演じた杉野さんは、極端な設定の中で、恋愛に葛藤しながら成長していく姿を自然に演じていました。
朝倉 すごくピュアなイメージがある方だな、というのが杉野さんの最初の印象ですね。きれいな方で、イケメンの役をたくさんされているんですが、普通の男の子の役を演じるときに不思議な説得力が出る方だなあと、お仕事をして思いました。
――コミカルな演技が上手だなあと思いました。公園で洗濯しているシーンがすごくよかったなと。
朝倉 そうですね、”普通”というより今回はかなり底辺寄りですよね(笑)。杉野さんはちょっとだけ気弱な感じで佇んでいるのがさまになる方ですね。映画の中で柔らかい存在でいられる方で、素敵だなあと思います。
――宮市役の福原さんは、アクションシーンもあって大活躍をされていましたね。殺人鬼のイメージからは程遠い可憐な女優さんですが、ご本人もオファーに驚かれたのではないでしょうか?
朝倉 最初にプロデューサー陣から宮市役の候補として福原さんの名前が上がったときに、「それは面白いかもしれない!」とすぐに思ったので、受けてくださってよかったなと思いました。で、お話をしてみたら、福原さんはもともと「殺人鬼の役をやりたい」と公言されていたみたいで、むしろ「長年の夢が叶いました!」みたいな(笑)。
――そうなんですか。映画の中でも宮市の清楚な見た目と殺人鬼としての本性のギャップに驚かされましたが、福原さんは嬉々として演じられていたわけですね。
朝倉 福原さんは最近はハードな役を演じることも多いんですけど、しっかり「殺人犯がやりたい」と思っていたというのはすごく面白いなあと思いました。挑戦してみたいというのもあるだろうし、映画やドラマの殺人ものに肯定的な意識をお持ちなんだろうなとお仕事をしながら思いました。ただ、今回はただの殺人鬼ではなくちょっとサイコパスで、彼女独自の哲学があって殺人に興味を持っているという設定なので、恨みがあって殺す、といったわかりやすい行動原理ではないんです。「彼女がここで楽しそうにしているのは彼女の哲学の中でOKだから」とか、「こういうことをすると悲しくなるから彼女の哲学の中でこれは正しくない行為だ」とか、行動と感情が哲学に沿っているかどうかをひとつひとつ確認するという作業をしました。福原さんはそこも多分楽しんでくれたと思います。
――宮市の独自の哲学は、人を殺すときの流れるような動きにも表れていますよね。振付家の方につけてもらった動きとのことですが、これも秀逸だなあと。表現として美しくて斬新ですし、腕力のない女性でも力を無駄なく使えるのかも……という説得力もありますし。
朝倉 シリアルキラーが独自に殺し方を研究し、しかも小柄な女性が殺人を重ねてバレない、という設定をどうやって成立させようかな?と思って。もっとシンプルに日本刀アクションのようにしようか?とかいろいろ考えたんですけど、ダンスに詳しいプロデューサーから「振付家に相談してみるのはどうか?」とアイデアをもらい、それは面白そうだと思ってダンサーで振付家の青木尚哉さんにお願いしました。青木さんもそういう形での振り付けは初めてでした。ダンスではなく“ダンスを使った殺人アクション”というものになるので、美しいだけで終わらず、ちゃんと殺せるように考えてくださいました。
――宮市の衣装のひとつであるシースルーのレインコートもインパクトありますね。『ブレードランナー』オマージュかな?と思いました。
朝倉 ああ、そうですね。全然思っていなかったですけど(笑)。ちょっと可愛いレインコートがいいなと思ってポンチョを提案していたんですが、なかなかいいのがなくて、衣装さんが探してきてくれたのが形はオーソドックスだけど素材やパイピングのデザインが可愛いこれでした。
――可愛いですよね、赤ずきんちゃんみたいで。それもタイトルの「オオカミ」に合うような(笑)。『羊とオオカミの恋と殺人』というタイトルは誰の案ですか?
朝倉 私がつけました。
――朝倉監督の作品は、タイトルにもいつもこだわりを感じます。このタイトルは映画の要素そのままという気もしつつ、観終えると「どっちが羊でどっちがオオカミだろう?」みたいなことを考えさせて、深いですよね。
朝倉 そうですね。長めのタイトルなんですけど、可愛らしさもあり、フックもあり、いいタイトルかなと思っています。原作の『穴殺人』も素敵なんですが、今回はラブコメにするので映画題をつけさせていただくことになって、いろいろ出したんですが、ギリギリでこれを思いつきました。
出演:杉野遥亮,福原遥,江野沢愛美,笠松将,清水尚弥,一ノ瀬ワタル,江口のりこ
監督:朝倉加葉子『クソすばらしいこの世界』 脚本:髙橋泉 音楽:渡邊崇
原作:裸村「穴殺人」(講談社週刊少年マガジンKC刊)
主題歌:ロイ-RöE-『癒えないキスをして *』(ワーナーミュージック・ジャパン/unBORDE)
製作: 岡本東郎 花田康隆 プロデューサー:行実良 村山えりか 齋藤寛朗
スーパーバイジング・プロデューサー:久保田修 アソシエイトプロデューサー:上原大也 撮影:早坂伸
照明:大庭郭基 録音:浦田和治 美術:小竹森智子 装飾:中村三五 編集:武田晃 スタイリスト:山﨑忍
ヘアメイク:望月志穂美 振付:青木尚哉 製作幹事:VAP 制作プロダクション:C&Iエンタテインメント カズモ
配給:プレシディオ 宣伝:ウフル © 2019『羊とオオカミの恋と殺人』製作委員会 © 裸村/講談社
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