ヴァンサン・ランドン (俳優)
公式インタビュー 映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』について【1/2】
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2016年8月27日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
年老いた母と息子の最期の日々の交流を描いた感動作『母の身終い』(12)のステファヌ・ブリゼ監督と名優ヴァンサン・ランドンが再びタッグを組み、社会派ドラマとしては驚異の観客動員数100万人を記録した『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で、2015年カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞したヴァンサン・ランドンの公式インタビューをお届けする。
STORY ティエリーはエンジニア一筋で働いていた会社から集団解雇された。当初はストライキを起こしてでも闘うと仲間に息巻いていたが、結局、会社を辞め職安に通うことになる。頑固な彼は今さら、就職面接を受けても上手く対応することができない。就職訓練の場でも、年の離れた若者からその堅さを容赦なく指摘されて、面目をなくす。そんな彼の唯一の救いは、妻と身体障碍を抱えた息子の存在だ。家族といる時は、世間の厳しさを忘れることができる。 ティエリーはようやくスーパーの警備員の仕事に就くことができる。希望していたエンジニアの仕事ではないが、今はそんなことは言っていられない。しかし、彼はそこで、買い物客だけでなく自分の同僚たちまで不正をしていないかを監視し、発見した場合には告発しなければならないことを知る。ある日、告発によって、従業員の一人が自殺し、彼は会社側の厳しい対応に内心疑問を覚えるが――。
――社会の過酷な部分をテーマにした本作がヒットしたことについてジレンマはありますか?
ヴァンサン・ランドン(以下VL) なぜだかわからないけれども、人々に感動を与えて成功する映画があると思えば、成功してもいいのに多くの人たちから受け入れてもらえない映画というのもあります。私たち映画を作っている人間、監督・俳優にはその理由がわからないんです。なぜこの映画が大成功するのか、なぜ観客はこの映画を観に行くのか、作った時点で少しは成功するだろうと思う映画はあります。成功するとは誰も思わなかった映画もあります。そして、成功してもいいような映画が観客の拒絶にあう場合もあります。私たちはどこでどんな失敗をしてしまったのか、何かプロモーションで言うべきでないことを言ってしまったのか、それがわからないんです。こうした映画というものは、観客との間でこういった不思議な関係にあります。
この映画の話を持っていくと、ほとんどの人が絶対うまくいかないと言っていました。失業者が主人公で、その失業者が仕事を見つけてまた失う。主人公は55歳で、障害者の息子がいて、とにかくそういう条件だけで、観客の足が遠のくような要素ばかりです。ですからこの映画を作るときに、とにかく低予算でつくろうと。そうすることによって、いろんなところからの圧力を避けられます。フランスで5000人が観てくれればいい、そういう風に始めたんです。そう思っていたところカンヌ映画祭の映画の審査部門から、この映画がコンペティション部門に選ばれるという話があって、その影響も大きかったんですけれども、そのあとこの映画がまた賞をとった。ということで、フランスでとても評判になりました。
そして、観客の人はおそらく素人が演じているということにも興味を持ったのかもしれません。自分と近い、自分と同じような人たちがこの映画の中で演じていて、その人たちがどんな演技をしているのかを見てみたいと思ったのかもしれません。
――役者として華やかな舞台で活躍されてますが、一般の市民の中でも割と下層というか恵まれない環境に生きる人を演じるにあたっての役作りについて
VL 確かに私はフランスではこうした今回のティエリーの役、一般人というか大衆を演じることで知られていますし、私自身もそういう役がとても好きです。そして、おっしゃるように私も家庭はブルジョワなんですね、ブルジョワの出身なんです。ですから、こうしてこういう演技に説得力があると人に言われる時は、私は役者なんだなと実感して安心もします。そして父親もティエリーのような人たちととても近い人でした。ですから子供の頃からこうした価値観を父親から教わってきました。こういうティエリーのような人といる方が私も好きですし、実際に安心しますし、自分の階層の人たちといるよりも、安心します。俳優たちと食事をしても、実際は面白くありません。彼らは自分のこと、自分が抱えている小さな問題、そういう話しかしませんし、彼らは全くセクシーではありません。それよりは、いろんな仕事をしている、ほんとに世の中と直接的かつ現実的なつながりを持つ仕事をしている普通の人たちと食事をしたり、話をしたり、バカンスに行ったりする方が私は好きですし、そういう人を演じることが好きです。
――そういう方々との交流が役柄に現れているのでしょうか?
VL 実際はわかりませんが、私自身、自分の仕事を完全にやり遂げる、完全にすることがとても好きです。ですから、その役を演じきって、そして、それが説得力を持っていること。それがとても私にとっては大切なことで、その役を演じるにあたって私が重要視しているのは、どんな風にその人が動くか、どんな洋服を普段着ているのか、どんな風に飲むのか、どんな風に食べるのか、そういったことなんです。私にとって重要なことは、形式であって内容ではないんです。形式の方が内容よりも大切なんです。ですから、まず形から入って、その内容というのはあとから付いてくるものだと考えているんです。もし、その主人公の役・人物がどんな服を着ているか、どんな車に乗っているかを無視して、例えば心理描写だけを念入りに勉強して用意したところで、決してそれは信じられるものではないと思います。フランスではよくこういう風に言います、同じような表現が日本にあるかどうかわかりませんけども、「人は見かけによらない」というふうに言います。でも、私は「人は見かけによる」と言いたいです。
――演じる上で今回の役は難しい役だったと思うのですが、他の役よりも難しいとお感じになりましたか?
VL 今回の役が他のこれまでの役に比べて難しいというふうには思いませんでした。ちょうどいい時に、この役が自分に当ったと思っています。ただこの役が5年前にきていたら、おそらくそれは難しかったと思います。今回は十分に準備ができていたと思います。自分の中でこの役を演じる準備ができていたと思います。同様に、次に撮った彫刻家のオーギュスト・ロダンの作品、この役もそうです。もし3年前にロダン役の話がきていたら、おそらく私はやっていなかったと思います。今回受けたわけですけど、8か月間彫刻を学び、8か月間デッサンを学び、日に7時間ほどそれを勉強しました。この役のために髪を短く切って髭を伸ばし、1900年代のロダンの人生を自分で生きたわけです。ただこの役も、前に話が来ていたら受け入れられなかったかもしれません。こういったことはよく恋愛と同じようなものだと思っています。とても愛し合っているカップルがいて、こんなに愛し合えるなら、もっと前に出会っていればよかったねというふうな話をすることがありますが、私はそうは思いません。もしもっと前に出会っていたら、おそらく好きになっていなかったと思います。若すぎたということです。
監督・脚本:ステファヌ・ブリゼ『母の身終い』『愛されるために、ここにいる』
脚本:オリビエ・ゴルス
主演: ヴァンサン・ランドン『母の身終い』『すべて彼女のために』
出演:カリーヌ・デ・ミルベック,マチュー・シャレール
2015年/フランス作品/カラー/93分/シネスコ/5.1ch/DCP/原題:La Loi du Marche
配給:熱帯美術館 ©2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA
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