ヴァンサン・ランドン (俳優) 公式インタビュー
映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』について【2/2】
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2016年8月27日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
――ステファヌ・ブリゼ監督と何作も撮られてらっしゃいますけど、どのように信頼関係を築いていかれたのでしょうか?
ヴァンサン・ランドン(以下VL) 答えはもうほとんどその質問の中にあると思うんですけれども、相手に信頼感を持てばいいのです。よくインタビューで説明をしなくてはならない機会によく出会いますけれど、こういったことは自然にそうなっただけで説明できるものではないんです。それは恋愛関係にも共通していると思います。よく愛し合っている二人にお互いのどこがよかったの?というふうに聞いても、それはなかなか説明できないことであって、お互いが一目ぼれであり、お互いに出会って3秒くらいで何かが気に入るわけですね。映画も同じで、私はこのステファヌ・ブリゼ監督との信頼関係、二人の間の関係というのは映画を撮る度にますます良くなっていく。ただ、関係が良くなるというのは、映画を撮っている時は全く考えもしませんし、感じもしません。ただ撮っていくたびに私たちはますますお互いを信頼するようになり、好きになり、そして今回この映画が3本目だったんですけれども、この映画を撮ったことによって、またお互いを理解し好きになり、お互いの信頼も深まり、そしてお互いのことが良くわかり、しゃべる必要がないくらいにお互いを理解しています。そして、また来年ステファヌ・ブリゼ監督と新しい映画を撮ることになっています。
――新しい映画はどういった作品ですか?
VL 今、ステファヌ・ブリゼ監督が脚本を書いているところなのでまだはっきりとは、、、本作は現代の世の中のことを語っていて、現在の私たちが生きている社会のことを語っている話ですが、次回作はその中で何かしら信仰を持っている、そういう人の話です。こうして私たちが生きている暴力的な世界では、何でもいいので何かを信じること、信仰を持っていないと生きていけないのではないか、そういう話です。
――日本の映画俳優や監督で好きな人はいますか?
VL もちろんいますよ。北野武監督は好きな監督です。実は黒沢清監督にフランスで会ったんですが、それは彼の映画に出演する為だったんですけれど、最終的には私ではなく他の俳優さんが選ばれたので、彼の映画に出演することはできませんでしたが、私はとても日本の映画に出たいと思っています。ですから、日本でそういう機会があればとても嬉しいです。日本人の監督は外国国籍の俳優をあまり使わないですよね。なぜかはわかりませんが、例えば、日本人がフランスの俳優を使ってパリで映画を撮る、もしくはパリにいる日本人を主人公に映画を撮る、そういう話すごく面白いと思うんですけどね。
――日本を舞台にした作品に出演したいですか?
VL そうですね。日本で起こっている話で、日本人が書いたシナリオで、もちろん日本語はできませんが(笑い)ヨーロッパ人が日本と対面する話にぜひ出てみたい。
――今、フランスを始めヨーロッパでは、テロの脅威が凄くあって、いろんな社会的な問題が浮き彫りになったりして、人々の生活もちょっと変わってきているんじゃないかと思うのですが、映画界をはじめエンターテインメント業界の方々なども、テロ以降何かを自重しなければならなくなったとかそういった変化はありましたか?
VL 俳優も監督も人間ですし、私たちにも子供がいますし、一人の市民なんです。映画が何か変わるというよりも、一人の人間として、やはりすべてが変化したと思います。まあ地震の様なものです。地震があればパン屋も普通の人も天皇も失業者もすべての人が変わりますよね、その影響を受けますよね、大地が揺れるのですから。
――この作品でプロデューサーとしても関わっていますが、その理由はなんですか?
VL まず私自身、監督ととても近い存在で友人でもあるのでよく会っているんです。一緒にディナーをしているときに、「ちょっと実験的な映画を作ってみたい」という話になりました。その実験的なものというのは、素人の役者、全くプロではない役者を使って、2週間くらいで、しかも映画の撮り方もこれまでにないような撮り方でやってみたい。例えば、普通はカメラがそこにあって、そこに役者が入ってきて撮影をするんですけれども、今回は役者の方がそこに先にいてカメラが付いていく、カメラが役者を追っていくという、カメラより先に役者がいるわけです。カメラが役者より先にいるということがないんです。そういう撮り方をしてみたいと思いました。そうすることによって、観客が主人公のティエリーと一緒にその場面場面に遭遇していくわけなんです。そしてまた今回はとても低い予算でした。ただ私自身、このプロジェクトにとても興味を持っていたので、私はフランスで有名ですから、こういう有名な人がプロジェクトに参加するということで、1つの意味をこの映画に与えることができると思いました。まあそういうこともあって、私と監督ともう一人のプロデューサーの3人で、テレビ局や他の出資可能なフランスのあらゆる補助金の制度などで資金を集めました。と言っても1本の映画を撮るにしてはとても低予算です。
――この映画はドキュメンタリー的な要素もあると思うんですけども、今のフランスの社会情勢や政治情勢を反映しているのですか?
VL 今日、世界で起こっていること、世の中で起こっていることはほんとに恐ろしいことです。例えば、そういう事実に近いことを見ると、皆さんすぐにドキュメンタリーという風に言われるんですけれど、実際にはそれが私たちの人生なんですね。これはフランスでもヨーロッパでもアメリカでもそうなんです。日本では、今のところそういう恐ろしい事実はないかもしれませんが、それが私たちの人生なんです。世界中に90億の人たちがいますけれども、その内20億の人しか実際には食べていけていないんです。例えば、こうしたステファヌ・ブリゼのような社会的な映画を撮る監督は、ヨーロッパにはケン・ローチやダルデンヌ兄弟がいます。ただこうした社会的な映画を撮る監督というのは、はるか昔からいたわけです。フランク・キャプラがゲイリー・クーパーを使って撮った『群衆』という映画は1929年のアメリカの世界恐慌を取り上げたまさに社会的な映画です。こういう映画はとても重要でした。またチャーリー・チャップリンは『モダンタイムス』などやはり社会的な映画を撮っています。
本作は、やはりリアリティーがありますし、ドキュメンタリーに近い自分たちの人生に近いものがそこに描かれています。決して映画は嘘を語っていません。とても現実に忠実なんです。それはとても残念なことなんですけども、これが私たちの日常であり、世界中で普遍的な日常なんです。
監督・脚本:ステファヌ・ブリゼ『母の身終い』『愛されるために、ここにいる』
脚本:オリビエ・ゴルス
主演: ヴァンサン・ランドン『母の身終い』『すべて彼女のために』
出演:カリーヌ・デ・ミルベック,マチュー・シャレール
2015年/フランス作品/カラー/93分/シネスコ/5.1ch/DCP/原題:La Loi du Marche
配給:熱帯美術館 ©2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA
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