インタビュー
リー・ワネル監督/『アップグレード』画像

リー・ワネル (監督)
監督公式インタビュー
映画『アップグレード』について

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2019年10月11日(金)より渋谷シネクイント、新宿シネマカリテほか全国公開

『ゲット・アウト』、『セッション』、『ブラック・クランズマン』 などアカデミー賞®作品から『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ、『インシディアス』シリーズ、『ハロウィン』 などのホラー作品まで手掛ける気鋭のプロデューサー ジェイソン・ブラムの新作『アップグレード』は、 AI(人工知能) チップの力で全身麻痺を克服し、人間を超越した身体能力を手に入れた男が妻を殺害した組織への復讐に乗り出す姿を描いたSFアクション。2018年のサウス・バイ・サウスウエストのミッドナイターズ部門、第51回シッチェス・カタロニア国際映画祭オフィシャル・ファンタスティック・コンペティション部門で、ともに<観客賞>を受賞している本作でメガホンを取ったリー・ワネル監督の公式インタビューをお届けする。
リー・ワネル 1977年1月17日生まれ、オーストラリア・メルボルン出身。名門校ロイヤルメルボルン工科大学で映画を専攻し、そこで出会った映画監督のジェームズ・ワンと一緒に構想を練るようになる。2004年『ソウ』もそのうちの一つであり、ワネルが脚本を担当し出演もしている。『ソウ2』では引き続き脚本を共同執筆し、『ソウ3』でも脚本執筆に加え出演も果たす。また、本シリーズの製作総指揮でもあり、このシリーズは最も成功したホラー映画シリーズとして知られ、2010年のギネス世界記録にも登録されている。2017年には本シリーズの最新作『ジグソウ:ソウ・レガシー』も公開された。その他、製作/脚本を担当した作品は、『狼の死刑宣告』(07)、『インシディアス』シリーズ(11,13,15,18)、『ブレイキング・ゴッド』(14)など。出演作には、『マトリックス リローデッド』(03)、『ゾンビスクール!』(14)、『バイバイマン』(17)、『アクアマン』(18)などがある。脚本家や役者として着実にキャリアを積み、今は監督業も行っている。2015年、『インシディアス 序章』で監督デビューし、バラエティ誌の「注目すべき監督10名」に選出された。本作が監督2作目となる。また、2004年に映画界への功績を称える名誉ある賞「グレッグ・テッパー賞」を受賞している。
STORY 近未来。グレイ・トレイス(ローガン・マーシャル=グリーン) は妻のアシャ(メラニー・バレイヨ) と仲睦まじい日々を送っていた。しかしある日、謎の組織に襲われ、最愛の妻を失い、自身も全身麻痺の重症を負ってしまう。失意の中、巨大企業の科学者からある提案をされる。彼の目的は、実験段階にある「STEM」 と呼ばれる最新の AI チップを人体に埋めることだった。手術の結果、グレイは再び体を動かすことができるようになる。そればかりか、「STEM」に身をゆだねると人間離れした動きができるようになり、 人間を超越した身体能力を手に入れてしまう。さらに、 「STEM」は頭の中の相棒としてグレイと対話するようになる。 身体能力を<アップグレード>されたグレイは手に入れたこの力を駆使して「STEM」と共に妻を殺害した組織に復讐を誓うのだが――。

影響を受けたのは『ターミネーター』

リー・ワネル監督画像リー・ワネル監督 『アップグレード』 『アップグレード』場面1
――制作するきっかけについて

リー・ワネル  『インシディアス』(10)を完成させた後、インディペンデント映画ならではの自由な環境の中で、広大な世界を描くSF映画を作ることが僕の目的だった。この時期、コンピューターに操作される四肢麻痺を患う男の物語の構想が頭にあった。それが、やがて『アップグレード』に発展したのだが、最初は自分で監督するつもりはなく、他の監督に頼む予定だった。しかし、僕の監督デビュー作『インシディアス 序章』(15)を撮り終えた後、周囲から「次の監督作は?」と聞かれるようになって、「『アップグレード』はどうだろう」と考えるようになった。そこで、頼んでいた監督に、話を撤回することはできるかと伺ったところ、快く承諾してくれた。まるで、すべてが準備されていたかのようだったよ。

――本作のために参考にしたり、影響を受けた作品は?

リー・ワネル  『アップグレード』を執筆している時期に影響を受けたのは『ターミネーター』(84)だった。これは、低予算のインディペンデント映画なのにもかかわらず規模が大きく感じられる素晴らしい例だ。ジェームズ・キャメロン監督の演出や脚本が優れているだけでなく、まるで手品のような巧妙さがある。アーノルド・シュワルツェネッガーの演じる殺人的なロボットも実に見事で、本当にあの皮膚の下がサイボーグなのではないかと錯覚してしまうほどだった。彼の存在そのものが、あの映画の特殊効果だと思う。
僕は、これと同じようなことを『アップグレード』で実現したいと思っていた。1980年代はSF映画にとって良い時代だったのではないかと思う。実用的な特殊効果の全盛期だったからだ。90年代に入ると、CGを駆使した『ジュラシック・パーク』(93)が登場した。そして、皮肉にも『ターミネーター2』(91)が封切られたのも同年代だ。実用的で、人間の手によって作り出される特殊効果は、低迷していった。あの時代の素晴らしかったのは、科学とフィクションが同じ箱の中に同居せざるを得なかったところだ。コンピューターのように、なんでもかんでも生み出すことは不可能だったため、できる限り自分たちの創造力を絞り出すしかなかった。この時代に誕生した、『スキャナーズ』(81)、『遊星からの物体X』(82)、『ロボコップ』(87)、『トータル・リコール』(90)など、その他多数の映画から、今回は多くの影響を受けている。単に、こういった映画のトリビュート作品に終わるのではなく、これらの映画の核にあるテーマを使って現代の物語を書きたいと思った。感触があって、垢にまみれたような――。どこか、観客が自分を見ているような感覚に陥る作品が作りたかった。

――斬新なアクションシーンについて

リー・ワネル 主役には、この役が要する身体的能力にしっかりと答えられる俳優が必要だと感じていた。この映画に大きな特殊効果があるとすれば、それは、俳優の身のこなし方であるからだ。そういう意味で、ローガン・マーシャル=グリーンを探す手助けをしてくれた映画の神様に感謝したい。彼は、役の感情の抑揚を確実にとらえてくれたでだけでなく、機械的で、コンピューターで操作された動きを数か月かけて見事に体得し、カメラの前で披露してくれた。
撮影監督のステファン・ダスキオは、素晴らしいパートナーだった。格闘シーンでは、コンピューターのような正確さが必要だったので、カメラで俳優の動きを細かく追った。そうすることで、非常に的確な動きをとらえることができ、人工知能に操作されている感覚を再現することができた。

『アップグレード』場面3 『アップグレード』場面4 『アップグレード』場面5――キャストについて

リー・ワネル 出演者はオーディションで選んだ。ベッティ・ガブリエルがオーディションで見せてくれた演技には非常に圧倒された。彼女の演技は、スクリーンの向こう側にまで届く。彼女ならコルテズの役が演じられると即座に確信した。彼女は、いつも、求められたタイミングで確実な演技を見せてくれた。ステム役に関しては、オーディションの声だけを聴くことにしていた。サイモン・メイデンの声は、僕が脚本を執筆している時にまさに思い描いていた声だったんだ。彼はローガンとの相性もよく、彼らは俳優として、とても馬が合っていたと思う。

――ロケ地をオーストラリアに選んだワケは?

リー・ワネル オーストラリアで撮影することが決まると、僕は自分の故郷であるメルボルンで撮影することにこだわった。メルボルンは、ゴシックかつ都会的で、新しいものと古いものが混在した街だ。近未来的で先進的であると同時に、壮大なヴィクトリア様式の建築物だって存在する。こういった異なる要素の共存こそが、僕が求めていた景色だったんだ。

――近未来を描くにあたってこだわったことは?

リー・ワネル 美術のフェリシティ・アボットとも密接に会話をした。彼女はそれまで、こういうジャンルの映画に関わったことが無かった。この映画を今まで見たことが無いような新鮮な作品にしたかった僕にとって、それはとても好都合だった。撮影に入る前に、彼女と一緒に近未来について色々と話し合った。たとえば、Alexa、Siri、車の自動運転などについて――。しかし、我々は、洒落た艶々したようなものではなく、あくまでも観客が共感できるようなリアルなものを描きたいと思っていた。映画は、近未来が舞台であって、決して、今から100年から200年後の世界を描いているわけではないからね。この映画を作ることができたことを、心から感謝している。

アップグレード (2018年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/英語/原題:UPGRADE/100分)
監督・脚本:リー・ワネル 製作:ジェイソン・ブラム
出演:ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ、スティーブ・ダニエルセン、アビー・クレイデン、ハリソン・ギルバートソン、ベネディクト・ハーディほか
配給:パルコ 宣伝:スキップ ©2018 UNIVERSAL STUDIOS
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2019年10月11日(金)より渋谷シネクイント、
新宿シネマカリテほか全国公開

2019/09/18/20:40 | トラックバック (0)
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