安部 智凛 (女優)
映画「華魂」について
2014年1月18日(土)より、新宿K's cinemaにてレイトショー他全国順次公開
いじめ、体罰、そしてレイプ。映画『華魂』は社会の縮図のような学校という密室に渦巻く暴力を、その鬱屈がついに爆発したときに訪れる真の恐怖を、エロスと狂気の巨匠・佐藤寿保監督が世界観を炸裂させて描いた異色の学園ドラマだ。桜木梨奈、島村舞花という若い女優の体当たり演技にも惜しみない拍手を贈るが、子どもたちの戦場で嬉々と悪ふざけするような飯島大介や諏訪太郎ら名バイプレイヤーの変態演技にも大人の異常さを見て震撼した。そして子どもと大人のどちらからも浮くような潔癖症の若い女教師がタガを外す、そのときが惨劇の予兆だったのかもしれない……。そんなドラマの鍵とも言える西沢役を演じたのは、故・若松孝二監督作品の常連であり、このところ活躍めざましい安部智凛さん。とてもお話を聞いてみたい方だったのだが、低いトーンでマシンガンのように若松監督やそれに負けず劣らずの佐藤監督への敬愛、『華魂』のこと、ご自身の哲学までを、笑いと情と毒もたっぷりに繰り出してきて、演じることの多い一途なキャラクターそのままのようなお人柄にますます魅了された。ショーモデル出身でストイックさと繊細さも持ちながら、ギラギラした強烈な作り手たちと映画の世界に生きる安部智凛さんの魅力、そしてこんな異能が集結した映画『華魂』が、ぜひ多くの方に届くことを願ってやまない。(取材:深谷直子)
佐藤寿保監督――熱いですね(笑)。でもとても人間味のある方というか。安部さんも長く佐藤監督についていかれているわけですけど、俳優として佐藤監督とお仕事をするのはどういう感じですか?
安部 俳優としてというよりも、もっと深い部分で共感しているのかなあ。監督は、人間の中にある残虐さというか矛盾みたいなものを、おとなしそうな顔をして生活をしている自分たちに、「本当はお前ら全員の中にこういうものがあるんだぞ」ということを絶対言いたいと思ってこういう作品を撮り続けていると思うんですね。で、私は「なんで役者をやっているのかな」ということを最近もふと思うことがあって。学校の同級生でやっている人はいないですし、みんな普通のサラリーマンとかをやっていて、私はなんでやっているのかなと考えたら、私は寿保監督に共鳴するところがあるから寿保監督のことが好きで、役者をやっているんじゃないかなということに最近思い至って。私は、比喩ですけど人の顔にウンコを投げ付けたいところがあって。
――え、ウンコ!?
安部 ええ、パーティーのサプライズでパイ投げとかをするじゃないですか、あれぐらいガッと投げ付けたいと。それはどういうことかと言うと、殺人事件のニュースとかを見るときに悲惨でひどいと思うけど、じゃあ自分たちは将来殺人を犯さないって言えるのかなっていうことも考えるんです。お母さんが子供を虐待したりだとかひどいけど、追い詰められたときに絶対人は狂うし、戦争中に食べ物がなくて、暗黙の了解で誰かを食べたりだとか、自分がそういう立場になったときにいけないと言えるのかという。まるで自分とは関係ないかのように事件を見る世間に対してすごく違和感があるんです。寿保監督は最近起こったストーカー事件の犯人に共感して味方をしたらしくて、味方したらいけないでしょうとは思うんですが、やったことが正しいという意味で共感したのではなく、誰の中にも追い詰められたらそういうものがあるかもしれない、そういう気持ちは俺も分かるよ、という意味なんですよね。もちろん決してしてはいけないことですが。私もみんなが「知りません」みたいに思って生活していることを、作品を通して「これは……、私?」「これはお前だー!」と教えてやりたくて、押しつけてやりたくて、役者をやっているんだと思います。私ももちろん純粋な作品にも出たいので、さっぱりした、例えば「かぐや姫」とか(笑)? そういうのも好きなんですけど、ギャスパー・ノエとか佐藤寿保も好きで。やっぱりギャスパー・ノエもレイプ・シーンとかでお客さんが退場しちゃう、それは嫌な部分を見て退場すると思うんですけど、そういうものを突き付けたくなっちゃうんですよね。嫌悪感を催させたいというか。
――嫌な思いをしても、それも映画の意義ですよね。普段の生活では想像が働かないことを見せて考えさせるというのが。それが実際に世の中で起こっていることであり、誰の中にもそういう汚い部分もあるはずで。
安部 でも「いや、私は違う」って認めない人が少なからずいるから。私がこういう考えを持つようになったのは父親の影響で。中学のころに「お前が人を殺しても俺は驚かない、なぜなら人間の中にはそういうものを誰でも持っているからだ」という衝撃的な一言があって。
――素晴らしいお父さんですね。何をなさっているお父さんなんですか?
安部 普通に海外旅行の添乗員なんですけど(笑)。結構ノーマルな感じの職業ですよね。
――(笑)。ノーマルというか、社交性の要るお仕事ですよね。
安部 外面はいいんですけどね(笑)。で、やっぱり親からはすごく影響されるじゃないですか。そういう変な父親に育てられてしまったから寿保監督に惹かれているんだなあと。巡り巡って出会いは必然だったのかもしれないですね。多分寿保監督はみんなの中にある狂気だとか醜い部分とかも見せたいと思っている人だから、私もそこに共鳴しているのかなと思います。本当はそんなことを教える必要はなくて、知りたくない人はいるし、知らないで平和に過ごせるならそれがいちばんいいと思うんですが、私は意地悪だから教えて苦悩させたいと思っちゃうんです。