――最後、水槽越しに父と息子が対面します。

矢城　あれはほんと偶然の産物といいますか、撮影に入る段階では、どうやって父親の幻影を出すかは具体的には決まっていなかったんです。ひとつの案として、カメラをかまえたときにファインダーの中に映るとか、あとは水槽のガラスに映るとか、そういうことを考えていました。現地に行ってみたら、たまたま水槽の向こう側に場所があって、たまたまそういう親子がぼくが行ったときにいて、それでああいう撮り方を思いつきました。

――偶然に助けられたのですね。

矢城　最後の、ジンベエザメが交差するところも、5分くらいしか時間がなくて。ラスト前に塩谷くんの涙している顔を撮って、それでもう残り時間がない、とにかくそこに立てと。それでカメラを据えた瞬間に、何日も粘って撮ったようなあの絵が撮れたので、すげー！と思いましたね。ジンベエサメはずっと同じ方向にぐるぐる回って泳いでいて、なかなか交差はしないんですよ。

――祖母役の馬渕晴子さんは、本作が遺作となりました。

矢城　ぼくはデビュー作の『ある探偵の憂鬱』をほとんど自己資金で撮ったんですが、お金が無い作品にも、しょうがないわねえという感じでふたつ返事でお付き合いいただいて、今回で馬渕さんとは3本目になります。前作『ねこのひげ』でも、実像としては出ていないんですけど、声で出ていただいていて、ぼくも大城もすごく助けられました。彼女のためにも、この作品がいい方向に行けばいいなと思っています。

――撮影の時点ではどんな様子でしたか。

矢城　プロデューサーの大城は、体調についての話は聞いていたらしいんですけど、僕を含めキャスト、スタッフには伝えられませんでした。撮影の時はお元気そうな感じで、いつも通り現場の母親的存在でみんなを引っ張ってくれました。

――本作、沖縄ではもう公開されていますが、反応はいかがですか。

矢城　先日、舞台あいさつに行ってきました。見ていただいた方は非常に共感してくれて、お帰りの際に感想もたくさんいただきました。おばあちゃん･お母さん･お孫さんの三代で見てくださった方がいらしたんですけど、3人とも感動して、お互いにハンカチ貸し合ったりということもありました。

――最後に、これからご覧になるみなさんになにかメッセージはございますか。

矢城　ふだん意識することは少ないかもしれませんが、親との関わりは理屈じゃないと思います。この映画を見てそれに気付くというか、ちょっとでも感じてもらえたらいいですね。説教くさい映画ではないので、ご覧になって自分の両親のことを思い出したりとか、それだけでいいかなという気がしますね。世代によって、それぞれの視点で見ることができると思いますので、幅広く見に来ていただきたいです。親がいない人間はいないので。

――監督ご自身は、父親の立場と息子の立場、どちらでしょう。

矢城　ぼくはまだ、息子ですかねー。この映画も、主役というか話の中心はお父さんですけど、視点は息子にあるわけですよね。ぼく自身も、まだ息子なんだろうなと思います。

――どうもありがとうございました。