不眠症に苦しむ向きであればともかく、「いつでも・どこでも・誰とでも」 10分で眠りにつける体質なのに、1800円払っての熟睡はあまりに業腹。そこで今回は海洋映画でのしくじりを糧に、 これなら気分転換が出来て眠くもならんだろという予想のみで選んだ一作。
で、『ヘル・ボーイ』。人気アメコミという原作は未見のため、 本編が原作ファン対応仕様の余計なコトはしないわよ作品なのか、別物として見てちょうだいよ作品なのか、 そこらへんの基本方針はトンとわからんのですが、養父の薫陶がよほどによろしかったらしく、「悪魔の子」でありながら人類(正義?) の味方となり、超常現象調査局のエースとして活躍する主人公は、いかにもアメリカン・ヒーローというわっかりやすいキャラ設定で、 親子で安心して愉しむ作品としては、フツーに良く出来てるとも思うです。
ただ、45歳配偶者なし子どもなし、おまけに友達も少ないので、 いつも映画は独りで見にゆく立場から言わせてもらえば――お子様ランチだなぁ~あ。
一番の難点は、悪役がちっとも怖くないこと。ナチスの残党が苦し紛れに冥界の妖怪を召喚するって導入は、
ありがちにしろ悪くない。でもって、怪僧ラスプーチンまで引っ張り出したのも、新味と言えば新味。が、哀しいかな、この親分、
迫力不足で何の効果があったかサッパリ疑問。プレデターとエイリアンとオクトパスを足して割ったような多足粘着系怪物は既視感全開だし、
そもそも、化け物然とした連中が化け物やっても、怖かあない。
ナチス+異界の妖物といえば、菊地秀行『妖魔軍団』を想起する方々も少なくないはず。ずば抜けた鬼畜度の高さから、「原作に忠実」
な映像化はまず無理な怪作だが、恐怖の源は、この妖怪共が一応、人間仕様ってことにある。
なまじ人類と似た化け物が正視に堪えないほどエゲツナイことをやる、やりまくる。だから、怖い(ついでながら申し上げると、
迎え撃つ自衛隊のエスパー軍団もなかなかに多芸)。タコやイカのお化けが芸もなく人間喰っても、インパクトないってば。
次にがっかりしたのは、展開のベタさ加減。恋敵への嫉妬(当然、誤解なのだが)、
9歳の子どもに恋のアドバイスをされる初心なヒーローの図、地下鉄構内における死闘時の子猫の役割、
恋する女性のために地獄への門を開けときながら、パパの形見の十字架であっさり翻意する芸のなさ、
死んじゃったはずの恋人が都合よく息を吹き返し、キスシーンで終わるラスト等々、思わず「勘弁してくださぁあい」(泣)
と言いたくなろうもの。
だいたい、(幼少時のディズニー臭い造形に嫌な予感はしたのだが)ヒーローのご面相からして、色違いの「シュレック」としか言い様がない。
地獄の住人にしてはえっれえ可愛くて、愛敬もたっぷり。ヒロインとのキスが可能かどうか、造形のキモはそれに尽きたのではないかな。
実写版人類とのラブシーンに違和感を感じないような、ギリギリの異形。人間以上に人間らしい心。素直で単純な言動に卓抜した身体能力。
うーん、いかにも×××(問:この伏字に該当する単語を述べよ)好みのキュートな「怪物」だ。
とはいえ、お約束が悪いわけじゃない。そもそも、眩暈がするほど退屈な本作のお子ちゃまテイストには、
初手から確信犯の匂いがプンプンする。あえて毒や禁忌を徹底排除し、誰もが安心して観覧できる予定調和展開の娯楽作を創り上げたのは、
一つの見識だろう。
が、人畜無害=陳腐ではないはずだ。定番ならではの面白さも、細部への拘りや美意識、その創り手ならではの世界観やウィットで、受け手を
「そう来たか!」と愉しませるものがあってこそ、ではないのか。本作に鬼畜系の面白さを求めるのは無いものねだりの我が儘だろうが、「健全」
という基本コンセプトを押さえつつ、大人の観客を興がらせる仕掛けは、あっていい。
そう、「お子様ランチ」でもいいのだ。ただ、そのプレートは子ども騙しの味ではなく、(一部の賢明な店で心掛けているように)
舌の肥えた大人の顧客をも満足させるような一皿であってほしい。出来合いのハンバーグやエビフライ、オムライスを集めただけの皿なんて、
ホントは幼い客に対してもかなり失礼なシロモノなのだから。
たしかに眠くはならなかったけど、それ以上の収穫が何もないという他愛なさが残念。 大人が真剣に工夫した味と心意気。そいつで勝負してほしいと思うのは、我が儘じゃあないだろう。
(2004/10/29)
主なキャスト / スタッフ
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