朝鮮戦争という巨大な運命に翻弄される兄弟の姿を描いた本作を評するに、多言は無用かもしれない。壮大である――
その一言が全てを言い尽くしているのではないだろうか。それほどまでに本作のスケールは大きい。戦闘シーンを描いた圧倒的な映像の数々から、
恐らく本作は「プライベート・ライアン」と比較されることになるだろうが、こと物語のスケールに限って言えば、
本作の方が上をいっていると言っても強ち過言ではあるまい。
兄弟愛ばかりが喧伝されている本作だが、恐らくそれは主眼ではない。この作品は戦争を背景に兄弟の姿を描いているのではなく、
兄弟を狂言回しにすることで、朝鮮戦争の前線と銃後、双方で何が起きていたのかを明解に描き出しているのである。カン・
ジェギュ監督が本作によって朝鮮戦争そのものの総括――同胞同士の、隣人同士の、家族同士の殺し合いと相互不信、
疑心暗鬼を生み出しただけの全く無意味な戦争――を試み、そしてそれをヒューマンな(メロ)ドラマの文脈で平然とやってのけていることに、
ただただ驚かされる。
勿論、兄弟の関係性を基調に総括を行っているために、ドラマにある種の都合の良さが付きまとう面もなくはない。
なんとしてでも弟を除隊させて学校に行かせてやりたいという兄の心情とそうした兄の思いを理解できず不快感と怒りを募らせる弟の葛藤を発展させる形で、
戦争の犬と化していく兄とあくまでも人間の側に留まろうとする弟、思想的に偏向していく兄と思想に捕らわれまいとする弟、
のようにある時点の二人の姿を対比的に抽出する傾向が強いせいか、戦争の過程で人間が歪んでいく姿を描いているというよりは、
展開するシークエンスに合わせて関係性を巧妙に再構築しているように見えてしまうのである。
それが時折挿入される過剰なヒロイズムの発露同様、単に場面を盛り上げるための作意的演出のように感じられる部分が少なくなく、
時にその場面の現実感を乏しいものにしてしまっている。
と言っても、それは作品を台無しにするほどのものではない。寧ろ、そうした部分は殆ど些末な事と言ってよく、
物語全体の流れは緊密で無駄がなく、片時も飽きることがない。何より作品の大半を占める戦闘シーンの圧倒的臨場感、
戦場に合わせて兵士達が直面する血みどろ凄惨な描写の連続によって、そうした批判的な意識など文字通り吹き飛ばされるはずだ。
爆風に手足は引きちぎられ、人はあっけなく肉塊となり果てる。ただひたすらに死が野放図に積み上げられていく戦場の恐るべき実態、
その一端に確実に触れえるものと言えるのではないだろうか。この衝撃は、
恐らくDVDやビデオといった家庭用AV機器で味わうことは不可能であろう。できる限りTHX(R)実装劇場での鑑賞を狙いたい作品だ。
(2004.7.5)
主なキャスト / スタッフ
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