男子たるもの旅に出てなんぼと幼きころから主に母上に教育され、
まだ人間と化してない妹を連れ添って方々に旅に出さるという小学生時代をすごした筆者は、
のちに旅というものに対して強烈に恐怖心を抱き冒険心のかけらもない人生をすごしてしまうことになった。
よって旅に出た男子に対して強烈なコンプレックスがある。だからだと思うが、植村直己「青春を山に賭けて」、浮谷東次郎
「がむしゃら1500キロ」、ロバート・ハリス「エグザイルス」、沢木耕太郎「深夜特急」などなどの旅モノから目を背けらなかった。
そして読むたびに「ああ・・・俺って・・・」なんて落ち込みまくっていたのだが、またしても、
目を背けたら何となく負けた気分だからと落ち込むのは分かっていながらいそいそと台風の中、初日に出かけていったのがこの作品だ。
チェ・ゲバラに関してはほとんど何の知識もないが、
この映画はそれでもまったくオッケーな青春旅モノ映画として筆者の心にグサグサ突き刺さった。
喘息持ちの医大生エルネストは、「南米中の女とやりまくるぞ」
なんてほざいてるラテン魂全快の友人アルベルトと南米大陸を自分の目で見てみたいという好奇心のみからブエノスアイレスからパタゴニアを目指しさらにアンデス山脈を越えて行く・
・・。
好奇心のみで旅に出る連中と、旅で何かを得て来いという思惑バリバリで旅に放り出された筆者とではその時点で大きく差がついているのだが、
ボロバイクに乗っていきなりバスと衝突しそうになりながら旅に出てゆく二人の様子は、その場面だけで「こいつら男子の勝ち組!」
とひれ伏したくなるくらい眩しく見える。
だが所持金は乏しい上に、バイクは故障ばかりで2人の旅は困難を極めていく。前半のやたら女にモテている様や、
口八丁手八丁で宿泊先を探しまくる様などラテンな空気醸し出しまくりで、バカ珍道中が始まるんじゃねーかと思うほどにワクワクしてしまう。
当然旅を続けていくことによって最下層の労働者や病人などと出会い、現実世界の弱者を初めて目の当たりにしていくことになり、
そんな理不尽な世に憤りを感じる。そしていつか俺の手で世の中を変えてみせるという思いを募らせていくのだが、
その様子もストレートに描いていて青春映画のツボを心得ている演出にグッとくるのである。
同時に旅に出ることを恐れまくった自分を後悔してもしきれない思いにかられてしまう。
旅というものは、道中はどんなに美しい風景を見たときよりも、
乗り換えの電車のことを聞いた駅員さんにもらったジュースのことが一番心に残ってしまい、
それがその後の生き方にまで影響を及ぼすくらいのものであるとの実感は筆者にも体験からある(スケール小さすぎね・・・)。
感受性豊かな二人はイチイチ見るものふれるものに心を揺すぶられる。
そんな二人がどんどん変わって行く姿が眩しくて眩しくてどうしようもない。
若き日のチェ・ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルが、とにかく好奇心と野望を同時に兼ね備えたいい目をしていて、
若者たるものこういう目をしてなきゃいかん!とその眼差しだけで何だか思わず涙がこぼれそうになり、
映画館を出たあとそんな目をつくって歩き回りたくなってしまうくらいに瑞々しい演技を見せているのだ。
カップルで観に行くと、彼女はとなりの彼氏が風船みたいに見えてしまうだろう。
そしてこの映画には実にたくさんのバイクでこけるシーンがあるのだが、
これほどまでにバイクでこけるだけのシーンに何だか胸が苦しくなってくる場面は(当り前だが)見たことがない。
不思議に切なくて切なくてたまらないのである。
(2004.10.10)
主なキャスト / スタッフ
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