(2004 / 中国・アメリカ / チャウ・シンチー )
迎春!問答無用のお祭り映画

仙道 勇人

 少林拳法とサッカーを融合するという突拍子もない『ネタ』を、 実写映画で大真面目に披露して見事な成功を収めたチャウ・シンチーが、更にパワーアップして帰ってきた。 舞台を現代から文化大革命前の中国に移した本作も、到るところでナンセンスギャグが炸裂しまくる抱腹絶倒の作品となっているが、 もしもあなたが本作を未見でこれから観ようと思ってこのページを開いているのであれば、 このテキスト(ネタバレなし)を最後に本作に関する情報収集は中止してすぐに劇場へ向かうことをお勧めする。なぜなら、 本作に鏤められたナンセンスギャグのキモは、ある意味で「意外性」にあるからだ。事前に情報を収集することでこの「意外性」 が半減してしまえば、折角の面白味も幾分減じてしまうのは必定。よって、鑑賞前のパンフレットは勿論、 チラシを観たり公式サイトへ行くことも極力避けた方が良いことは言うまでもないだろう。本作について知るべきことは唯一つ、なにやら 「ありえねー」づくしの映画らしい、ということだけで十分なのである。

 CMでもやたらと「ありえねー」が連呼されている本作だが、「ありえねー」のは何も映像表現に限った話ではない。 本作の物語の枠組み自体が、実はあってないような代物であり、はっきり言ってガタガタなのである。伏線が伏線として殆ど機能していないし、 無理矢理なこじつけ、ご都合主義等々、一般的に作劇上してはいけないと言われることが平然と行われ、 すべきとされる作劇のセオリーを一切無視して「ありえねー」展開が堂々と繰り広げられていく。この為、 いつもの条件反射で物語に首を傾げてしまう向きも当然あるかと思うが、こと本作に限って言えば、そうした「真っ当な」反応は無粋の極み、 野暮と言う他ないだろう。この作品は「物語」を楽しませるのではなく、「観客」を楽しませることに特化した作品であり、 言うなれば本作は縁日の出し物のようなものなのだ。この馬鹿馬鹿しくも祝祭的な解放感は、 とにかく楽しんだ者が勝ちとしか言いようのないものなのである。

 それにしてもなんと愉快な映画なのだろう。やってることはベタなギャグだったり、ナンセンスな表現だったり、 有名作品のパロディーだったりするのだが、個人的に嬉しかったのは本作が「カンフー映画の醍醐味」を再発見させてくれたことだ。 本作のメイン振り付け師を「グリーンデスティニー」や「マトリックス」でお馴染みの釣り師ユエン・ウーピンが担当しているが、 今回の彼は実に良い仕事をしている。元々の振り付け担当者があのサモ・ハン・キンポー(通称デブゴン/ジャッキー・チェンやユン・ ピョウと共にカンフー映画の一時代を築き上げたゴールデントライアングルの一人)だったこととどこまで関係があるのかは不明だが、 これまでのユエン・ウーピンの振り付けはカンフーはカンフーでも身体美を目指した「演舞」の延長線上にあったように思う。より高い跳躍、 より速い旋回、より激しい振りなどをワイヤーの活用によって大胆に実現してきたが、 それらには血湧き肉躍るようなカンフー的興奮とは異質な趣がどうしてもつきまとっていた。

 しかし、今回はそうした「演舞」的な表現は鳴りを潜め、組み手の延長線上にある「痛みを感じさせるアクション」 が多く見受けられるのである。特に序盤から中盤にかけて展開される怒濤のアクションシーンからは、 肉と肉がぶつかり合う格闘技としてのカンフーの魅力が溢れ出している。飛び散る血と汗、効果的なスローモーションなど、 嘗てカンフー映画に熱狂した者ならば誰もが感じたであろう、あの興奮を再び大画面で堪能することができるのだ。 勢いど派手なCGと極端な表現とに目を奪われがちであるが、実は本作ほどしっかりと「カンフー」 している映画は近年では極めて稀と言ってよい。しかし、それも当然だろう。演じている人間がいずれも「本物」揃いで、 俳優達のにわか仕込みの振り付けカンフーとは格が違うのだ。見た目はオッサンでもその技の鋭さは些かも衰えてはいない!尤も、 ラストバトルは相手が本物だけにチャウ・シンチーの体技が見劣りしないよう、殆どまともな格闘をしないのはご愛敬といったところではあるが。

 アクションから配役、スタッフの選定に到るまで、チャウ・シンチーの尋常ならざるこだわりによって実現したこの「21世紀型カンフー映画」 。「少林サッカー」「カンフーハッスル」と作を重ねるごとに着実に進化を遂げているが、次回作ではカンフー映画のお約束である「泣き」 (師匠や肉親が為す術もなく眼前で殺されてしまうなど)を活用したベタな物語の組み立てを、なんとしてでも実現して欲しい。が、 差し当たっては嘗てカンフー映画とブルース・リーへのオマージュが日本で「北斗の拳」という「元祖ありえない拳法漫画」 として結実したように、同じカンフー映画とブルース・ リーへの熱烈なオマージュが全く新しい形となって再びスクリーンに回帰してきたというこの僥倖を、素直に慶びたい。

(2005.1.4)

2005/04/30/19:55 | トラックバック (0)
仙道勇人
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