今週の一本
(2005 / アメリカ / トニー・スコット)
下品で下世話なハイテンション・ノワール

膳場 岳人

 中盤までは「傑作臭」がぷんぷん匂うハイテンションおバカノワールだったんだがなあ、というのが正直な感想。 後半もテンション自体は持続されるのだけれど、ギャング、FBI、賞金稼ぎによるお定まりの「三つ巴(正確には四つ巴だが)」 やロスのイコンであるストラトスフィア・ホテルのタワー大爆破、というありきたりな見せ場に物語が回収されることで、 うきうきした心の高揚もやや鎮静。とはいえ威勢のいいファンキーミュージックと、かつてないほどスピーディな目まぐるしい編集、 哄笑に満ちたブラックコメディのテイストにより、監督が深刻趣味に陥った前作『マイ・ボディーガード』(04) よりはるかに痛快な仕上がりだ。

 ハリウッドスターのローレンス・ハーヴェイを父に持つ、モデル上がりのドミノ・ハーヴェイ。 いけ好かない金持ちが集うビバリーヒルズを嫌い、賞金稼ぎの世界に飛び込んで……という事実に基づいた部分は本編のプロローグに過ぎず、 あとはドミノが巻き込まれるマヌケな現金輸送車強奪事件の発端から顛末までをディテール豊かに追いかける。 ある意味宣伝文句を裏切る展開だが、確かに金持ちお嬢ちゃんの屈折だのなんだのを描かれてもちっとも面白くないだろう。 自滅を運命付けられている小悪党どもが想定どおりにドジを踏むという、エルモア・レナード風B級テイストがこの映画最大の魅力だ。冒頭に 「これは真実の物語である。……おおよそのところは」と字幕が出るが、物語が展開していくにつれ、これもおふざけの一環と知れる。 こうした遊び心が嬉しい。

 もっとも、そのおふざけはしばしば度を越してしまう。 罪のない男の腕をショットガンでぶっ飛ばしてもぎ取る場面なんて危険なまでにグロテスク。ベテラン賞金稼ぎ役のミッキー・ ロークなんて見てくれからして本当に汚い。ポルノを見ながら「男が"出す"場面が全然ない」なんてぼやいてる場面、あの『ナインハーフ』 の色男がここまで……と思わせられて感慨深いです。とは言え、もそもそ歩く背中に哀感を滲ませるあたり、彼なりの人生の重みを感じさせます。 ドミノ役キーラ・ナイトレーの撮り方もエロオヤジの目線そのままで実に下品。タンクトップの下にひっそり息づく乳首だとか、 ローライズの臀部から見えるパンティの縁取りをドアップで撮るだとか、砂漠でのセックスだとか。 見ているこちらが後ろめたくなるくらいのスケベ心満開な描写だ。そこでいちいちカット割るかアンタ、っていう。まあ、 変に気取った映画よりずっとサービス精神満点なんだけど、さすがにやりすぎなんじゃないかと。好きだけど。大好きだけど。

 個人的には『ドニー・ダーコ』(01)というすばらしい青春映画を撮ったリチャード・ケリーが手がけた脚本に期待していたのだけれど、 "彼ならでは"といったテイストがどこにあるのかはとうとう分からずじまい。時系列を前後させ、 フクザツに絡み合う人物相関図を徐々に絵解きし、嘘をつくヤツ、金を掠め取ろうとするヤツ、ほぼ無意味に出てくるマスコミ、 『ビバリーヒルズ青春白書』の俳優なんかが居合わせたことで、事態がさらにややこしくなり、最後は使い古された三つ巴で決着、 みたいなプロット。ドミノが首に入れた金魚の刺青が実は金魚ではなくて……といったあたりに何か意味深いものでもあったのかな。いや、 ないだろうな。

 ただし、トム・ウェイツが唐突に砂漠に登場する展開は、濃厚にリチャード・ケリーの「思い」が匂った。中世の宗教劇では、 最後に強引に神が出てきて事態を解決に導いたというけれど、ここでのトム・ウェイツも行き詰ったプロットを打開に導く「神の使い」 のごとき役を担っている。あざといといえばあざとい。でもトム・ウェイツに免じて許してね、という姿勢に素直に「ハイ」 と頷くしかないだろう。スコセッシの『カジノ』(95)に対する臆面のないオマージュ (地獄に落下する悪党どもに捧げられるバッハのマタイ受難曲!)、クリストファー・ウォーケン、メイシー・グレイ、トム・ ウェイツらのゲスト出演も素直に楽しめたりするので、結局はトニー親父の「娯楽アクション映画なんだから適当に楽しめよ」 というニヤニヤ笑いに乗せられたということか。ええ、文句もいろいろあるけど実際にかなり楽しめました。

(2005.11.7)

2005/11/07/19:39 | トラックバック (6)
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