中盤までは「傑作臭」がぷんぷん匂うハイテンションおバカノワールだったんだがなあ、というのが正直な感想。
後半もテンション自体は持続されるのだけれど、ギャング、FBI、賞金稼ぎによるお定まりの「三つ巴(正確には四つ巴だが)」
やロスのイコンであるストラトスフィア・ホテルのタワー大爆破、というありきたりな見せ場に物語が回収されることで、
うきうきした心の高揚もやや鎮静。とはいえ威勢のいいファンキーミュージックと、かつてないほどスピーディな目まぐるしい編集、
哄笑に満ちたブラックコメディのテイストにより、監督が深刻趣味に陥った前作『マイ・ボディーガード』(04)
よりはるかに痛快な仕上がりだ。
ハリウッドスターのローレンス・ハーヴェイを父に持つ、モデル上がりのドミノ・ハーヴェイ。
いけ好かない金持ちが集うビバリーヒルズを嫌い、賞金稼ぎの世界に飛び込んで……という事実に基づいた部分は本編のプロローグに過ぎず、
あとはドミノが巻き込まれるマヌケな現金輸送車強奪事件の発端から顛末までをディテール豊かに追いかける。
ある意味宣伝文句を裏切る展開だが、確かに金持ちお嬢ちゃんの屈折だのなんだのを描かれてもちっとも面白くないだろう。
自滅を運命付けられている小悪党どもが想定どおりにドジを踏むという、エルモア・レナード風B級テイストがこの映画最大の魅力だ。冒頭に
「これは真実の物語である。……おおよそのところは」と字幕が出るが、物語が展開していくにつれ、これもおふざけの一環と知れる。
こうした遊び心が嬉しい。
もっとも、そのおふざけはしばしば度を越してしまう。
罪のない男の腕をショットガンでぶっ飛ばしてもぎ取る場面なんて危険なまでにグロテスク。ベテラン賞金稼ぎ役のミッキー・
ロークなんて見てくれからして本当に汚い。ポルノを見ながら「男が"出す"場面が全然ない」なんてぼやいてる場面、あの『ナインハーフ』
の色男がここまで……と思わせられて感慨深いです。とは言え、もそもそ歩く背中に哀感を滲ませるあたり、彼なりの人生の重みを感じさせます。
ドミノ役キーラ・ナイトレーの撮り方もエロオヤジの目線そのままで実に下品。タンクトップの下にひっそり息づく乳首だとか、
ローライズの臀部から見えるパンティの縁取りをドアップで撮るだとか、砂漠でのセックスだとか。
見ているこちらが後ろめたくなるくらいのスケベ心満開な描写だ。そこでいちいちカット割るかアンタ、っていう。まあ、
変に気取った映画よりずっとサービス精神満点なんだけど、さすがにやりすぎなんじゃないかと。好きだけど。大好きだけど。
個人的には『ドニー・ダーコ』(01)というすばらしい青春映画を撮ったリチャード・ケリーが手がけた脚本に期待していたのだけれど、
"彼ならでは"といったテイストがどこにあるのかはとうとう分からずじまい。時系列を前後させ、
フクザツに絡み合う人物相関図を徐々に絵解きし、嘘をつくヤツ、金を掠め取ろうとするヤツ、ほぼ無意味に出てくるマスコミ、
『ビバリーヒルズ青春白書』の俳優なんかが居合わせたことで、事態がさらにややこしくなり、最後は使い古された三つ巴で決着、
みたいなプロット。ドミノが首に入れた金魚の刺青が実は金魚ではなくて……といったあたりに何か意味深いものでもあったのかな。いや、
ないだろうな。
ただし、トム・ウェイツが唐突に砂漠に登場する展開は、濃厚にリチャード・ケリーの「思い」が匂った。中世の宗教劇では、
最後に強引に神が出てきて事態を解決に導いたというけれど、ここでのトム・ウェイツも行き詰ったプロットを打開に導く「神の使い」
のごとき役を担っている。あざといといえばあざとい。でもトム・ウェイツに免じて許してね、という姿勢に素直に「ハイ」
と頷くしかないだろう。スコセッシの『カジノ』(95)に対する臆面のないオマージュ
(地獄に落下する悪党どもに捧げられるバッハのマタイ受難曲!)、クリストファー・ウォーケン、メイシー・グレイ、トム・
ウェイツらのゲスト出演も素直に楽しめたりするので、結局はトニー親父の「娯楽アクション映画なんだから適当に楽しめよ」
というニヤニヤ笑いに乗せられたということか。ええ、文句もいろいろあるけど実際にかなり楽しめました。
(2005.11.7)
主なキャスト / スタッフ
TRACKBACK URL:
ドミノ E 秋日和のカロリー軒
人類はあと百年は映画を卒業できない 常々、主張していることですが、映画は今、トニー・スコットの時代を迎えています。脱=物語派の映画作家がのきなみトニー...
Tracked on 2005/11/09(水)18:44:29
ドミノ E 秋日和のカロリー軒
人類はあと百年は映画を卒業できない 常々、主張していることですが、映画は今、トニー・スコットの時代を迎えています。脱=物語派の映画作家がのきなみトニー...
Tracked on 2005/11/09(水)18:44:29
【映画】 ドミノ ★★ E 徒然なるままに・・・
ストーリー: 名優ローレンス・ハーヴェイの娘としてロンドンに生まれたドミノは、 恵まれた特権階級の生活を送りながらも何か満たされない思いを抱えていた。 ロサンゼ...
Tracked on 2005/11/10(木)00:00:31
[ ドミノ ]色気あるキーラ・ナイトレイ E アロハ坊主の日がな一日
[ ドミノ ]は、スコット兄弟の弟トニー・スコット が監督として手がけた最新作。個人的には、前作[ マイ ・ボディーガード ]よりは良かったが[ スパイ・ゲ...
Tracked on 2005/11/12(土)18:39:38
『ドミノ』 E かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
ハイテンポなスタイリッシュ映像に血が騒ぐ! ドミノの生きる熱くスリリングな世界に興奮。 そのテンポ、カッコよすぎるクールな演出に釘付け。 アメリカでも...
Tracked on 2005/11/15(火)12:48:59
ドミノ E ぶっちゃけ…独り言?
4.5点 (10点満点。5点で普通。6点以上なら満足って感じです。) ぶっちゃけ、ワタクシには全然向かない作品でした。 実在の人物をモデルにしているそーです...
Tracked on 2006/02/22(水)05:02:42
ドミノ・・・・ E サクサクっと・・・
ドミノ レンタルがとっても楽しみだった 「ドミノ」 実在する賞金稼ぎの女性ってことでめっちゃ面白そー
Tracked on 2006/04/10(月)06:45:29