特集
(1970 / フランス / ジョエル・セリア)
社会への。大人への。偽善への。閉塞への。そして心と身体を縛るあらゆるものへの、徹頭徹尾好戦的な反抗。

鮫島 サメ子

小さな悪の華 なんだかんだ言いつつも、やっぱ日本に生まれてよかったなあと思ったりする今日この頃だが、それは内戦やどえらい貧困、へんてこりんな将軍様などをとりあえず戴かずに済んでいるといったことだけではなく、宗教(及びそれが齎す有形無形のルール)の軛が比較的緩やかな地に生を享けた僥倖への感謝である。
 残念ながら、人は単独では生きられない。そして集団生活を営んでいくためには、不毛な衝突を避けるためにも、ある程度のルールが不可欠である。そうした社会規範などは所詮、便宜上のものなのだから、ソコソコで充分だと思うのだが、それで済まなくなってくると――おまけに宗教というやっかいな要素が絡むと、時として、本末転倒とも言える非常に窮屈な事態になってくる。

 従順な羊体質であれば、それが世の中だと諦めてしまうのかもしれないが、ボードレールやロートレアモンを愛読する本作のヒロイン、アンヌとロールは、そんな理不尽や退屈で欺瞞に満ちた大人たちに昂然と闘いを挑み、「毒をもって魂に活力を」注入すべく、寄宿舎でも、帰省先でも、反社会的行為に突き進む。
 嘘、色仕掛け、神への不敬、窃盗、放火、動物虐待、そして殺人。生の証を刻みつけるように罪に罪を重ね、破滅への道をひた走る二人だが、反逆精神こそ旺盛でも蛇の狡猾さや怪物性を持ち合わせていない彼女らは、次第に追い詰められていく。しかし痛快なことに、どんなに敗色濃厚となっても、決して改心などしない。敗北も認めない。

 離れがたく結びついた魂の共振。黒髪のヒロイン、アンヌの突き刺すような眼差し。田舎道を二人の少女が自転車で走る、その奔放な姿と生命の輝き。掌の中の湿った温もりと痙攣まで伝わってくるような、小鳥をゆっくり掴み殺す場面。そして圧巻は、自分が自分であることを貫き通した二人の最後の「呪詛」である。
 善男善女の前で天使のようなドレスに身を包み、不道徳な詩を無表情で暗誦するアンヌとロール。この「穴を掘れ!」の不気味な韻律を聴くだけでも、一見の価値はある。公開当時、本国フランスを始め、欧米では軒並み上映禁止になった本作だが、お手軽なヒューマニズムにウンザリしている諸姉諸兄であれば、きっと快哉を叫ぶに違いない。

 ……とまあ述べてきたが、そしてそれはあながち嘘ではないのだが、これだけでは、もしかして耽美系少女映画の佳品のようにも思われてしまうので、やっぱり以下、付記させていただきます。えーと。ソレ系の雰囲気は漂わせているものの、違います。ホント、匂いだけ。

 ニュージーランドで実際に起きた「禁断の愛」事件をモデルにした作品としては、実話をなぞった形の『乙女の祈り』(ピーター・ジャクソン監督)が有名だが、本作もこの事件からインスピレーションを得たらしい。
 しかし、つくりこそ一応、禁忌の香を漂わせているものの、実のところ、ヒロインが信奉する作家(本作の惹句にも麗々しく謳われ、思い切り期待してしまった)から連想するような冷たい血の闇も蠱惑的な毒も、少女期特有の無邪気で残酷な美しさも、サッパリ看取できない。ジョエル・セリア氏がナニを目指していたのかは知らないが、ロートレアモンも鼻で笑うに違いないほど、背徳の美学がなーんにもないのである。
 その代わりに横溢しているのは圧倒的なB級感であり、これはこれで讃えるべき、作り手の志の低さがとても魅力的なロリ系エロなのである。

 いや、最初から妙な予感はあった。寄宿舎の寝室で、見回りから帰ってきたシスターの着替えをカーテンに映すという、芸がないにも程があるシーンに始まり、自宅に帰ったアンヌの鏡の前での着替え、間抜けな牧童をからかうロールのくねり具合、成人男女だったらごく凡庸な絵面だが、一方が金髪童顔のローティーンってだけで思わず身を乗り出してしまったアオカン未遂、そして少女二人で旅行者を挑発するの図、など――加えて、この子たちってば、必要以上に脱ぎまくってくださるのだが(そのブラとショーツが絶対に白ってのも、なあ)――見事なまでに、多くの男性が少女に対して抱くであろう、ベタな妄想や幻想そのままのテイストなのだ。

 だもんで、これはこれでとっても愉しめた。上映禁止にもなるはずである。
 そもそも、このヒロインたち、美少女というよりは「隣のおねえちゃん」レベルの容貌で、それもそこはかとなくB級感なのだが、本作の場合は却ってリアルなエロさを醸し出しているような。仏頂面のアンヌはちょっと育ちすぎだが、腋の下まで見せてくれるし、金髪童顔のロールに至っては、素晴らしい子供体形である。おまけに、何かというと由紀さおりのスキャット風音楽が流れるセンスもトホホで、この上なくB級。
 これらの印象が強烈すぎて、「驚愕のラスト」なんかもう、どうってことないというか、何というか。

 こうしたサービス精神に加えて、それなりの暴れっぷりを見せてくれるのだから、ずいぶんお得感のある良心作と言えなくもない。ビミョーにエロとはいえ、ちょっと見オシャレだから、大手を振って見に行けますし。
 でも、本作のポイントを考えると、劇場鑑賞よりはDVDでコ・マ・お・く・りなんかもしてみるほうが、満喫度は高いと思うですよ。

(2008.1.16)

小さな悪の華 1970年 フランス
監督・脚本:ジョエル・セリア 撮影:マルセル・コンブ 音楽:ドミニク・ネイ,クロード・ジャーメイン
出演:カトリーヌ・ヴァジュネール,ジャンヌ・グーピル,ルナール・デラン
(C)1970 SOCIETE GENERALE DE PRODUCTIONS - LES PRODUCTIONS TANIT All Rights Reserved.
公式

2008年2月2日 吉祥寺バウスシアターにてリバイバル公開

荘厳なフランスの寄宿舎の制服、
カラフルな70年代のガーリーファッション!!!

ピーター・ジャクソンも「乙女の祈り」として映像化した禁断の愛によって生まれた衝撃の事件!
「地獄でも、天国でもいい、未知の世界が見たいの!」悪の楽しさにしびれ 罪を生きがいにし15才の少女ふたりは身体に火をつけた悪に魅せられた少女を描いた禁断の少女映画が遂に蘇る!

「す、スゴすぎる!!こんな映画があったことを、今まで知らなかったなんて!!『ディキドンデン・ディキドンドン(穴を掘れ!)』のフレーズが頭から離れず、友達と合い言葉のように呟きあいました……まるで、小さな(もう、すでに大きい)悪の華のように!」 D[di:](作家/アーティスト)

DVD 2月20日(水)発売

MAIS NE NOUS DELIVERZ PAS DU MAL
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ビデオメーカー
発売日:2008-02-20
amazon.co.jpで詳細をみる

2008/01/17/05:24 | トラックバック (0)
鮫島サメ子 ,「ち」行作品 ,特集 ,DVD情報
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