今週の一本
(2007年 / アメリカ / ピート・トラヴィス)
『暴走パニック大激突』以来のグランド・ホテル形式の傑作!
(で、いいのか?)

佐藤 洋笑

 以下の文章は、デニス・クエイド、マシュー・フォックス、フォレスト・ウィテカー、エドゥアルド・ノリエガ、エドガー・ラミレス、シガニー・ウィーバー、ウィリアム・ハートら出演、ピート・トラビス監督作品『バンテージ・ポイント』鑑賞後の、あるアクション/クライム・ムーヴィー・ファンの二人――仮に黒岩と大門と呼びます――の雑談の抜粋であります。

バンテージ・ポイント1大門 いやあ、クロさん『バンテージ・ポイント』どうでしたか?

黒岩 オレ好みのハッタリズムが炸裂!というわけで、かなり気に入ってますよ。ワンアイディアで勝負しつつも渋くキメてる、オレの理想とする映画のフォルムがここにある。

大門 おお、またポジティヴな。去年の暮れから3月くらいまでのネガティヴ・シンキングがウソのようですね。

黒岩 仕事はろくなことがないわ、女は信用できないわ、金は吹っ飛ぶわ散々だったが、まあ、そんなオレの身の上話はさておき、キャッチコピーを引用するとだな“「目を凝らせ――。」/演説中の大統領を撃ち抜いた1発の銃弾。/目撃者は8人。8つの異なる視点から、見たものは食い違う。/真実はいったい何なのか――?!”すでになんとなくオモロそうな感じがするじゃない。

バンテージ・ポイント2大門 グランドホテル形式ってヤツですかね。国際サミットの演説会場で発生するウィリアム・ハート演じる大統領の狙撃事件。その瞬間をシークレット・サービスのデニス・クエイドとマシュー・フォックス、会場の旅行者フォレスト・ウィテカー、テレビ中継中のプロデューサーのシガーニー・ウィーヴァー、さらにはテロリストらそれぞれの視点から捉えることで、事件の様々な容貌を見せていくという凝った趣向です。

黒岩 渋めのキャストの並行するドラマがいつしかクルマ30台のドツキ合いと化す、深作欣二監督の名作『暴走パニック大激突』はじめ、数多くの名作を生んだ趣向だな。この、『バンテージ・ポイント』もいいねえ、キャストが。渋いよ。華があるかないかは別にして、ホント一癖ありそうな人々が揃ってる。

バンテージ・ポイント3大門 今をときめくのは『LOST』のマシュー・フォックスなんでしょうが、ちょっと驚きの登場ですからね。マシュー、なかなか男気を感じます。ところで、どうでもいいですが、せめて、『羅生門』ぐらいのことを言わないとマトモな神経のヒトにそっぽ向かれますよ。まあ、それはさておき、前半の事件発生までを各々の視点から描くシークエンスには問答無用で燃えるものがありましたね。

黒岩 狙撃発生! 立て続けに起こる爆破! そこで、いきなりテープが逆回転! いやあ、ギミック好きのオレとしてはタマランものがあったよ。

大門 しかも、小出しに事件に新しい側面を与えていくあたりの小技は冴えてましたね。きっともう二三度見れば矛盾も見えてくるんでしょうが、うまいこと観てるこちらに「あれ、今のは?さっきは見えなかったよ」と引っかかりを残していく。

バンテージ・ポイント4黒岩 ミスリーディングも含めてな、うまく次のシークエンスを盛り上げていく。まあ、君の言う矛盾っていうのもわかるんだ。確かに策を弄しすぎて思わせぶりなだけになっている瞬間も多々あった。ネタバレは好みじゃないので避けるが、あの使い方はもったいないだろうという登場人物がチラホラいたし、宣伝でこだわっているほど8という数字に意味があるとは思えん(笑)。

大門 確かに、後半は先ほどの小気味いい逆戻しもなくなり、いきなりの大カーチェイスですからね(笑)。

黒岩 話を振っておきながら「そんなことおはさておき」とアクションに突入しちゃった感じだな(笑)。だが、その呼吸がオレには非常に心地よかったよ。少なくとも、無理に形式を貫くよりもよっぽど効果的だったんじゃないかな。観客を乗せたままエンディングになだれ込むという意味では。それこそ、あの逆回転パターンを律儀に8回やられたら飽きていたと思うよ(笑)。

バンテージ・ポイント3大門 まあ、作者が本当に見せたいもののために下ごしらえをしていたと思えば不愉快にもなりませんしね。監督はイギリスの『キング・オブ・ファイヤー』などTV畑で活躍してきた人だそうですが、そうした渋さがさりげなく感じられるところも買いでしたね。

黒岩 なるほど。確かに最近のハリウッドならで的なケレンで幕開けしておきつつ、後半はド派手なようでいて渋いというか、懐かしいタッチになるなあ、なんて思っていたんだが、監督のキャリアを聞くとそれも納得だな。ピート・トラヴィスさん、お名前覚えておくようにしますよ。ってなところで飲むか!

大門 クロさん、好きなんだから、もう!ネぇちゃん、生ビールジョッキ二つ!

(2008年4月某日 大久保・「オモニの店」にて)

(2008.4.7)

バンテージ・ポイント 2007年 アメリカ
監督:ピート・トラヴィス 脚本:バリー・L・レヴィ 撮影:アミール・モクリ
出演:デニス・クエイド,マシュー・フォックス,フォレスト・ウィッテカー,エドガー・ラミレス,アイェレット・ゾラー,
シガーニー・ウィーヴァー,ウィリアム・ハート,エドゥアルド・ノリエガ,サイード・タグマウイ (amazon検索)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式

3月8日(土)より、サロンパス ルーブル丸の内他全国ロードショー

バンテージ・ポイント (文庫)
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暴走パニック大激突
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VHS発売日: 1993.03.12
監督: 深作欣二
出演: 渡瀬恒彦
おすすめ度:おすすめ度5.0
おすすめ度5.0 いつかギラギラする日の原点!
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2008/04/08/12:42 | トラックバック (0)
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