~新春特別企画~

2010年度マイ・ベストムービー【3/3】

鎌田絢也 佐野亨 鈴木並木 富田優子 夏目深雪 藤澤貞彦 若木康輔


瞳の奥の秘密 [DVD]藤澤 貞彦

  1. 『瞳の奥の秘密』(ファン・ホセ・カンパネラ監督)
  2. 『ルイーサ』(ゴンサロ・カルサーダ監督)
  3. 『あの夏の子供たち』(ミア・ハンセン=ラヴ監督)
  4. 『闇の列車、光の旅』(ケイリー・ジョージ・フクナガ監督)
  5. 『クレアモントホテル』(ダン・アイアランド監督)
  6. 『Dr.パルナサスの鏡』(テリー・ギリアム監督)
  7. 『マイレージ・マイライフ』(ジェイソン・ライトマン監督)
  8. 『人生万歳!』(ウディ・アレン監督)
  9. 『レバノン』(サミュエル・マオズ監督)
  10. 『月に囚われた男』(ダンカン・ジョーンズ監督)

昨年は南米映画に目を開かされた。その中でも1位と2位に挙げた映画はどちらもアルゼンチン映画。ラテン・ビート映画祭では『大男の秘め事』という秀作もあり、才能もどんどん育っているようで、今後が楽しみだ。
『瞳の奥の秘密』の結末には本当に参ってしまった。究極の復讐、その怖いこと。人間はあそこまで鬼になれるものなのか。
『ルイーサ』で描かれるのは、たかが数日の出来事。失業後の彼女がどうして不器用な行動を取らざるを得なかったか、ルイーサのこれまでの人生がその行動の裏にくっきりと浮かび上がってくるところがうまい。
『あの夏の子供たち』最後にかかる♪ケ・セラ・セラのメロデイに落涙。なんと優しい響きなのだろう。「近しい人を亡くしたばかり」の人たちを優しく温かく包みこむような映画である。
『闇の列車、光の旅』アメリカに搾取され続けた国々の人が、かつてのプランテーション列車に乗って、命を賭けてまでアメリカに行こうとすることの皮肉。トンネルの向こうに見える光は、希望か、それとも死を前にして見えると言われる光なのだろうか。複雑な気持ちがする。
『クレアモントホテル』年を取るということは世界がどんどん小さくなっていってしまうこと。そんな中でもキラリと光る時間を過ごした老女の生き方が素敵だ。
『Dr.パルナサスの鏡』久しぶりに、おかしな、おかしなギリアム・ワールドを満喫。それだけで大満足。
『マイレージ・マイライフ』。「無縁社会ニッポン」そんな今だからこそ、この映画が問いかけるものの意義は大きいように思う。
『人生万歳!』ニューヨークにウディ・アレンが帰ってきた。でもあれだけアメリカ南部をコケにしたら、またアメリカにいられなくなるのではないかしらん。
『レバノン』最初と最後のシーン以外はすべて狭い戦車の中だけで話が進む。思い切ったことをしたものである。情報が無いということにおいては、兵士たちも観客もまったく同じ。そこに戦場の臨場感がある。いわば現代版「西部戦線異常なし」といったところか。
『月に囚われた男』予算が無くったってこんなに面白いSF映画ができるというお手本のような作品。どこか『サイレント・ランニング』に代表される70年代のSF映画を彷彿とさせられるところがあり、嬉しい一編。監督の父親は「♪ライフ・オン・マーズ」のデヴィッド・ボウイ。まさにこれは「ライフ・オン・ムーン」…やっぱり彼らは地球に落ちてきた男?

若木 康輔

海の沈黙 HDニューマスター版 [DVD]2010年をこの『INTRO』的に振り返ると、新年会で初めて会った佐野亨に「アンタもっと長い評も書けよー」と絡んで始まり、年末の酒席で夏目深雪にもグズグズ絡んで終わった1年でした。……かまってちゃんか! 面と向かって噛みつくのは期待とシンパシーの裏返しでありますので、ご容赦下され。2人とも本サイトに欠かせぬ主力でありつつ、『ゼロ年代アメリカ映画100』という面白い本に関わっている俊英です。僕のほうが必要以上にエラそうなのです。
さて、去年は本企画に声をかけてもらったのがとても嬉しかったものですが、2年目の今年はアレレというほど気が乗りません。1年で飽きたのか? サイテーですね。それはマーケティング・リサーチの結果かいなと聞きたくなるようなプラスチックなベストテンを毎年飽きずに出し続ける人。これも別の意味でアレですが、1年で飽きるっつーのもまた大人げない話です。

そのう、本サイトの去年のベスト記事を改めて眺めましてね、率直に言って、どうしたもんかと思ったわけです。

国内公開外国映画のベストテンだけを選ぶ書き手って、どっか安全地帯で無責任でいられるままグルメ気分でユルくたのしく遊んでるようで、ほとんど存在に意味の無い気がする。そう思い始めたのは10代後半、80年代末の頃でした。ちょうどシネマエッセイストとかシネマパーソナリティーなんて肩書を名乗った、〈ルンルンさん〉と僕が密かにネーミングしているタイプのセミプロが大量発生した時期にあたります。
どうもその影響で、洋画中心のベストテンというものに対して偏見があるようなんです。なので去年は日本映画のみのテンで参加し、バカ丁寧にワーストも出してみたのですが……、明らかに浮いてるぞオレ。世間的にはKYではイケマセンね。困った。
大体、『INTRO』09年度ベストテンの参加者に〈ルンルンさん〉はほとんど見受けられません(皆無とまでは書けませんが)。むしろ丁寧に見て丁寧に選んだことが伝わる人のほうが多く、サイト管理人・仙道勇人さんの言う「映画目利き」がよそと比べても揃っているほうだと思います。
偏見をほぐすためにも、僕もためしに外国映画のベストテンを選んでみます。

    アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち [DVD]
  1. 「ゴダール・ソシアリスム」
  2. 「海の沈黙」(※劇場初公開ということで)
  3. 「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」
  4. 「ビルマVJ 消された革命」
  5. 「(500)日のサマー」
  6. 「月に囚われた男」
  7. 「虹」(※東京国際映画祭上映)
  8. 「スプリング・フィーバー」
  9. 「ガールフレンド・エクスペリアンス」
  10. 「パリ20区、僕たちのクラス」

あ、おかげさまでやってみると面白かった。毎年やっておきたい人の気持ち、だいぶ理解できました。そうなると、あれも見てないこれも見てない、という煩悩も(初めて)生じます。まあ、「外国映画の新作は見られる時に見られるものを見る」程度のライターが選ぶとたまたまこうだった、ぐらいに受け止めてください。1本ずつの寸評はやめます。「ゴダール・ソシアリスム」みたいな神殿のきかん坊について、僕が2、3行でコメントしたところで何になりましょうや。最低でも2,500文字以上を費やすか何も言わないかです。

そう、国内公開外国映画ベストテンを選ぶのは面白かったけれど、別にそれはオレ自身が面白かっただけで、オレが選んだところでやっぱりあんまり意味は無いよなあ……とも感じたんです。
そこらへんが、〈ルンルンさん〉とはどうしてもズレてしまう点ですね。ここで正確に僕の〈ルンルンさん〉の定義を言っておきますと、「映画大好き!感動大好き!と言えるアタシが好き!」なホビー感覚をやたら躁的にアピールする人のことです。そういう人ほど嫌いなジャンルや俳優をわざわざ口に出し、それに対してレイシスト根性丸出しに無慈悲な裁断をしたがるのはどういうわけか、とよく思います。
おっと待てよ。そうか、ユルい気分に陥ってしまうのは、ワーストを出していないからか。

〈ワースト〉 「クロッシング」
首を傾げたものなら数本ありますが、挙げておきたいのはこの1本です。ただし僕は映画グルメではないし、『映画見るならシネマ裁判!』(仮名)の裁判員でもないので、面白くなかった、自分の好みと違ったなんて理由でワーストに挙げたりはしません。なので「クロッシング」を推す人を貶すつもりもありません。そこはあくまで、個人の倫理観の差異に過ぎません。 嫌なのは、「見る気がしない」なんて言葉をわざわざ字にして発信する人かな。これもまた、そう思ったとしても見るか黙ってるかのどっちかにしましょう。生産性が無いどころかただ足を引っ張るだけの振る舞いを、書き手のなかにもファン気分でナチュラルにやらかす人がいます。どんなにつまんなさそうな代物だろうとそれは字にしちゃダメよ。映画は口をきけないので僕が代わりに言っておきます。
うん、ワースト映画を選ぶとようやくピリッと締まってきますね。「クロッシング」の配給と宣伝をしている会社は、映画評を書きだしたばっかりの頃にトークイベントに出演依頼してくれ、大変よくしてくださったところです。立てんでもいい波風を立てる緊張なしには、問題提起の精神は育まれません。理解はしてもらえるものと思います。AKYということで。

ホントはね、どうせ参加するなら、『INTRO』2010年の記事ベスト/ワーストを選ぼうかと思っていたのです。4月にアップされた鈴木並木さんの「クロッシング」評を顕彰したくて。
上記の通り、僕は「クロッシング」をワーストにする者ですから、鈴木さんの評には大部分において共感的感情は持てません。映画という公器にも凶器にもなり得るメディアによって「見たことのない風景」を可視できたかのように導く作り手への疑問が、どうにも根強くあるので。
しかし鈴木さんも、おそらくはほぼ僕と同じところで(う~む……)と困っている。困りながら、少しずつ納得を探るようにして書いている。雑誌やサイトでいくつかの「クロッシング」評を斜め読みしましたが(あいにく読み通せるものはなかった)、ちゃんと体に映画を入れて誠実にウンウン唸っているものは、僕の知る範囲では鈴木さんの評のみでした。その1点で、僕は頭を垂れます。2010年の『INTRO』の良心を支えた文章たちの代表格だったと思います。

しかし、記事のベスト/ワーストはやめることにしました。頭脳明晰な年下の友人に、こうレクチャーされたのです。
「書き手同士の批判や意見、反論が昔から建設的に発展しにくいのは、読む人に、どうせ個人的なトラブルや何かが原因なんでしょ、と高をくくられてしまうから」
ゲンナリするほど正鵠を得ている、と思いました。ワーストにするつもりだった記事のライターさんとはお会いしたこともないし、お顔を拝見したこともないのですが、要は本人がキライなんだろ、と解釈されるだけじゃどうにもならん。鈴木並木がどんな人かだってオレは知らないんだよ! と訴えたところで、初対面はまだだと示す証拠なんて存在しないのです。(これ、推理小説的には面白いけど)

あと、正味で記事のベストを考えた場合、若木康輔の現在中断中の連載『地球はイデ隊員の星』を1位にせざるを得ないことにも気付いた次第です。こんなものせっせと書いてスゴいなー、書いてるヤツはちょっと規格が違うなー、というのが偽らざる実感です。これ、自画自賛が半分ですけど、もう半分は、J-POPのオーディションに間違って応募して書類選考で落とされるギター漫談家的場違い感……へのセルフ同情票だったりして。
ただ、ニッチな狙いが過ぎて三遊間をうまく抜いたつもりはいいけどどこにも需要が無かったという状態の『イデ隊員』ですが、そうボヤくつもりはありません。「途中で読むの、やめちゃいましたよ~」と笑顔で(なぜか笑顔で!)宣告してきやがったのが6人連続記録を作った日には、ナサケナイのを通り越していっそ爽やかでしたからね。
でも、若木康輔が好きに書いているものって、僕は読むととっても面白いのです。もう少しかかる予定だという連載の再開が楽しみです。……だんだん頭のおかしな方向になってきました。結局は今年も若木はKYだね、と確認できたところでこのへんで。

鎌田絢也 佐野亨 鈴木並木 富田優子 夏目深雪 藤澤貞彦 若木康輔
2011/01/16/13:45 | トラックバック (0)
若木康輔 ,藤澤貞彦 ,年度別ベスト
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