私はあまりプロレスには詳しくないので、パンフレットの受け売りを書くが、プロレスの本当の醍醐味、
美学は「受け」にある、らしい。ま、ジャズも聴き込めば、フロントの管楽器よりも、
地味で渋めなベースのほうに目と耳がゆくのと同じようなものなのかもしれない。
華麗な技というのは、多少の体力と運動神経があれば誰にでも出来るそうだが、相手の攻撃に耐えうる強靭な肉体と「受け」
を身につけることは並大抵のことではないのだそうだ。
主役の田口トモロヲは、1年かけて肉体改造を断行、13.5キロの体重増量を実現した。若手レスラーとともにチャンコを喰い、
ひたすらベンチプレスの日々。あるときは吐き、あるときはノイローゼに陥った。
それでも、肉体をいじめること1年、田口トモロヲのボディは、厚い胸板と逆三角形の見事な筋肉の鎧によって包まれた。スタッフ、関係者、
誰もが息を飲む素晴らしい変身。トレーニングの成果だ。
なんのために?
ひたすらワザを受けるために!
クライマックスでの彼は、自分より2回り近く大きなレスラーに、ひたすら痛めつけられ、なぶられ、翻弄される。まったくお話にならないほど。
そんな田口トモロヲは、最高にかっこ悪い。
最高に情けない。
涙が出るほどみっともない。
心の中の“良識ある社会人なオレ”がこう突っ込みを入れる。
お前、会社からリストラされ、退職金全額を団体設立に使い込み、その立ち上げた団体も宙ぶらりん状態、家族からも呆れられ、バカにされ、
それでも己の大好きなプロレスに命をかけて、昼夜を惜しんでトレーニングに励み、それで、このザマはなんなんだよ!と。
しかし、同時にとても泣けてくる。
“バカバカしくてムダなことほど熱くなりやすいオレ”の心がうぉ~っと雄叫びをあげる。
この愚直なバカっぷりがカッコいいぜ!
このアホな一途さがイカすぜ!
お前の負け犬っぷりが最高にカッコいいぜ!
と。
うん、かっこ悪いと書いたが、ひとたび視点を“負け犬っぷり”に移すと、なんだかすごくカッコ良く見えてきたぞ。
きっと、自分の情けなさや、みっともなさをすべて受け入れ、それでも遮二無二、なりふり構わず突進してゆくバカっぷりは、
見ている者の中途半端な“スカシた心”に痛撃の一打を食らわすからかもしれない。
普通は、これほどまでのアクションは、別のアクターを使ってもおかしくないのだという。
それでも、田口トモロヲは、リアル感にこだわり、自らの肉体でワザを受けまくり、苦悶の表情を浮かべ、汗を飛び散らかしまくっている。
撮影中は、救急車で病院に運ばれCTスキャンを受けるというアクシデントもあったようだ。
もはや、正気の沙汰ではない。
そう、田口トモロヲは、最初から正気な役者じゃないのだ。最初からイッちゃってるのだ。
過去に結成していたパンクバンドの“ばちかぶり”のときからそうだったが、そして、以前一度だけお会いして、
CMの撮影に出演していただいたが、この人の目は飛んでいて、常人とはとても思いがたい殺気だった輝きを見せる。一言で言うと、
ヤバい人なのだ。
そこが彼の魅力であり、まさにこの映画の主人公としては適役な人材だったと思うのだ。
プロレスファンならずとも、楽しめる内容だ。
もちろんプロレスファンだったら、
ニンマリと口許が緩んでしまうに違いないシーンやシチュエーションや小道具がいたるところに散りばめられていると思う。
いたるところで、試写会の会場からはプロレスファンと思しき方々からの失笑がこぼれていたから。
格好悪い男たちの、カッコ悪いけど、カッコいい生き様が封じ込められた113分だった。
ちなみに、松尾スズキが良い味出していた。
イカガワしくて、弱くて、情けなくて、愛すべきダメっぷりがなければ、この映画の魅力も半減していたことだろう。
主なキャスト / スタッフ
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Tracked on 2005/11/02(水)17:26:20
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