~特別企画~

2011年度マイ・ベストムービー【2/2】

佐野亨 鈴木並木 デューイ松田 夏目深雪 若木康輔


その街のこども 劇場版/DVD 監督: 井上剛 出演: 森山未來, 佐藤江梨子, 津田寛治デューイ松田

ベスト10を語るほど映画を観られなかった2011年。観ていれば恐らく真っ先に入れていたであろう作品が漏れているのも反省しつつ挙げてみます。

  1. その街のこども 劇場版井上剛監督
  2. トゥルー・グリッドジョエル・コーエン&イーサン・コーエン監督
  3. 富江 アンリミテッド井口昇監督
  4. 『適切な距離』大江崇允監督
  5. 『ハイパーミニマルムービーズ』
    中川究矢監督・寺内康太郎監督・白石晃士監督
  6. 『サウダーヂ』富田克也監督
  7. 『アントキノイノチ』瀬々敬久監督
  8. 『密告・者』ダンテ・ラム監督

『その街のこども 劇場版』震災から15年目の1月17日の前夜。子ども時代に阪神淡路大震災を体験し、現在は神戸を離れ別の街で暮らす男女が出会い、三宮から灘、東遊園地まで夜の神戸の街をひたすら歩く。
あの出来事をどう総括するのか。後悔、割り切れない思いに真摯に向き合おうとした誠実な作品。
2010年にNHKのドラマして制作され好評を受けての映画化。主演の森山未來、佐藤江梨子の即興のような会話と感受性豊かな表情が素晴らしい。脚本の渡辺あや、NHKで演出を手掛ける井上剛監督の今後の作品にも注目したい。
3.11以降、時間過ぎるほどさらに大きな意味を持つ作品となるだろう。

『トゥルー・グリット』  「少女が真冬に家を離れ 父の復讐を果たしたことがある」。オープニングから一気にひきこまれる堂々かつ簡潔な物語の演出。無駄のないセリフ、マティ役のヘイリー・スタインフェルドの不遜な表情も素晴らしい。
馬上4対1の銃撃戦、400ヤードのシャープスカービン銃でのロングショットといった西部劇としての醍醐味はもちろんだが、本人にとっての正義が倫理を外れた時の代償と覚悟の物語でもある。
You must pay for everything in this world,one way and another.人は必ず代償を払わねばならない。
オープニングでマティのモノローグ。犯罪者を撃ったマティがキックバックで穴に落ちるシーンが象徴的だ。
旅の末に大きな代償を払ったマティと保安官コグバーンの深い魂の結びつき。それ以上に深く長い人生の孤独。孤高の覚悟がこの物語を特別なものにしている。

富江 アンリミテッド/DVD 監督: 井口昇 出演: 荒井萌, 仲村みう, 多田愛佳『富江 アンリミテッド』 伊藤潤二原作のホラー漫画の映画化。盲執に囚われ日常から徐々に乖離していく人間の姿を、魚眼レンズ越しに覗いたような視点で過剰に可笑しく捉える伊藤作品の魅力をあますことなく描いた本作。ホラー月刊誌『ハロウィン』創刊当時からの伊藤潤二ファンとしても満足でき、姉妹の確執を実感として捉えた井口監督の手腕に拍手!
井口監督独特のフェチシズムを最大限に発揮しつつ、親子で楽しめるエンタメに昇華した電人ザボーガーも入れたいところだったが、原作ものの映画化という点であえてこちらを挙げる。

『適切な距離』 日記を媒介に断絶した母と息子がコミュニケーションを取る。どう映像で表現するか想像を超えたものがスクリーンに現れた喜び。
演劇の演出家として活動してきた大江監督の長編2作目にして第7回CO2の助成作品。
コミュニケーションに対する洞察力と映画的カメラワーク1つ1つを疑うところから始めたという取り組み方が、映画的当たり前を排し、新鮮な驚きを作品にもたらしている。

『ハイパーミニマルムービーズ』 中川究矢監督が8人の監督たちにインタビューをした『進化』では、映画業界の現状や監督たちの苦悩、なぜ現役の映画監督たちが自主映画を撮るのかが見え、そんな監督たちが撮りたいものを撮った時に何が立ち上がるのか寺内康太郎監督『ぱんいち夫婦』、白石晃士監督『超・暴力人間』で確認できる。3本揃うことで力を発揮するスーパーヴァリューなオムニバス。

『サウダーヂ』 地方都市の生活をリアルに切り取った『国道20号線』のラストシーン。どこにでも行けそうでどこにも行けない国道の風景が焼き付いている。
『サウダーヂ』ではゆっくり行き詰まりに向かっている地方都市の現状に移民とラップというモチーフを加え、骨太に仕上げている。募金を募っての制作や上映に向けての宣伝活動等、空族の精力的な動きに注目したい。

『アントキノイノチ』 さだまさし原作・岡田将生・榮倉奈々というキャッチーな要素を超えた強度を持った作品。独居者が人生の終焉を迎えた部屋の現実と遺品整理に従事する男女が命との向き合い方を模索していく対比が素晴らしかった。主人公たちの不安定さを体現したようなカメラ、審判を受けるような登山シーンも出色。ラスト30分、物語がよく知られたある一言に収斂されていく展開は原作付きのため、致し方ないところなんだろう。

『密告・者』  ファッション的演出皆無のリアル銃撃戦、無許可で繰り広げられるカーチェイスが圧巻。ダンテ・ラム作品では後悔と償いが大きな要素を占めるが、今回も救いのない、だからこそ惹かれる展開が更に深化している。

青春H 終わってる/DVD 監督: 今泉力哉 出演: しじみ夏目 深雪

    邦画ベスト10
  1. 『さすらいの女神たち』マチュー・アマルリック
  2. 『ここ、よそ』ルー・シェン(東京国際映画祭上映)
  3. 『より良き人生』セドリック・カーン(東京国際映画祭上映)
  4. 『グッドバイ』モハマド・ラスロフ(東京フィルメックス上映)
  5. 『黒髪』諏訪敦彦(CALF夏の短編祭上映)
  6. 『嘆き』モルテザ・ファルシャバフ(東京国際映画祭上映)
  7. 『ちづる』赤﨑正和
  8. 『失われた大地』ミハル・ボガニム(東京国際映画祭上映)
  9. 『終わってる』今泉力哉
  10. 『人山人海』ツァイ・シャンジュン(東京フィルメックス上映)

昨年は書籍を編集するためアジア映画の旧作を観る必要があったり、9月あたりから演劇の方にも足を伸ばしていたため、試写や新作はどうしても観たいもの以外は「行けたら行く」というような姿勢になってしまった。従って、ベスト10を選ぶにはどうだろうというところもあり、それでも映画祭には行っていたので、いつも分けていた劇場公開編と映画祭公開編をドッキングしてベスト10にしてみた(映画祭公開作品もぜひ劇場公開してほしいものばかりだ。そもそも、『黒髪』などは監督が日本にいるのだから、してほしいではなくすべきだろう)。
移民であったり貧困者、障害を持っていたり、社会的に辺境や弱者の立場に置かれる主人公が多いのはいつもながらの私の好みだろうか。『より良き人生』の追い詰められた主人公が行う思わぬ反撃には胸がすく思いだったし、これが初長編の『ちづる』で、自閉症の妹を中心とした、赤﨑監督の映し出す世界の瑞々しい美しさには心が洗われる思いだった。圧巻だったのは俳優のイメージが強かったマチュー・アマルリックが監督した『さすらいの女神たち』で、「ニュー・バーレスク」のショーダンサーの女たちのアナーキーさ、自由さ、可笑しさ、ステージの上とステージ以外での彼女たちを区別なく描写する、映画の寄り添い具合の素晴らしさ。そして、彼女らを見守る、まるで今までマチューが演じた役たちが結集したような「ジョアキム」!
3.11は映画界にも様々な影響を及ぼしたには違いないが、とりあえず私のベストテンでその影響が窺えるのは『黒髪』と『失われた大地』くらいか。原発関連、或いは「イメージフクシマ」の上映会などで優れた旧作を多く観ることができる機会があったのは喜ばしいが、3.11が映画そのものに与えた影響がはっきり出てきて、それを検証するにはもう少し時間がかかるだろう。批評の文脈でなんとかそれができればいいと思っている。

ソーシャル・ネットワーク/Blu-ray 監督: デヴィッド・フィンチャー 出演: ジェシー・アイゼンバー, アンドリュー・ガーフィールド, ジャスティン・ティンバーレイク若木 康輔

本企画に参加して3年目。今年は余計に長いまくらを置かず、新作外国映画をちょこちょこ見たなかから10本を選びます。一応僕のメインである日本映画については、エーゲイで。

  1. 『風吹く良き日』(※1980年/劇場初公開)
  2. ブンミおじさんの森
  3. 『メカス×ゲリン 往復書簡』(※東京国際映画祭)
  4. ソーシャル・ネットワーク
  5. ツリー・オブ・ライフ
  6. 『TATSUMI』(※東京国際映画祭)
  7. ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド
  8. SUPER 8/スーパーエイト
  9. ゴーストライター
  10. 『田中さんはラジオ体操をしない』

11年は『風吹く良き日』でした。学生時代、日本に来た監督作は大抵追いかけたイ・ジャンホ(李長鎬)! 配給してくれてありがとうございました。野暮でセコくて鬱屈していて、オレの映画だと今見ても思えるのが嬉しかった。よそでレビューを書く予定が消え、長文のラブレターを綴る機会を逸したのが悔やまれます。
ワーストは『クロエ』と『ナチス、偽りの楽園 ハリウッドに行かなかった天才』。感心しなかった以前に、このふつうに弱いシャシンのいったい何が配給の決め手となったのか、後学のためにも知りたいと思った2本です。傑作はホントに世界から運ばれているのか? 疑問を持ち始めちゃうと果てがないのだけど。
また11年は、シネコンでかかる派手な大型洋画を見ない年でした。それだけワタシはアート指向でして……嘘。アメリカの娯楽作の存在感がこれだけ薄いのは『007』とマカロニ・ウエスタンに配収の上位を奪われていた頃以来かも。戦後でも稀な気がします。そんな時にメイド・イン・ハリウッドから自然と離れている僕は、けっこう風見鶏。いわゆるミーハーさんのほうが、実はよほど律儀です。

佐野亨 鈴木並木 デューイ松田 夏目深雪 若木康輔
2012/01/17/22:59 | トラックバック (0)
若木康輔 ,夏目深雪 ,デューイ松田 ,年度別ベスト
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Googleブックマークに追加

TRACKBACK URL:

メルマガ購読・解除
INTRO 試写会プレゼント速報
掲載前の情報を配信。最初の応募者は必ず当選!メルメガをチェックして試写状をGETせよ!
アクセスランキング
新着記事
 
 
 
 
Copyright © 2004-2020 INTRO