歌声で世界を変える──信じてくれたのは姉さんだけだった

いつの世も、いつの時代も、自分の才能ひとつで逆境を乗り越えてスターになることは、すべての人の変わらぬ夢だ。そして、誰かが夢を叶える姿を見ることは、私たちに大きな希望と喜びを与えてくれる。そんな胸躍る実話に基づいたサクセス・ストーリーが完成した。
だが、これはただの成功物語ではない。舞台は 2005 年、パレスチナのガザ地区。繰り返される紛争のため、住民は地区から 1 歩も出ることを許されず、明日住む場所も食べる物も、命さえも保証のない厳しい毎日を送っている。この地で生まれ育った者が夢を実現するとしたら、それは世界を変えるということに他ならない。
“スター歌手になって世界を変える”──まさにそれが、ムハンマド少年の夢だった。最初は楽しく歌っていれば、それでいいと思っていた。拾ったガラクタで楽器を作り、仲良しの姉ヌールと、二人の友だちとバンドを組んだ。だが、ムハンマドの声は“最高”だと信じるヌールは、「カイロのオペラハウスに出る」というとんでもない目標を大マジメに立てる。資金稼ぎと練習を兼ねて結婚パーティで歌い、聴く者に言葉を失わせる美しい声で人々を魅了していくムハンマド。だが、計画は予想もしない形で暗礁に乗り上げる。ヌールが重い病に倒れ、両親が治療費を用意できないまま亡くなってしまったのだ。姉との約束を守るために、ムハンマドはガザの壁を越えて、オーディション番組に出場することを決意する──。

アカデミー賞®ノミネートの実力派監督が贈る
世界平和に尽くす実在のスーパースターの感動の物語

ムハンマドのモデルになったのは、全米の人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」の中東版「アラブ・アイドル」に出場し、2013 年の“アラブ・アイドル”に輝いたムハンマド・アッサーフ。姉が病気で亡くなったのも、危険を冒してガザからエジプトへ渡ったのも事実だ。勝ち抜くたびに、パレスチナの国民の期待を一身に背負う存在となり、今ではアラブで知らない人のいない真のスーパースターとなった。現在も歌手を続けながら、国連パレスチナ難民救済事業機関青年大使を務めるなど、世界をより良く変えるための平和活動に身を捧げている。
ムハンマド・アッサーフ本人に会い、たちまち彼の人柄に惚れ込み、まだ存命の人物の実話に基づいた作品を作るという、ある意味大胆なプロジェクトを始動させた監督は、イスラエルで生まれ、現在は国際的に活躍しているハニ・アブ・アサド。『パラダイス・ナウ』でアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭ヨーロピアンフィルム賞を受賞し、続く『オマールの壁』でも再びアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされた、注目の才能だ。これまでは、シリアスな政治や国際問題に真正面から迫る社会派ドラマを手掛けてきたが、ムハンマドの生き方に感銘を受け、「美しく感動的な物語が作りたい」と新境地に挑んだ。
ムハンマドと姉ヌールを始めとする子どもたちを生き生きと演じるのは、全員がガザに暮らす少年少女たち。100 人以上の応募テープの中から、スカイプによるオーディションによって選ばれた。その他、『チャップリンからの贈りもの』のナディーン・ラバキーを始めとするパレスチナのビッグスターが脇を固める。
今、一片の陰りもない希望そのものの歌声を、迷える世界に、そして日本に──。