試写会放浪記
(2005 / 日本 / 鈴木清順)

高野 雲

私の鑑賞能力の低さゆえ、正直に告白すると、う~む、よーわからんかった。の一言。

和風サイケなテイストは嫌いではないし、チャン・ツィイーも可愛い。
なんとなく、全体的にボサーッとしているオダギリジョーもいい感じ。

和風サイケと書いたが、サイケはクスリが前提の世界とすれば、和風サイケはクスリではなく酒、それも日本酒なのだろう。

酩酊して、世界が七色にぐるぐると回りはじめたときに、現れたり現れなかったりする、脈絡ないけど豪華絢爛な楽しい世界。

御大鈴木清順監督の酔狂な世界にどこまでシンクロ出来るか。どこまで世界の住人になり、難しいこと考えずに楽しめるか。
ある意味、フリージャズのアルバート・アイラーが、なーんも考えずに奏でるテナーの音に、 こちらも難しいこと抜きにどこまで楽しめるのか浸れるのかに近いものがある。

あるいは、マイルス・デイヴィスが『オン・ザ・コーナー』で描いた、インドからファンクからジャズからブルースをごった煮にした、 頭がくらくらしそうな音世界の中でどこまで遊べるのか、ひたれるのかに近いものもあるかもしれない。

アイラーや『オン・ザ・コーナー』は楽しめる私だが、清順の贅を尽くした幻覚世界は楽しめなかったなぁ。
もっとも、アイラー、マイルス、清順を同列に並べるのも強引な話だが…。

あと、映画そのものから話がそれるが、パンフレットに印刷されたオダギリジョーのプロフィールを見ると、 彼のキャリアを形成する上での重要な要素、『仮面ライダークウガ』の五代雄介役がすっぽり抜けているのはどういうことか。
もはや、彼のキャリアにおいてはお荷物な過去なのか。
川島なお美のプロフィールにおいて「お笑いマンガ道場」(中京・日本テレビ系列バラエティ番組/1977~1994年) へのレギュラー出演の記述がタブーなように、事務所のプロモーション方針なのか。それとも本人の意思なのか。

だとしたら、ちょっと悲しい(そうでないことを祈りたいが)。
私は、クウガで彼を知り、クウガで彼を好きになった。
クウガがあったからこそ、彼を注目している。
きっと、そういう人も多いでしょう?

クウガは平成ライダーの中では一番の名作だと信じて疑わない私としては、もし、字数の都合でプロフィールから「クウガ」 がこぼれ落ちたのならともかく、彼自身が自分のキャリアからクウガを抹消しようとしているのであれば、「それは違う、アレがあるから、 今があるんですよ」と言いたい。

とくに、クウガを幼稚園や小学校時代に見ていた子供たちは、大きくなっても、ずっと彼のことを「クウガに変身していたお兄ちゃん、 今度は誰々の役をやっている」という視線でずっと彼のことを注目するはずだよ。

某ヒーロー俳優は、放映終了して10年以上たっても風俗店には恥ずかしくて入れなかったと語っているように、一度ヒーローを演じてしまうと、 本人の好む好まざるにかかわらず、視聴者に往時のイメージは拭い去れないほどにこびりついてしまうものなのだ。

それが本人にとっては重荷に感じることもあるだろう。
向上心のある俳優になればなるほど、もっと今の新しい自分を見てくれよという気持ちも芽生えるに違いない。
ヒーローのイメージを払拭し、様々な可能性にトライしたいという意気込みもあるだろう。

しかし、悲しいかな、先述したとおり、松田優作といえば、まずは彼のキャリアの初期のジーパン刑事や、 工藤探偵を思い浮かべるファンが圧倒的に多いように(刑事も探偵もある意味ヒーローだ)、 ヒーローのイメージというのは本人の意思や目論見とは無関係に、強烈に男の子の脳裏にはこびりつき、一生引きずるものなのだ。

もし、オダギリ本人がクウガ時代のキャリアを否定or抹消を狙っているのであれば、それはクウガ時代のファンの否定・ 抹消にも繋がるってことでもある。

昔は正義の味方に変身していたお兄ちゃんも、じつは今は「あずみ」では美女丸みたいな悪役もやるし、「イン・ザ・プール」 ではちんちん勃ちっぱなしのサラリーマンもやるし、大河ドラマやCMではお侍さんの役もやってまーす! いろいろな人を演じているオレって引き出し広いでしょう? のほうが潔い。
だって、かつてはモロボシダンの森次晃嗣が悪役をやっても、誰も、「え!?あの正義の味方のセブンが悪役に?ボクは悲しいぞ(泣)」 とはなってないでしょう?

文字数の関係で「クウガ」のキャリアが抜けていただけだと信じたい。

…オペレッタの話がオダギリ話になってしまった。

(2005.4.22)

『オペレッタ 狸御殿』
監督:鈴木清順
プロデューサー:小椋悟、片嶋一貴
脚本:遠谷信幸
出演: チャン・ツィイー、オダギリジョー、
薬師丸ひろ子、由紀さおり、山本太郎、
高橋元太郎、パパイヤ鈴木、篠井英介、
市川実和子、美空ひばり(デジタル出演)、
平幹二朗 ほか
http://www.tanuki-goten.com/
2005年5/28より、全国松竹・ 東急系にて全国ロードショー
2005/04/30/20:21 | トラックバック (13)
高野雲 ,試写会放浪記
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