陽気なギャングが地球を回す

』(2005 / 日本 / 前田哲)

正攻法の演出が小気味良い痛快犯罪映画

陽気なギャングが地球を回す1 　伊坂幸太郎の原作（祥伝社ノベルズ）は、緻密な構成力に裏打ちされた良質の娯楽小説を連発している彼の作品の中でも、力の抜けた軽いタッチの、しかしいつもながらの緻密な構成が存分に効いたコミカルな犯罪小説である。
　伊坂は、そのあとがきにおいて、「90分くらいの映画が好きです。（略）あまり頭を使わないで済む内容であれば、そちらのほうが好ましいです」と書いているが、前田哲監督によって映画化された本作は、まさにそんな形容がぴったりの痛快無比なエンタテインメントに仕上がっている。

　嘘を見抜く達人・成瀬（大沢たかお）、演説の達人・響野（佐藤浩市）、体内時計を持つ女・雪子（鈴木京香）、スリの天才・久遠（松田翔太）の4人は、ある銀行強盗事件の現場に居合わせたことから意気投合し、自分たちならもっとうまくやれる、と強盗チームを組むことになる。
　それぞれの特技を生かし、見事計画を成功させた彼らだったが、逃げる道すがら、謎の覆面集団に襲撃され、盗んだ金を奪われてしまう。チームの中の誰かが情報を裏流ししていたのだ……。

陽気なギャングが地球を回す2 　伊坂の原作がすでに『オーシャンと11人の仲間』を筆頭とするハリウッドの典型的なチーム・クライム・ムービー（集団犯罪映画）のパロディとパスティーシュから出発しているように、本作は徹頭徹尾どこかで観たことのあるシチュエーションの連続によって物語が進行する。しかし、同じ意図のもとに作られた凡百の作品が、パロディのためのパロディに無意識的にせよ没入していった結果、もはやパロディとも呼べないただ単に陳腐な代物に終わってしまうことが多い中で、本作がそうなっていないのは、そうした作品が得てしてまといがちなトリビアルな要素を一切排した小気味良い脚本（長谷川隆、前田哲、丑尾健太郎）と、それをビジュアル重視のキャラクタードラマとして描き切った潔い演出の賜物であろう。
　『パコダテ人』あたりから才気を開花させ、『棒たおし！』において直球の物語を正攻法の演出で語る、という作風を確立した前田ならではの功績だ。
陽気なギャングが地球を回す3 　もちろんそれには適材適所のキャスティングが必要不可欠であることは言うまでもない。 4人の主演者はみなこれ以上は考えられないほどのハマリ役。ことに響野を演じた佐藤浩市は、人を食った台詞回しと身のこなしで終始場面をさらい（松田翔太とのやりとりが最高に可笑しい）、圧倒的実力を湛えたこの俳優のキャリアの中でも最高と呼んでいいくらいの魅力を発揮している。