特集

『肉体の門』 (1964年)【オリジナルサイズでの初パッケージ化】
『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』 (1963年)
『河内カルメン』 (1966年)
『すべてが狂ってる』(1960年) 【初パッケージ化】

小林 泰賢

肉体の門  新作「オペレッタ狸御殿」を完成させた鈴木清順監督は、来年は監督デビュー50周年にあたるらしい。 それにあわせるように、今回「すべてが狂ってる」(1960)「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」(1963)「肉体の門」 (1964)「河内カルメン」(1966)の4作品がDVD化され、NECOチャンネルでの日活時代、 40作品すべてが放送されるとのこと。もちろん、日活以降の作品はほとんどDVD化されているが、 意外にも日活時代のものは5作品しかDVD化されていなかった。

 1956年、制作を再開して間もない日活で監督に昇進したその当初から、情緒を排した斬新な演出で新しい感覚の映画を作るが、ほぼ同期で、同様に新風を吹き込んだ中平康の出現により、本来的な意味で清順が認められるのには多少時間がかかったであろう事は、そのフィルモグラフィーからも伺える。
 決して斬新とは言えない青春映画「太陽の季節」のヒットを受けて急遽制作された太陽族映画「狂った果実」を監督する機会に恵まれた中平は、その後、都会的なユーモアとセンスのある新感覚の作品を監督する傍ら、裕次郎主演映画の監督を務め、まさに順風満帆だったわけだが、それに引き換え清順は、水島道太郎や河津清三郎といった旬を過ぎたが渋い役者を使ったギャング物などを作りつづけ、当時の日活プログラムピクチャーの監督としては珍しく裕次郎映画を1本も撮らずに日活時代を終えている すべてが狂ってる 。こんな状況からも清順が日活内でも特殊な位置を占めていたことは想像に難くない。 そんななか各社が若者をターゲットに、家族ドラマの松竹でさえヌーベル・ヴァーグという「無軌道」 な若者たちを描く新感覚映画を制作しはじめ、裕次郎が若者であることをやめ、ムードアクションに出演するようになるなか、 清順は更にその描写を先鋭化させ、「野獣の青春」を監督することになる。もちろん、中堅として活躍するようになったことや、エロ、 グロを受け入れる(求める)時代の変化により、清順も自由に映画を作ることが出来ることになったのであろうが、 監督昇進の当初から人間に対するクールな視線や、それを背景として成立する独自の映像世界を十分に示していた。

 今回発売されたDVDのラインナップは、既にDVD化されている「殺しの烙印」「野獣の青春」「東京流れ者」といった、映像や物語の抽象化が大胆になされた作品とは多少趣きが違った作品たちだが、どの作品でも清順世界を堪能することが出来る。
 「すべてが狂ってる」は、裕次郎の弟分川内民夫主演のハイティーン映画で、「眠狂四郎」星川清司のさえた脚本が複雑な人間関係を鮮やかに描写し、スピード感のある作品だ。無軌道な若者の生態が世代間の対決を交えながら語られるが、主人公をつれこみ宿の一室で若々しいラブシーンを演じながら母親の愛人芦田伸介とやり取りさせるシーンなどは秀逸だ。
探偵事務所23 くたばれ悪党ども  清順世界を決定付けることになる傑作「野獣の青春」の布石である 「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」では、ハードボイルドな世界が軽妙に描かれている。 大藪春彦原作による両作品の公開日の隔たりがたった3ヵ月後だというのは興味深い。
 「肉体の門」「河内カルメン」はともに「野獣の青春」以降の作品であり、明らかに前2作品との隔たりを感じさせる。これらもプログラムピクチャーの枠組みの中で制作されているわけで、その成立に時代の要請と会社の方針自体大きく関わっているであろうが、清順の独特のスタイルははっきり見ることが出来る。木村威夫による美術が加わることによって、さらに自由な表現へと開かれていった。
 この清順でも数少ない女性を主人公にした映画において、強姦により女になった主人公が流転の人生の末確かな力強さをものにし、敗戦後のドサクサに生きた娼婦の仲間に加わった主人公が幸福な脱落をし、不幸を前にして強く美しくなってゆくヒロインたちの様が生き生きと描かれている。木村威夫によるセットの中に人物を立たせることが、清順の演出をより大胆に向かわせたのではないか。
「肉体の門」で主人公が、目の前で仲間の一人がリンチされるのに自分を重ね、自らが打たれるような思いに駆られるシーンで使われるオーバーラップは、形式的には安易ともいえる演出だが、主人公の苦悩と欲望が交差する大胆な表現へと昇華できたのは、その美術によるところも大きいのではないだろうか。

河内カルメン  中平のようなソフィスティケイトとも、同期に大映でデビューした増村の描く女性とも違い、 かといって形式主義に陥る事わけでもなく、 物語を分析するよりもそのあいだを漂うような位置に立ち続けた清順の映像世界がいまだに新鮮な強度を持つ事が出来るのは、 人間描写でも耽美でもない場を勝ち得たからだろう。
新作「オペレッタ狸御殿」を観ても清順の基本的なスタイルは変わらず健在だが、アナクロニズムにも芸術志向にも陥らないのは、信念のようなものに貫かれているわけではなく、清順の身体的浮遊感覚とでも言うしかないようなもの作り出してしまったのだととりあえず結論めいたものを書いておく。芸術が自己模倣をする事によって崩壊してゆくのを、浮遊しながら微笑を浮かべて見下ろしている。時代の先を行き過ぎた芸術家ではなく、ほんの少し浮かびながら生活している楽しげな仙人のようだ。

(2005.5.22)

鈴木清順監督4作品、待望のDVD発売!

★クエンティン・タランティーノ、ウォン・ カーウァイなど世界の名だたる監督達から熱狂的な支持を得る鈴木清順監督の音楽が際立つ名作を、新作 『オペレッタ狸御殿』(チャン・ ツィイー、オダギリ ジョー主演/配給:日本ヘラルド映画・松竹)の5月公開と同タイミングでDVD発売! !

★高画質デジタルニューマスター仕様

★来年の監督デビュー50周年に向けて日活ではDVD発売、CSにて40作品一挙放映(チャンネルNECO)、 劇場上映と清順作品を盛り上げていきます!!
セルDVD 2005年5月21日発売 各¥3,990(税込)、¥3,800(税別)  レンタルDVD発売もあり


肉体の門 『肉体の門』【オリジナルサイズでの初パッケージ化】
ジャンル:ドラマ  カラー/90分/シネマスコープ・サイズ/ 1964年 
DVD特典…作品データ、フォトギャラリー、予告篇、宍戸錠氏の音声コメンタリー
■ 品番:DVN-108 
【作品解説】
田村泰次郎のベストセラー小説の映画化。
清順美学と浪漫に満ちた名作

監督:鈴木清順 原作:田村泰次郎 脚本:棚田吾郎 美術:木村威夫 音楽:山本直純
出演:野川由美子 宍戸錠 和田浩治 石井富子 松尾嘉代 河西郁子 富永美沙子
戦直後の東京で、 混乱の中を逞しく生き抜いていく5人の娼婦の姿を描いた田村泰次郎原作ベストセラー小説の二度目の映画化。 撮影当時19歳だった野川由美子ら女性陣のフレッシュで大胆な艶技もさることながら、 それぞれの女性キャラクターを衣裳によって色分けした色彩設計も見事で海外での鈴木清順人気を決定づけた名作。


探偵事務所23 くたばれ悪党ども 『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』
ジャンル:アクション カラー/88分/シネマスコープ・サイズ/1963年 
DVD特典…作品データ、フォトギャラリー、予告篇、宍戸錠氏インタビュー
■品番:DVN-109 
【作品解説】
日活コメディ・アクションの金字塔。
楽しいとはこういうことだ!

監督:鈴木清順 原作:大藪春彦 脚本:山崎巌 美術:坂口武玄 音楽:伊部晴美
出演:宍戸錠 笹森礼子 川地民夫 金子信雄 初井言栄 佐野浅夫 星ナオミ
藪春彦原作「探偵事務所23」の映画化。 原作のハードボイルドタッチを大胆に脚色し、 全くのコメディタッチに変えてしまった清順らしさ抜群の楽しさ溢れる快作。二転三転するストーリー、 スリリングでダンディなアクションもさることながら、主人公・ 田島英雄を演じる宍戸錠のタフでユーモラスなキャラクターが魅力的で、 星ナオミ扮するサリーとのミュージカルシーンなどは見事な振り付けと音楽もあいまって、 日本映画の枠を超えた粋で洒落た映画に仕上っている。


河内カルメン 『河内カルメン』 
ジャンル:ドラマ カラー/89分/シネマスコープ・サイズ/1966年 
DVD特典…作品データ、フォトギャラリー、予告篇、特報(カラー映像)
■ 品番:DVN-110 
【作品解説】
ポップかつ軽やかに女性を描いた野川由美子主演の清順女性映画の秀作
監督:鈴木清順 原作:今東光 脚本:三木克巳 美術:木村威夫 音楽:小杉太一郎
出演:野川由美子 和田浩治 川地民夫 佐野浅夫 宮城千賀子 松尾嘉代
由に生き、多くの男を愛し、 逞しく生きぬく女を描いた今東光原作の映画化。全編、泣いて、笑って、ずるく、可愛く、 愛を渡り歩く野川由美子の独壇場。清順映画の共犯者、木村威夫による舞台美術めいたセット、 峰重義の軽快で時に前衛的なキャメラワークなど、その実験的な試みと様式的な美しさは、 いま観ても新鮮な"清順の女性映画"の秀作。


すべてが狂ってる 『すべてが狂ってる』 【初パッケージ化】

ジャンル:青春ドラマ モノクロ/71分/シネマスコープ・サイズ/1960年 
DVD特典…作品データ、フォトギャラリー、予告篇
■ 品番:DVN-111 
【作品解説】
清順版 「勝手にしやがれ」。
映像、音楽、すべてが斬新!初期清順作品の傑作

監督:鈴木清順 原作:一条明 脚本:星川清司 美術:千葉一彦 音楽:三保敬太郎、前田憲男
出演:川地民夫 祢津良子 芦田伸介 奈良岡朋子 宮城千賀子 坂本九 吉永小百合
在に動き回るキャメラや、無秩序で破滅的なストーリー展開、 即興的なジャズなど、ヌーベルバーグを意識して作られたセミ・ドキュメンタリータッチな作品。 三保敬太郎、 前田憲男によるモダンジャズの数々が魅力的で、作品にスピード感と緊張感を与えている。 2001年の鈴木清順レトロスペクティブでも人気を集めた初期清順作品の傑作。 デビューまもない吉永小百合も特別出演し、その可憐な姿を観ることが出来る。


●鈴木清順監督作品 セルDVD好評発売中!!
殺しの烙印』 DVN-26 出演:宍戸錠、真理アンヌ 1967年  ¥4,935(税込)
東京流れ者』 DVN-27 出演:渡哲也、松原智恵子 1966年 ¥4,935(税込)
野獣の青春』 DVN-28 出演:宍戸錠、渡辺美佐子 1963年 ¥4,935(税込)
関東無宿』   DVN-44 出演:小林旭、松原智恵子 1963年 ¥3,990(税込)
けんかえれじい』  DVN-48 出演:高橋秀樹、川津祐介 1966年¥3,990(税込)

●2006年は鈴木清順監督デビュー50周年!!
★チャンネルNECOで鈴木清順監督日活作品全40本を放映(2005年5月~2006年1月)
★劇場特集上映(2006年2月予定) ★鈴木清順DVD-BOX発売(2006年3月予定)


鈴木清順監督プロフィール
クエンティン・タランティーノ、ウォン・ カーウァイなど世界の名だたる監督達から嫉妬と羨望を受ける日本が誇る映画監督。 その独特の様式美と映像感覚は"清順美学"と云われ、熱狂的なファンを生み出す。1923年、東京生まれ。 56年「港の乾杯 勝利をわが手に」で監督デビュー。伝説的な傑作「殺しの烙印」(67)を始め、名作、 快作、珍作、等々、その後、多くの清順フリークを生むことになる40本の作品を日活時代に残す。 フリーになってからの「ツィゴイネルワイゼン」(80)「陽炎座」(81)「夢二」(91) のいわゆる大正浪漫三部作で国内外の名声を得、名監督の仲間入りを果たす。 そして2005年には念願の企画「オペレッタ狸御殿」の公開が5月に決定、 81歳で今なお時代の最先端を走り続けている。

 

2005/05/24/13:53 | トラックバック (1)
小林泰賢 ,特集
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