映画『リベリアの白い血』トークイベントレポート Part2/5
2、亀山亮(写真家)×福永壮志監督
アップリンク渋谷にて大好評上映中!ほか全国順次公開
8月16日(水) 登壇者:亀山亮(写真家)、福永壮志監督【2/2】 (取材:深谷直子)
亀山さん 本作への日本人のリアクションはどうですか?
福永監督 やっぱり海外の方とは結構違うところがありますね。向こうでも「なんでニューヨークに住んでいる日本人のきみがこういう映画を撮ったの?」という質問ももちろんあるんですが、それについての答えに日本の場合はしっくりこない人がいるような印象があって、「普遍的なテーマ」だとかの話をしてもなかなか。移民になじみがないというのはあると思うんですけど。僕がたまに帰ってくると日本にも移民が増えたなと思いますけど、それでもやっぱり少ないのでその話は日本人にはしっくりこないんだと思います。でもおかげさまで今は盛況で。
亀山さん アフリカでは何をやるのでも袖の下を要求される。福永監督も政府の人にお金を出すことはありましたか?
福永監督 しょっちゅうありました。僕がラッキーだったのは、ニューヨークで出会ったリベリア系アメリカ人の方の紹介で、リベリア映画組合という政府参加の団体と、現地のコーディネーターとつなげてもらったんですよ。僕がリベリアの空港に着くと、コーディネーターとドライバーとセキュリティの警察官が待っていて、その警察官がわいろで寄ってくる人たちをストップしてくれました。ちょっとおかしいのは、僕はセキュリティにもお金を払っているし、セキュリティを送っているボスにも払っていて、だから結局払っているんですけど(苦笑)。まあ交渉したり捕まったりだとかをスキップできてスムーズにいくからとコーディネーターが言うので付けてもらいました。撮影隊が来るまでの間に僕がひとりでキャスティングとかロケハンとかを進めていたんですけど、それは基本的に僕、ドライバー、コーディネーター、警察官というメンバーで動いていました。
亀山さん リベリアに戻る予定はあるんですか?
福永監督 上映会をやってきました。
亀山さん 人はたくさん来ましたか?
福永壮志監督福永監督 それが呼んだんですけど、向こうには映画を観に行く環境自体がないからピンとこないようで、最終的には埋まったんですが、なかなか……。呼ぶのにJICAとか大使館とかが協力してくれたんですけど、最終的には現地の人が拡声器を持って車に乗り込んで、人を乗せて持って帰ってくるみたいな(笑)。そこまでしてがんばんなきゃダメかと思って。それは地方ですけどね。このあとはDVDをどうしようか?と思っています。向こうでは映画を観るのってDVDなんですけど、海賊版とかがあっさり出回って。利益のためにやっているわけではないのでいいんですけど、もし可能性があるのであればその負の連鎖を止めたいなと思っています。ちゃんとしたルートで流せていいモデルが作れたら、現地のフィルムメーカーもそのモデルに倣ってちゃんとお金が帰ってくるシステムがもしかしたら始められるんじゃないかな?と思って、様子を見ているんですけど、ちょっと難しいかもしれません。
亀山さん 映画を観た人の反応は?
福永監督 それが意外と楽しんでくれて、笑いも「あ、ここで笑うのか」っていうところですごく起きて。例えば、ニューヨーク編で娼婦のマリアが朝ジェイコブの部屋から出ていくところで大爆笑だったんですよ。「ほら見ろ」と(笑)。あとはリベリア人のフランシス役を演じた人は、普段はコメディアンなんですよ。演技もすごく上手くて、結構ジョークも言う役なんですけど、それがリベリア的には僕らが面白いよりももっと面白いみたいで、彼が何か言うたびにもう爆笑の嵐でした。あと、すごく印象的だったのは、シスコがニューヨークに着いたシーンで、リベリア人は自分を投影しているみたいにホワっとなるんですよ。「ああ、行った」という感じで。でも僕の前の席にいた人が、隣の人に「いや、これは夢だから、夢だから」って必死に言っていたんですよ。
亀山さん よっぽどチャンスがないと行けないですもんね。特に今は厳しくて。
福永監督 リベリアはもともとアメリカに憧れもあるし、近い存在だと思っているんですけど、誰の言葉か今思い出せないんですが、リベリアとアメリカの関係を「リベリアはまるで見捨てられたアメリカの子供みたいだ」と言うものがあって、それはものすごく的を射た表現で、アメリカはリベリアのことを何も知らない。ファイアストンが国でいちばんの大企業で、政府もそれに動かされているのにそれも知らないし。
と、様々な秘話から福永監督のリベリアや映画作りに対する熱い想いまでを引き出すトークに、満場の観客も大いに沸きながら聞き入った。 最後に、福永監督が亀山さんに今後の活動を尋ねると、「この5年ぐらいマタギの村を撮っていて、それが終わりそうなので写真集を作ります。あとはメキシコの麻薬戦争を撮ろうと思っていて。報道されないから自分でやるしかない。麻薬カルテルによる誘拐が横行している村があって、怖がってみんな何も言わないんだけど、ひとりだけ家族を誘拐された人で公に意見を言っている人がいて、その人と関係性ができたからそれをやろうと」と、とどまることのない撮影への情熱を見せた。司会者からの亀山さんの最新刊『戦場』(15)等の推薦とともにトークは幕を閉じた。
(2017年8月16日 アップリンク渋谷にて 取材:深谷直子)
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1 山本政志(映画監督) × 長谷井宏紀(映画監督)3 大西信満(俳優) × 蔦哲一朗(映画監督)
4 水道橋博士(お笑いタレント) × 松崎まこと(映画活動家)5 深田晃司(映画監督)
(原題: Out of My Hand/2015年/米国/88分/リベリア語・英語/ビスタサイズ/5.1ch/カラー/DCP)
出演:ビショップ・ブレイ,ゼノビア・テイラー,デューク・マーフィー・デニス,
ロドニー・ロジャース・べックレー,ディヴィッド・ロバーツ,シェリー・モラド
監督:福永壮志 撮影:村上涼,オーウェン・ドノバン
音楽:タイヨンダイ・ブラクストン (元 BATTLES) 製作総指揮:ジョシュ・ウィック,マシュー・パーカー
製作:ドナリ・ブラクストン,マイク・フォックス 共同製作:早崎賢治,マーティー・ラング
脚本:福永壮志,ドナリ・ブラクストン 照明:ロイ・ノウリン,トム・チャベス 録音:マイク・ウルフ・シュナイダー 音響:アン・トルキネン,イーライ・コン 編集:ユージン・イー,福永壮志
美術:スティーブ・グリセ,イオアニス・ソコラキス 衣装:キャシディ・モシャー
配給・宣伝:ニコニコフィルム 協力:Uplink ,Normal Screen,松下印刷,蔦 哲一朗
後援:アフリカ日本協議会,アジア・アフリカ協会 © 2017 ニコニコフィルム