(1975~1978 / ポーランド / ルツィアン・デビンスキ,マリアン・キェルバチャク,
ヤドゥガ・クドゥジツカ,ダリウス・ザヴィルスキ,エウゲニウシュ・イグナチュク)
健全すぎる子ども像なんてつまらん!

鮫島 サメ子

 サラリーマンの世界には人事評価システムが付き物で、それは出版畑でも例外ではありません。「今期の目標設定」という不毛な申告を強制され、「評価はしてほしい人だけに」「私のことは忘れてくれ」と懇願したものの見逃してはもらえず、「じゃあ、特殊分野で貢献というのはどうだろう」という上司の誘導で、「得意分野:エロ(鬼畜上等)」と、あまり大きな声では言いたくないことを書いてしまいました。あれから半月。まだご用命はなく、結局、かいたのは恥だけかの筆者ですが、ココロが洗われるよーなメルヘンも決してキライではありません。

 原作は1957年の誕生以来、半世紀にわたってポーランドをはじめヨーロッパ各国で愛されている絵本だが、“クマちゃん”の人気を不動のものにしたのが、ポーランド国営放送とアニメーション・スタジオ“セ・マ・ファル”が共同制作した、この人形アニメ。左耳が折れたぬいぐるみのクマちゃんがおやすみ前に、テレビの前のよい子のみんなに、「こんなことがあったよ」とお話ししてベッドに入るという、まあー可愛らしいったらありゃしない。
しかし、真夏の東京都写真美術館ホールの最後列にだらしなく座って鑑賞したよりすぐりの10話に、仕事と人生に疲れたオバチャンがほのぼの和めたかというと……ちと微妙。

 前評判どおり、人形アニメとしてのクオリティは極めて高い。話はごく類型的だが、背景、衣装、室内インテリア等々、細部にいたるまで、そりゃもう丁寧かつ並々ならぬ情熱でつくられている。特に季節感たっぷりのクマちゃんの衣装がすばらしく、この美術部門だけでまぁいっかあというような気もするし、あまり日本人には訴求しなさそうなウサギの造作はともかく、“クマ・キャラ史上最もかわいい”という主人公も、確かに『オペラ座の怪人』(川原泉・作)のルドルフ・シュミット氏の次くらいには、チャーミングだ。捻りのない展開も、それ自体が悪いというわけではない。もともと、変化球が必要なタイプの作品ではないのだ。

 気になったのは、そつなくまとまりすぎたお行儀のよさである。もちろん、絵に描いたようなよい子ばかりが出てくるわけではない。「忘れな草をさがして」編のブタくん(色白餅肌!)は笑ってしまうほどの俺様だし、橋の上で通せんぼして30円の通行料を要求するカラスも理不尽だ(すぐ改心しちゃうが)。仲の良い友達の犬くんやウサちゃんも、特別品行方正ってわけではない。
 しかし、押しなべて見れば確固たる個性が輝くには至らず、彼らは大人が困らない程度に、子どもらしいはしゃぎ方をしてみせるだけである。時に、バスタブに水を出しっぱなしにしたままアイスクリームを買いに行って(ついでにそのままボール遊びに興じて)家の中を水浸しにしたりもするが、良識あるオトナには理解できない、あるいは眉をひそめる方向へのヤンチャは決してしない。実にPTA好みの子どもたちである。だから、何となーく、ぬるい。お話の終わりのお約束、クマちゃんの呼びかけときたら、まるで道徳の教科書だ。主人公の後ろで「そう言わせている」オトナの気配が露骨に浮かぶ。これだけでもなぁ、やめてほしいよな。

 本作の趣旨には愉しく子どもを躾けるという意義もあるのかもしれないし(国営放送だもんな)、ごくまっとうな制作姿勢はとても正しいことなのだろう。しかし、今さら躾けられたくもないオバチャンとしては、もう少し反骨精神や子どもが大好きなナンセンスなど、「破」の部分も見たかった。

 子どもの世界には、大人がギョッとするほどシュールな面がある。それをあえて排除し、「正しく」「美しい」世界観のみで勝負する“クマちゃん”。そんな彼に今ひとつ共鳴できないのは、やはり筆者が“特殊分野補欠要員”だからだろうか。

(2007.8.14)

おやすみ、クマちゃん 1975~1987 ポーランド/
監督:ルツィアン・デビンスキ,マリアン・キェルバチャク,
ヤドゥガ・クドゥジツカ,ダリウス・ザヴィルスキ,エウゲニウシュ・イグナチュク
公式

8月4日(土)より、東京都写真美術館ホール他全国順次公開

2007/08/20/16:25 | トラックバック (0)
「お」行作品 ,鮫島サメ子 ,今週の一本
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