福間 健二 (監督)
映画『秋の理由』について【1/5】
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2016年10月29日(土)より新宿K's cinemaにてロードショーほか全国順次公開
詩人としても活動する福間健二監督の新作『秋の理由』が10月29日より公開される。小さな出版社を営む編集者と声を失った作家、作家の妻、妖精のように現れた謎の若い女性。4人の男女の心の機微を、神秘的で豊潤な秋の景色の中に描き出す。伊藤洋三郎、佐野和宏、趣里、寺島しのぶという実力ある俳優たちを見事に生かして、映像詩と生活者の生々しいドラマを融合させた、福間監督ならではの力強い新境地をぜひ味わってほしい。福間監督に作品についてうかがった。 (取材:深谷直子)
STORY 宮本守(伊藤洋三郎)は、本の編集者で、小さな出版社「黙示書房」を経営しているが、経営は苦しく、事務所をたたむことになる。宮本の友人・村岡正夫(佐野和宏)は作家だが、代表作『秋の理由』以降、もう何年も小説を発表していない。精神的な不調から声が出なくなり、筆談器を使っている。宮本は村岡の才能を信じ、彼の新作を出したいと思っている。そして実は、村岡の妻・美咲(寺島しのぶ)が好きなのである。
ある日、宮本と村岡の前に『秋の理由』を何回も読んだというミク(趣里)が現れる。ミクは『秋の理由』のヒロインに似ていて、まるで村岡の言葉から生まれたかのような存在である。
ミクと過ごす時間の中で、宮本は美咲への思いをはっきりと自覚するが、美咲はそれを受け入れてくれない。けれど、美咲と村岡の関係は険悪になる。村岡は、正気と狂気の間を揺れ動き、難民的な男女の群れの中に自分がいる夢をよく見る。村岡は自分のそばに宮本がいることを苦痛に感じ、宮本にそれを言ってしまう。すると、宮本は怒りを爆発させる。村岡に、自分に、そしてこの世界のあり方に。
――これまでの福間監督の作品は、女の子を主人公としたものが多かったのですが、『秋の理由』は大人の男の友情と、ひとりの女性をめぐる三角関係がメインにある物語になりました。どのように着想を得たのですか?
福間 小林良二プロデューサーと相談していく中で出てきたのが、僕に近い年齢の男たちが「まだそれでも人生終わってないぞ」というところをやろうということでした。最初は全共闘世代ということも出てきたけど、最終的には60歳になったあたりの二人を描くことになりました。まずは僕の感じていることがそのまま出やすいことをやろうということで。僕は、とにかく女性を撮りたいという想いがあるんだけど、女性がひとりで魅力的に存在しうるわけではないんです。映画全体のテーマとして、「人はひとりで生きていない、でも、ひとりで生きている自分もいる」ということがあって、当然女性にとって男性の存在は大きいわけで。さらに、これもプロデューサーと話しているうちに、「作家の話をやろう」というのが出てきました。僕はそれこそ詩を書いたり映画を作ったりしているけど、本当は何をやったらいいのか分からないスランプ的なことがいつでもあるので、それを出せるだろうなあと。さらに佐野和宏のことが浮かんで、「声を失った作家」というのが出てきて。佐野和宏が声を失った作家、そして彼と親しいところに編集者の男がいて、その二人の間にまた女性がいる、という骨組みがあっという間にできて、高田亮くんの書いてくれたプロットから発展して、どんどんストーリーができていきました。
――俳優さんの個性からキャラクターが生まれたところがあるのだろうなと感じていたのですが、佐野さんの存在自体が映画の出発点のようなものだったのですね。
福間 佐野和宏と僕は長い付き合いではあるけれど、昔はあまり仲よくなかったのかもしれない(苦笑)。会うとだいたい言い合いになってしまうというか、佐野和宏の持つ「否定力」というのがあって、彼はなんでも気に入らないようなところがあって、それがちょっと苦手だったのかな。ある意味で距離のある存在だったんだけど、出会ってから20年以上経って、ハッと気づいたら「佐野和宏の考えていることがよく分かるなあ」という感じになっていた。彼は18年間監督をやっていなくて、僕の方は詩を書いたり映画を撮ったりしているけどいつも何をやったらいいか分からなくて、佐野和宏がある意味沈黙していたとすれば、その沈黙がすごくよく分かるなあということで。そこへどんどん引っ張られていきました。でも出演依頼は脚本が相当できあがってからしました。その彼には話さないまま佐野和宏にやってもらおうといういわゆる当て書きで書いていて、やってもらえることになってすごく嬉しかったですね。