福間 健二 (監督) 映画『秋の理由』について【2/5】
2016年10月29日(土)より新宿K's cinemaにてロードショーほか全国順次公開
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――寺島さんが演じた美咲は悲痛な役ですよね。悩み抜いていて明るい表情がほとんど出ない感じで。
福間 そうですね、どんどんつらくなっていく役なので、最初に宮本とデートするところで「残念でした!」みたいに、わりと明るく行きました。美咲は衣装をかなり考えましたね。最初の僕の提案と衣装の人とで食い違ったんだけど、寺島さんと一緒に選んでいって、地味めのほとんどグレーというものになった。地味な中に強さがあって、かつ魅力的な女性という感じになってくれたんじゃないかなと。寺島さんの集中力は本当にすごくて、「そうか、こうやるのか」と教えられるところがありました。また、美咲も宮本も爆発するシーンがありますが、ああいうことは人間として1回きりしか出せないと僕は思っていて、絶対ワンテイクで撮るし、カットを割ったりもしないし。そういうときの集中力は寺島さんも伊藤さんもすごかったですね。
――ミクがとても不思議な存在で、妖精のようでもあり、少年っぽくもあり、趣里さんならではの役だったと思います。
福間 そうですね。趣里ちゃんとは打ち合わせの時間も全然なくて、衣装合わせで会っただけでいきなり撮影初日を迎えたような感じだったんだけど、まず衣装を一緒に選んだときに趣里ちゃんの感性のよさを感じました。最初はダブダブのコートを着ているんだけど、そのときはお金をそんなに持っていないから知り合いの男の子にもらったぐらいの感じで、後半は18万円を取り返し、バイトも始めてちょっと余裕が出たから、いいセーターを着ていてもおかしくないかなと選びました。そういう現実感をちゃんと持ってきている趣里ちゃんがいて、それがミクになっていく。そして実際に現場に入ってパッと台詞を言ってくれたら「ああ、これは僕の映画だな」っていう感じでした。趣里ちゃんはある意味では使い方が難しい女優さんかもしれない。すごく天才的な表現力を持っているけれども、どういう映画ならばそれが活きるのか?と。この映画の中のミクは、半分以上現実的な存在じゃないかもしれない、空から舞い降りてきた存在かもしれない。それでいてフワフワしているわけではなく、ちゃんと地面に立っているんだっていうね。そういうのが趣里ちゃんの力がいちばん出るところだったんじゃないかなと思います。初日から何の心配もありませんでした。かつ、趣里ちゃんのシーンで演劇的になるところがあるんだけど、それはやっぱり必要なんだなあと。今まで演劇的なものが映画に出てくるのはどうなのか?と思っていたところがあったけど、映画というのはただ現実をなぞって撮っているんじゃない。ミュージカルが映画として成立しているのもそういうことだと思うんだけど、現実から飛躍した表現が、いいリズム、いい感じを出してくれていると思いました。趣里ちゃんに歌ったり踊ったりもしてもらいたいくらいだったけど、そういう感じも出ていたんじゃないかな。
――趣里さんは笑顔も魅力的でした。映画の中で「笑顔の力」という言葉が何度も出てきますが、監督の考える笑顔の力とは?
福間 とにかく笑顔で生きなくちゃ、ということだけど、そういうのは軽く言われがちですよね。「人生の応援歌」、「みんなで励まし合ってやっていこう」とか。そういうことからは遠ざかりたい気持ちが僕の中にはあって、「それでも生きていく」というところでの笑顔ということですね。