福間 健二 (監督) 映画『秋の理由』について【2/5】
2016年10月29日(土)より新宿K's cinemaにてロードショーほか全国順次公開
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――「声を失った作家」というのが、言葉を重視する福間監督の映画の中でとても効いているなと思いました。声が出ないからこそ言葉をいろいろな形で見せていますよね。小説の一節をテロップで読ませるところもあるんですが、佐野さん演じる村岡も筆談で話し、伝えるのに普通より時間がかかったりするということでも、言葉というものの意味を考えさせてくれる映画になっている気がします。
福間 佐野和宏は病気で声が出なくなったんだけど、映画の中での村岡は精神的なことで声が出なくなったことにしています。そこをどうするか?ということよりも、声が出ないけど何か言おうとしている佐野和宏がいて、それがとても映画として大事なことだと思えたんです。映画って歴史的にはサイレントの時代があって、トーキーが出てきて声を持つようになって、今は俳優さんが声を出すのは当たり前だけど、その前はなかったわけですよね。で、どんなふうに映画に声を持ってきたのか?と、声がどんなふうに必要なのか?と、それを佐野和宏のシーンを撮るたびに考えながらやれたんです。そんなに計算して意識的にやったわけじゃないけど、やっていく中でそういうものが見えてきました。日常的にも佐野和宏が筆談で言うと強くてね。飲んでいるときにみんな声を出して喋るじゃないですか。でも彼がこうやって書くとそっちを見るんです。だから「言葉って何だ?」って見直させる力が佐野和宏という存在にはあって、それをこの映画の中で表現として示してくれたということで、彼にとても感謝しています。
――伊藤洋三郎さん、寺島しのぶさん、趣里さんという他のキャストも大変豪華ですね。
福間 去年の11月16日にクランクインしているんだけど、キャストは10月の末ぐらいにやっと決まりました。キャスティングには苦労したんだけど、みんないい感じでしたね。
――個性派俳優の伊藤さんが、今回は普通の男を自然体で演じていて新鮮でした。
福間 伊藤さんの演じた宮本がある意味でいちばん難しい役ですよね。村岡も美咲もミクも、それぞれの俳優の個性の魅力的な部分をバンと出してくれればいいところがあるけれど、伊藤さんには「ただそのまま立っていてください」というところがあって。役者としては大変だったと思うんですけど、カメラで覗いてみて表情がいつもいいんですよね。心配だったのは魅力的すぎて60歳に見えないということ。だからミクに「宮本さんってきれいな手をしていますね」と言わせて「60歳の迷ってばかりいる男の手だよ」という台詞を入れました。そうしておかないと若く見えすぎるなって。でも伊藤さんの実年齢が60才で、それでこんなに魅力的な男がいるということだけでも相当いいんじゃないかな。