三宅流監督

――この作品は映画を見ているというよりも、このインタビューのように話している感覚だと思うんですよね。人と話している感覚。それってものすごい受容濃度が違うというか。本で活字を読むのと違って、生きている言葉として情報が向こうから来るわけです。それは全く違うと思います。さっき言った表情とか声色とか。また、今作は基礎映像みたいのを入れていないじゃないですか、治療中の映像とか。それがいいと思うんですよね。がんの現在とか、がんの歴史とかも出さない。CGとかアニメも無い。それが無いのがいいと思うんですよね。シンプル・イズ・ベストというか。三宅監督がこの映画で、あえてやらなかった事は何ですか？

三宅　それって別に何をっていうことだけじゃなくて、描きかたとかもあると思います。説明しすぎないとか、あまりごちゃごちゃとさせ過ぎないとか。だから余計なものはあまり入れないっていうことですかね。単純にそういうイメージ映像とかがあると、確かにちょっと間が持つという面はあるんだけど、それに尺を使うんだったらもっとインタビューで語られた言葉を入れたいとかありましたね。先生方が話していた言葉を編集の中でたくさん断腸の思いで削ってるから。

――情報をもっともっと入れたいと。

三宅　それもそういう情報としての言葉だけじゃなくて、本当に実感として伝わる言葉だったからイメージ映像を入れて尺を取られるぐらいだったら、語られた言葉を入れたいと。そういう優先度の高い順番に忠実にやっていったら…

――こういう形に落ち着いたと。今までに試写は何回ぐらいやったんですか？

上原　マスコミ向けの試写が3回と、医療者と関係者向けの試写が2回の計5回です。

――試写を観た方の反響はいかがでしたか？

三宅　果たして主に対話が中心に続く108分のドキュメンタリーというものが受け入れられるのか…ちょっと不安はありました。何と言っても一番最初に出演者の方たちを前に完成披露試写をやるときが一番不安はありました。

上原　マギーズ東京に出演者、関係者のみなさんに集まって頂いて、完成披露試写会をやったんです。

――それはかなりの不安だったと思います。

三宅　当日気づいたんですけど結構大変だなと思って、このシチュエーションが。

――見ながら脂汗ですよね。

三宅　そしたら皆さん……

上原　好意的な感想をね。

三宅　ある意味、自分たちの思いを代弁してくれたとお感じになっていただいたのかもしれない。

上原　上映の後、一人一人の方に挨拶をしていただいたんですよ。出演者の方々に。最初は挨拶していただく予定はなかったんですけど上映後会場の雰囲気が良かったので、せっかくだから皆さん挨拶をということになって。そしたら皆さんから好意的な感想をいただきまして、あれは本当に嬉しかったですね。

――どういう風に嬉しかったですか？

三宅　受け入れてもらえたって思いましたね。

――やっとこれで船出したなみたいな。

三宅　しかしあれは一番しんどかった。もちろん事前にご自分の出演場面は見ていただいてたんですけど。

――通して観てもらうのは初めてで。しかも一斉に。

三宅　でも、かなり好意的に観ていただきました。宣伝にも協力していただいて。いろんな方を紹介して頂けたから本当に良かった。

――お二人の気持ちも高揚したんじゃないですか。

上原　ほっとした方が強いです。ああ、良かったと。