三宅流 (監督) × 上原拓治 (企画・プロデューサー)
映画『がんになる前に知っておくこと』について【2/4】
2019年2月2日(土)~3月1日(金)、新宿K's cinemaほか全国順次公開
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――ドキュメンタリー監督魂が燃えたみたいな。
三宅 純粋に興味を持ちました。最初に上原さんに見せられたのが立花隆のNHKスペシャル『がん 生と死の謎に挑む』でした。初めて見たんだけど、がんのことって治療は難しいというのは聞いていたんだけど「がんのメカニズム自体がまだこんなにも分かっていないんだ」というのに、すごいびっくりしたと言うか。全然まだ分からないんだなっていうことを思いました。
――なるほど。
三宅 例えば、すごい人物とか、すごい出来事とかをこちら側から向こう側を撮るような、まあドキュメンタリーってそういう面があるんですけど……。
――特殊な人や事象をとることでドキュメンタリーは面白くなりますから。
三宅 それって今作で土井卓子先生(湘南記念病院 乳がんセンター長)も仰ってたけど、対岸のこちら側とあちら側みたいな感じだと思うんです。そうではなくて、せっかく上原さんとやるんだったら当事者感のあるものにしたいなって思ったんですね。スクリーンの向こう側を見てるような事じゃなくて、自分事として体感できるようなドキュメンタリーにするにはどうしたらいいかなと。まず、「もし自分ががんになったらどうするんだろう?」って思った時に実はほとんど何も知らない。何も知らないと言うか、どこに行って誰に相談して何をすればいいかというのが本当に分からない。そういう全体像みたいなものを描いたドキュメンタリーというのをかなり探したんだけど無かったんですよね。
上原 無かったですね。
三宅 当たり前のことなんだけど当たり前すぎて誰もやってなかったというのは、これはやる意味があるんじゃないかなと。まず自分ががんになった時に知りたい事を考えてみました。まず相談できる所は何かというのを考えてみた時に、がん相談支援センターというのがまずあるけれど、これはどういう所なんだろうと。拠点病院にそういうものがあるらしいけど、じゃあどうやってアクセスしたらいいんだろうとか。そこからどうやって広げていけばいいんだろうというところから始まっていったという感じですね。
――この映画ってリーフレットみたいなものだと思うんです。映像のリーフレット。本屋に置いてあるようなものです。それのもっと長いヴァージョンというか。すごくよくまとまっている。だから、とても良い資料になると思うんですよね。古びないし、すごく大事なものとして。
三宅 医療技術じゃないから向き合い方という意味では古びないと思います。
――良い悪いではなくてNHK でやってるようなものとは違って。
上原 今、わたなべさんがリーフレットみたいな映画だと仰いましたけど、そう言う意見は他の方からも頂きました。「雑誌みたいな映画ですね」とか。でも情報だけが大事なのだとしたら、この映画に出てくる先生のおっしゃってることを全部文字起こしして書籍の形で出した方が早く読めるし、読み返せるし、情報としては便利かもしれない。でもそれをあえて映画でやる意味というのがあると我々は思ってて。
三宅 対話の追体験みたいなことですかね。空間のマスを埋めていくように情報というものはあるかもしれないけど話して聞く事って、そういうマスで埋めていく物質的な情報というよりは、もうちょっとこう実感だったり意識づけだったり…。
――もう少しエモーショナルですよね。
三宅 ものの見方が変わったりとか、向き合い方が変わったりとかという、そういう実感みたいな事っていうのは、やっぱり映像もそうだし、肉体の言語っていうか。昔から口伝っていうのがあって文字で伝えるような情報もあるけど、口伝えで伝承されてきたこともたくさんあるっていうのは、やはりそういう言葉の振動みたいなものを通じて共感するということがあるから。ある意味そういう肉体としての言葉を伝える手段としてのドキュメンタリーというのがあるのかなって思います。
監督・撮影・編集:三宅流 企画・プロデューサー:上原拓治 整音:吉方淳二 ピアノ演奏:鳴神綾香
製作・配給:株式会社上原商店 制作:究竟フィルム 配給協力・宣伝:リガード 宣伝美術:成瀬慧
出演:若尾文彦(がん情報研究者・放射線診断医)/勝俣範之(腫瘍内科医)/山内英子(乳腺外科医)/唐澤久美子(放射線腫瘍医)/有賀悦子(緩和医療医)/大野智(臨床研究)/近藤まゆみ(がん看護専門看護師)/橋本久美子(がん相談支援センター相談員)/山口ひとみ(ピアサポーター)/土井卓子(乳腺外科医)/秋山正子(マギーズ東京センター長)/岩城典子(看護師)/塩崎良子(がん経験者)/岸田徹(がん経験者)/鈴木美穂(がん経験者)/鳴神綾香[ナビゲーター]
配給:株式会社上原商店 © 2018 uehara-shouten 公式サイト 公式twitter 公式Facebook