福間健二監督作品
きのう生まれたわけじゃない
2023年11月11日 (土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
少女と老人――これから生きる時間とこれまで生きてきた時間。
二つの人生が交差するとき、止まった時間がもう一度、動きはじめる。
母と二人暮らしの七海は中学 2 年生。七海という名前をつけてくれた父は、ずっと前にどこかに行ってしまった。今日も学校には行かない。川べりで「夫を亡くしたばかりの人」岬と出会い、心が通じあう。77 歳の寺田は、若いころに妻を亡くした元船乗り。老年にさしかかって、忘れていいわけではない過去が、不意に彼を不安にかき立てる。最近、老人たちが集まって飲み食いする「憩いのベンチ」に参加するようになった。そこにやってきた七海は、老人たちのありきたりの言葉に「きのう生まれたわけじゃないよ!」と反発する。七海は寺田とともに「憩いのベンチ」を抜け出して、二人の時間を持つことになった。寺田は、人の心を読むことができる七海におどろく。その夜寺田の前に、亡くなった妻綾子が現れる。
“人間は、過去から逃れられない。
過去にやったこと、忘れていいわけでもない。”
わからないことを理解しようとしながら、
新しい世界の入り口に立つ人々に贈る、
福間健二が最後に遺した、この世界への希望の贈りもの。
長篇第一作『急にたどりついてしまう』(95)以降、常に既成概念にとらわれない自由で豊かな映画表現を探求してきた福間健二監督。最新作となる本作は、学校に行かない中学2年生の七海(ななみ)と、妻を亡くした元船乗りの 77 歳の老人、寺田との心の交流を描いている。七海を演じるのは幼い頃から舞台などに出演するも、今回が映画初出演となるくるみ。そして、老人寺田役は、なんと福間監督自身が演じている。
七海と心を通わせる「夫を亡くしたばかり」の岬と、若くして亡くなった寺田の妻綾子の二役を、福間監督の『秋の理由』にも出演した正木佐和が演じている。寺田の「唯一の親戚」の次郎を演じるのは映画監督でもあり俳優の守屋文雄。いまおかしんじ、城定秀夫監督の作品などに出演している守屋を福間監督が観て、いつか自作に出てもらいたいと考えていたことが、今回実現した。またピンク映画を中心に 100 作品以上に出演し、自身も監督でもある今泉浩一や、『ふゆうするさかいめ』(20) を監督し、『夢の涯てまで』(23/草野なつか) に出演もしている住本尚子らも出演。福間映画ならではの独特のキャスティングも見どころのひとつ。
2023 年 3 月、この作品を完成させて 3 日後に、福間監督は脳梗塞で倒れ、療養中に肺炎を起こして 4 月 26 日に 74 歳で亡くなった。本作は「詩を生き、映画を生きた」福間健二監督の最後の作品となった。
- いま、人々は、とりわけ弱い立場にある老人と少年少女は、生き方を見失っている者が多い。これから何をすればいいのか、展望が見いだせない。けれども、人は人に出会い、なにかを受け取り、与えあうことで、小さな希望をつかむことはできる。
東京郊外を舞台にした、近過去でも近未来でもあるような物語を通して、そういう主題を訴えるとともに、いままでの殻を破るような映画表現を追求し、そのなかに人々を招くような「対話」を実現したい。――福間健二 (映画企画時のコメント) - 福間健二は、この地上にたしかな感触をもって生きることを底辺におきながら、詩と映画への冒険的な表現に果敢に挑戦してきた。本作では、探していた七海役のくるみに出会えた瞬間に、みずからが老人の寺田役を引き受けることを決めたのだと思う。
20 歳で若松孝二監督『通り魔の告白 現代性犯罪暗黒篇』の脚本を書き主演してから 53 年後の、大きな挑戦だった。「主演作が遺作になるなんてカッコよすぎるよ、監督」とスタッフのひとりが言ったが、果たしてそうなのである。
――福間惠子 (本作プロデューサー)
常本琢招,保志実都貴,西山慧,柴山葉平,村上僚,今泉浩一,小原早織,町屋良平(友情出演),伊藤洋三郎(友情出演)
原案・脚本・監督:福間健二
プロデューサー:福間惠子 撮影・照明:山本龍 録音・編集:川上拓也
美術:住本尚子 ヘアメイク:浅野加奈 スタイリスト:原早織
脚本協力・監督補:守屋文雄 助監督:厨子翔平,大城義弘 宣伝美術:則武弥
製作:tough mama 配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
2023 年/86 分/1:1.85/5.1ch/DCP
©2023 tough mama