映画祭情報&レポート
第23回東京国際映画祭(10/23~31)レポート3
アジアの風部門「生誕70年記念~ブルース・リーから未来へ」

深谷 直子

『ブルース・リー 死亡遊戯』
(c)1993 STAR TV Filmed Entertainment (HK) Limited.
All Rights Reserved.
今年のTIFFのラインナップで心ときめいたのはこの企画。本2010年はブルース・リーの生誕70年にあたる。世界各地で記念の催しが行われる中、「アジアの風」も彼の代表作2本と、現代のアクション・スター、ドニー・ウェンがリーの師匠を演じる『イップ・マン』シリーズなどオマージュ作4本を上映して、映画史上の巨人に敬意を表した。
『ブルース・リー 死亡遊戯』『燃えよドラゴン』の2本立て上映はもちろん大盛況で、黄色いトラックスーツを着たコスプレイヤーもやっぱりいた。今回の目玉は78年日本公開時のお宝プリントで上映する『死亡遊戯』である。クライマックスのアクション・シーンだけを撮ったところで撮影が中断しており、彼の死後5年を経て、代役を使った追加シーンなどを加えて発表された作品。バージョン違いが数多く存在するのだが、今回上映された東宝東和バージョンでは、日本の観客に向けてきめ細やかな加工がされている。例えばリーの発する怪鳥音を他のバージョンでは別の役者が吹き替えているが、東宝東和では『怒りの鉄拳』でのリー自身の声を編集で入れているのだ。冒頭の“東宝東和”のロゴだけで場内がどよめいた。公開時以来の邂逅を往年のファンたちは楽しんだことだろう。
『燃えよドラゴン』は映画史上の屈指の1本だ。『死亡遊戯』と同じロバート・クローズ監督によるものだが、未完の『死亡遊戯』と続けて観ると、その完璧さが本当に際立つ。勧善懲悪のベタなストーリーなのに、リーの肉体とアクションの輝きがすべてを呑み込んでしまう、悪魔的な作品だ。スクリーンで繰り返し観られるべきであり、TIFFが掘り起こしてくれたことには快哉を叫びたい。

「ブルース・リー特集」 宇田川幸洋氏、江戸木純氏
宇田川幸洋氏、江戸木純氏 (C)2010 TIFF
上映の合間には「アジアの風」部門の石坂健治PDの司会で、宇田川幸洋氏、江戸木純氏の映画評論家お二人によるトークショーが行われた。今回のブルース・リー特集の狙いとしてPDは「まずは記念すべき年に大画面でリーの映画を観てほしかったんです。また、いい作品がたくさんあるのになかなか入ってこないドニー・イェンの作品をブルース・リーからイップ・マンという流れの中で目に触れる機会を作りたいと思いました。そして、現在もリーが“強さ”の象徴として世界中で必要とされ、彼にちなんだ映画が撮られているということを見せたいということがありました」と語り、ゲストのお二人もリーへの想いを熱く語ってくれた。
宇田川氏は当時『死亡遊戯』のノベライズ本を出版していたそうだが、このお話がおもしろかった。リーが急逝し、幻の作品の完成が心待ちにされる中、編集部が香港の関係者から入手したリーの構想メモを宇田川氏が膨らまして書き上げた渾身の著書なのだが、今読み返すとかなりツッコミが入れられる内容だそう。だが当時のファンがいかにリーの情報に渇望していたかが伝わってくる貴重なお話だった。
江戸木氏はつい最近、やはり生誕70年を記念して『世界ブルース・リー宣言~龍教聖典~』という本を出版したばかり。いつ観てもエネルギーをもらえるリーの映画を、DVDではなくスクリーンで観たいという思いで一気に書き上げたという。つい今観たばかりの『死亡遊戯』に「完成していないから永遠に楽しめる」と興奮し、すっかり一ファンの顔で会場を盛り上げた。
優れた映画、本物の映画というのは年が経とうと古びれず、それどころかフォロワーの裾野は広がっていくし、影響を受けた新しい作品というものも生まれていくのだ。新しい作家の発掘も映画祭の使命だが、良作の保存にも努めるべきである。今年のアジアの風部門では「生誕100年記念~KUROSAWA魂 in アジア中東」という黒澤明に関する特集上映も開催された。TIFFの中でも体系だった特徴ある部門なので、これからも意識してこうした企画に取り組んでほしいと思った。

(2010.11.26)

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第23回東京国際映画祭 (10/23~31) 公式

2010/11/27/00:10 | トラックバック (0)
深谷直子 ,映画祭情報
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