山形国際ドキュメンタリー映画祭2003で最優秀賞を、また、サンダンス映画祭でも最優秀撮影賞を受賞したドキュメンタリー『スティーヴィー』が、ポレポレ東中野で公開されている。(全国順次公開予定、4月には大阪・第七藝術劇場にて公開決定)
『スティーヴィー』は、アメリカ・ドキュメンタリー史上に残るヒット作『フープ・ドリームス』を監督したことで知られるスティーヴ・ジェイムスが、4年半の歳月をかけて完成させた魂の記録とも呼ぶべき作品だ。
かつて家庭問題を抱えたある少年の「ビッグブラザー」だったことがあったジェイムス。しかし、彼が大学を卒業して映画監督となる頃には、いつの間にかその少年とは疎遠になってしまっていた。10年振りに故郷へ帰ったジェイムスは、その少年「スティーヴィー」の今を撮ろうと試みる。当初はとても個人的な小さなスケッチになるはずだったその映画は、思いもよらない出来事が起きたことから、大きく変わっていく――。
本作は、問題を抱えながらも愛と絆を諦めなかった家族の肖像を描き、人はいかにして人と関わるかという普遍的な問いを観るものに投げかける、真摯なドキュメンタリーに仕上がっている。この『スティーヴィー』の公開に合わせて、トークイベントが下記の日程で行われる。児童福祉、心理学、ドキュメンタリー、性犯罪といった本作が内包するテーマを、各界の著名人が読み解きながら、その魅力を存分に語る。重層的な作品理解を促すであろう、各分野の第一線で活躍するゲスト達の熱いトークに注目が集まるイベントになりそうだ。
公式HPhttp://www.moviola.jp/stevie/ 劇場HP http://www.mmjp.or.jp/pole2/
「日本の“スティーヴィー”のためにできること」
ゲスト:菅原哲男(児童養護施設「光の子どもの家」施設長)
有田桃生(『スティーヴィー』撮影スタッフ*カメラアシスタント)
この国の「スティーヴィー」たちとの半世紀余の関わりの甘さを暴かれました。子ども虐待激発の今、この国にやってきた映画「スティーヴィー」は運命的必然です。――菅原哲男
「暴力は連鎖するか~犯罪者の心の奥を見つめる」
ゲスト:信田さよ子(臨床心理士/原宿カウンセリングセンター)
性加害者の主人公をなぜ撮り続けるのか?監督自身の迷いと動揺がこれほどまでに率直に描かれた映画はないだろう。周囲からの誠意を裏切り続けるかのような主人公の行動は大きな謎を観る者につきつける。重く感動的な作品だ。――信田さよ子
「撮る側と撮られる側の距離」
ゲスト:松江哲明(ドキュメンタリー監督)
瀬々敬久(映画監督/予定)
安岡卓治(ドキュメンタリー製作者/予定)
僕は「スティーヴィー」をブッシュ批判やペンギンの生態記録を「面白れぇ」と言っていた友人に勧めている。そんな彼にこそドキュメンタリーの本当の魅力を知って欲しいから。――松江哲明
「映画『スティーヴィー』から何を受け止めたか」
ゲスト:杉山 春(ルポルタージュ『ネグレクト 真奈ちゃんはなぜ死んだか』著者)
中村文則(小説家)
憎むべき性犯罪はなぜ起きたか。作品は、犯罪者を疎み、放逐するだけでは解決出来ない、重い課題を突きつける。深い感動とともに。――杉山春
渾沌から生まれる、未来への切なる望み。深刻な問題に人間愛をもって向き合う、この監督の姿勢に深く共感する。――中村文則
ひとりの青年が、ある少年の「ビッグ・ブラザー」になった。
10年後、青年は映画監督に、少年は非行を繰り返し社会から疎外された存在になっていた。
南イリノイ州立大学に在学中、スティーヴ・ジェイムスは、11歳の少年スティーヴィー・フィールディングの更正を助ける「ビッグ・ブラザー(兄役の制度)」になった。少年は私生児で、母親は、彼を虐待し育児を放棄して、義理の祖母へ引き渡してしまっていた。数年後、ジェイムスは映画のキャリアを築くためにシカゴへ移った。この先も出来る限り、少年に手を貸さなければ、と思うものの、いつしか疎遠になった。10年後、映画監督になったジェイムスはイリノイ州へ戻り、スティーヴィーとの再会を果たすが、24歳になったスティーヴィーは軽犯罪を繰り返し、荒れた人生を送っていた。
問題を抱きながらも愛と絆をあきらめなかった家族の肖像。
そして、それに深く関わった映画監督の矛盾した思いを浮き彫りにしたドキュメンタリーへ。
ジェイムス監督は、スティーヴィーと音信不通の10年間に彼の身に何が起きたのか、その軌跡を辿る映画を製作することにした。しかし、スティーヴィーが重大な犯罪の容疑に問われたことで映画製作は思いもかけない局面を迎える。スティーヴィーの状況は、彼の「ビッグ・ブラザー」であったジェイムス自身に、彼と彼の家族たちに深く関わることを選ばせた。その時、この映画作りは続けるべきか、やめるべきか。スティーヴィーにとって、ジェイムスの映画製作は正しいのか、正しくないのか。映画における自身の役回りは正しいのか、正しくないのか。ジェイムスは大きな問題に直面する。
しかし、結局、ジェイムスはカメラを手放さなかった。悩み続けた。映画は逡巡を繰り返しつつも続けられた。そして、問題を抱えた青年の軌跡を描く小品ドキュメンタリーになるはずだった映画は、スティーヴィーの魂のありかと彼の犯罪、そしてそれらが彼の家族や婚約者、そして監督であるジェイムス自身に与えた深い影響を映し撮った4年半にもわたる魂の記録となった。
傑作ドキュメンタリー『フープ・ドリームス』の監督スティーヴ・ジェイムスとその製作チームが贈る魂のメモリアル。
映画『スティーヴィー』は、見た人を動揺させずにはおかない。果たして自分がジェイムスであったら。スティーヴィーの家族であったら。彼の婚約者であったら。そしてスティーヴィー自身であったら。犯罪の加害者といかに向き合うか、人間はいかに罪を負い、その罪はいかに償われるか。
簡単な解決はここにはない。しかし、深い傷を抱えながらも家族であることを受け入れるスティーヴィーの家族、失われない愛情を正直に認める婚約者、そしてスティーヴィーと共に生きることを選ぶジェイムスの姿は、人生というものの力強さを私たちに伝えてはいないだろうか。
監督は『フープ・ドリームス』で数々の映画賞を獲得したスティーヴ・ジェイムス。製作は、アメリカのドキュメンタリー映画製作の先駆者的な存在カルテムキン・フィルムズで、『フープ・ドリームス』の製作チームがあたっている。サンダンス映画祭で賞に輝いた撮影は、製作総指揮のゴードン・クィンをはじめとする3名のカメラマンがあたっている。また印象的な音楽は、カントリー&マウンテン・ミュージック界で著名なフィドル&バンジョー奏者ダーク・パウエル。大御所ウィリー・ネルソンが歌う"The
Maker"がエンディングで深い余韻を残している。
本作は、日本では山形国際ドキュメンタリー映画祭2003で上映され、大賞の『鉄西区』に次ぐ、最優秀賞を受賞。2年の歳月の後、ようやく劇場公開にいたる。
"STEVIE"
a film by Steve James
出演
スティーヴィー・フィールディング
ヴァーナ・ハグラー(義理の祖母)
バニース・ハグラー(母親)
ブレンダ&ダグ・ヒッカム(義理の妹夫婦)
トーニャ・グレゴリー(婚約者)
スタッフ
監督: スティーヴ・ジェイムス
プロデューサー:スティーヴ・ジェイムス/アダム・シンガー/ゴードン・クィン
製作総指揮:ロバート・メイ/ゴードン・クィン
撮影:デナ・カッパー/ゴードン・クィン/ピーター・ギルバート
編集:スティーヴ・ジェイムス/ウィリアム・ヒュース
音楽:ダーク・パウエル
共同プロデューサー:ピーター・ギルバート
アソシエイトプロデューサー:キャスリーン・タッカー
音楽監修:リンダ・コーエン
プロダクションマネージャー:カレン・ラースン
アメリカ映画/2002年/英語/35ミリ/1:1.85/カラー/145分
2月18日(土)よりポレポレ東中野にて公開中
他全国順次ロードショー!
4月:大阪・第七藝術劇場にてロードショー
主なキャスト / スタッフ
TRACKBACK URL: