(2006 / アメリカ / ニール・ラビュート)
実はカルトでナードなニコラス・ケイジの「男の世界」

佐藤 洋笑

ウィッカーマン1「ねえねえ、アノひと、ニコラス・ケイジの映画観てるわヨ!」
「アンビリーバブル!!」

  ……って、杉作J太郎氏風に書き出してみましたが、いや、某パチンコ・メーカーのイメージキャラまで務めた世界に名だたる俳優にケチをつけるワケじゃありませんよ。でも、ニコラス・ケイジの主演作ってそういう反応があっても不思議じゃないテイストがありません?『ザ・ロック』などの秀逸な作品も多数ある一方で、シャブの発作のように繰りだされる『8mm』『救命士』『フェイス/オフ』『ゴーストライダー』といった“きっとこいつも映画好きだ”と思わせる志の高さを孕みつつも、大味かつ珍味な怪作の群れ。フランシス・フォード・コッポラの甥という血筋を敢えて隠し、芸名で活動を開始した反骨のひとのようでいて、芸名はマーベル・コミックのヒーローからいただいたというあたり、オレはニコラスに生温い目線で、声援を送りたくなるのです。みなさんにもそんなオレの気持ちをわかっていただきたいのですが……。

ウィッカーマン2 さて、そんなニコラスが果敢に挑んだ『ウィッカーマン』。このタイトルで、モノ好きな方はピンと来るでしょうが、世界に名だたる73年のカルト映画のリメイクであります。オリジナル版は我が愛しのクリストファー・リー御大が舞台となる孤島の領主として出演するとともに自ら制作に関わり、脚本は自身の戯曲を基にした『探偵 スルース』、アルフレッド・ヒッチコックの晩年の傑作『フレンジー』などを手がけたアンソニー・シェーファーと、実にそそる面々が手がけた異色のホラー。キリスト教圏の愚直だが、生真面目な男が、異教の者たちに弄られるという、考えてみればかなりデンジャラスな作品であります。私も怖いもの観たさでチャレンジしましたが、性的な含みを持たせたダイアローグの妙に舌をまき、妖しくエロティックでのどかでさわやか、それでいて圧倒的に怖い映像に感服し、ケルト民謡やフォークソング風に統一されたサウンドトラックが後々までアタマに鳴り響き、恐れおののいたものです。

ウィッカーマン3 で、ニコラス版なんですが、時代の流れもあるのか、それともニコラス節が炸裂したのか、オリジナル版の隠微なほのめかしや行間はばっさりカット! 女性達が圧倒的多数を占める孤島を舞台にしつつ、描かれる「男の受難」。圧倒的に強い女達に男性ホルモンが大層分泌していることを大々的にアピールする髪量のニコラスがせめて責めて攻められる、男が男だった時代は遠い昔であることを今更のように強調するノンストップ・マゾヒスティック・ムーヴィーでした。うん、男の俳優だったら一度はやってみたくなる世界でしょう。若き日のイーストウッド御大の映画とか、ほとんどがこの世界だし。このリメイクの発案者は監督のニール・ラビュートのようですが、その方向性に大いに共感したのか、実に楽しそうに女の人を怖いものとして描きまくります。女嫌いなのかしら。また、デビッド・リンチの監督作でおなじみのアンジェロ・バタラメンティの音楽も実にストレートというかコケ脅しに徹していてスゴイです。鳴らしすぎだってば。

ウィッカーマン4 ってなワケで、実にストレートなショッカー映画として仕上がった本作。本国ではラジー賞5部門にノミネートされ、日本での公開も随分遅れましたが、まあ、当然かとは思います。思うんですが、ハッキリ言ってあれだけのカルト作にどう挑んでもリメイクは不利に決まっているのでオレはとやかく申しません。ああすりゃよかったのに、こうすりゃよかったのに、などと書くのも詮無いこと。この映画のツボはただ一つ、少々ハズシ気味ながらも全編にあふれるニコラスのマニアックな映画愛と自分愛です。ニコラスが自ら制作してまで訴えたかった「男の世界」。そこで遊べるかが、この映画を楽しめるか否かの分岐点だと思われます。私としては、前述の通りニコラスの目指す地平に大いに共感しておりますので、けっこう楽しめたことを告白しておきます。

 がんばれニコラス!次回作はジェリー・ブラッカイマー製作『ナショナル・トレジャー リンカーン暗殺者の日記』だそうです。いいのかそれで?ニコラスだからいいんです!

(2007.9.4)

ウィッカーマン 2006年 アメリカ
監督・脚本:ニール・ラビュート 撮影:ポール・サロッシー
出演:ニコラス・ケイジ,エレン・バースティン,ケイト・ビーハン,モリー・パーカー,リリー・ソビエスキー 他
公式
"THE WICKER MAN" MOTION PICTURE
(C)2006 EQUITY PICTURES MEDIENFONDS GmbH & Co. KGIII and NU IMAGE ENTERTAINMENT GmbH

9月1日(土)より、新宿トーアほかにて公開

2007/09/04/13:50 | トラックバック (0)
「う」行作品 ,佐藤洋笑 ,今週の一本
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