2010年度マイ・ベストムービー【1/3】
鎌田絢也 佐野亨 鈴木並木 富田優子 夏目深雪 藤澤貞彦 若木康輔
鎌田 絢也
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2010年度のアメリカ映画10本
- 第1位『ニューヨーク、アイラブユー』(ファティ・アキン監督ほか)
- 第2位『トイ・ストーリー3』(リー・アンクリッチ監督)
- 第3位『ハート・ロッカー』(キャスリーン・ビグロー監督)
- 第4位『ラブリー・ボーン』(ピーター・ジャクソン監督)
- 第5位『アリス・イン・ワンダーランド』(ティム・バートン監督)
- 第6位『コララインとボタンの魔女』(ヘンリー・セリック監督)
- 第7位『かいじゅうたちのいるところ』(スパイク・ジョーンズ監督)
- 第8位『第9地区』(ニール・ブロムカンプ監督)
- 第9位『シャッターアイランド』(マーティン・スコセッシ監督)
- 第10位『インセプション』(クリストファー・ノーラン監督)
2010年度の映画生活。
思えば今年はゆうばり国際ファンタスティック映画祭にはじまって、試写会、インタビュー、司会、書籍向け原稿執筆など、初めて尽くしの一年でした。いろんな方々と出会うことができたし、映画に対する愛を再確認して、充実した映画生活を送ったことと思います。
そしてintro新春恒例!年度ベストテン選出!昨年もいろんな映画と出会いましたが、今回も懲りずにアメリカ映画ベスト10を自分のためにやりたいと思います。嗚呼!アメリカ映画!昨年のぼくとアメリカ映画の思い出は、何と言っても<午前10時の映画祭>でスクリーンと対峙した名作の数々でした。ワイルダー『アパートの鍵貸します』(60)、ベントン『クレイマー、クレイマー』(80)、ライナー『スタンド・バイ・ミー』(87)などなど・・・、そして2011年度も2月5日から第2弾が始まるというじゃないですか!シュレシンジャー『真夜中のカーボーイ』(69)、スコセッシ『タクシードライバー』(76)、ゼメキス『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)など、名作の数々が目白押しです。
と、勢い余ってアメリカ映画への思いをのたまわりながら、昨年のアメリカ映画の新作はチョット元気がなかったかな・・・と思うわけです。そんな中でも2008年のオムニバス映画『ニューヨーク、アイラブユー』は、多様な物語、多彩な語り口を一本の映画にまとめ上げるプロデュースワークのトータルコンセプトが勝利したファンにとってはありがたい作品だったと思います。本作で最も画面が輝くファティ・アキンの挿話は、国境や人種を越えた愛を情熱的に描くことで知られるアキンの心情そのものであるかのようにリアルな抒情を湛えていて、ウグル・ユーセル、スー・チーの映画的身ぶりが実に泣かせてくれます。丹念な映画作りに呼応した各国の才能に感動した大事な一本でした。
今年もまた、映画と共にありたい!明日、『ロビン・フッド』を観てきます!
佐野 亨
- 『(500)日のサマー』
- 『インビクタス 負けざる者たち』
- 『バッド・ルーテナント』
- 『月に囚われた男』
- 『闇の列車、光の旅』
- 『政治と暴力(三島由紀夫/赤報隊)』
- 『アウトレイジ』
- 『お姉ちゃん、弟といく』
- 『キャタピラー』
- 『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』
鑑賞本数が年々減少している。とくに2010年の後半はひと月以上、映画館にも試写室にも行けない生活をおくっていた。『悪人』も『ゲゲゲの女房』も『海炭市叙景』もまだ観ていない。ただし、以前にも書いたように、「映画を観る」という行為の本質は、数をこなすこととは無関係であるとも思う。
「映画を観る」ことについて考えさせられたといえば、『告白』と『踊る大捜査線 THE MOVIE3』をめぐる観客の反応も示唆的だった。少なくとも僕は、『告白』を絶賛する映画ファンよりも、『踊る大捜査線』にきわめて真っ当な批判を寄せる(巷間いわれているような盲目的なファンなどむしろ少数派だろう)TV視聴者たちのほうに親近感をおぼえる。これについては、いずれ場所をあらためて詳述したい。
鈴木 並木
- 『プリンセスと魔法のキス』(ロン・クレメンツ&ジョン・マスカー監督)
- 『政治と暴力』2部作(渡辺文樹監督)
- 『Furusato2009』(富田克也監督)
- 『ヒーローショー』(井筒和幸監督)
- 『アイアンマン2』(ジョン・ファヴロー監督)
- 『ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール監督)
2010年は、デジタル上映(新作、旧作とも)の有無を言わさぬ急激な普及と、映画館の閉館とに心を痛めることが多かったです。慣れ親しみすぎていた環境が破壊されていくのを目の当たりにして殺伐とした気分になりつつも、それでも総じて、映画の観客のひとりであることを楽しめる年ではありました。
見た新作は約120本。映画祭はほぼ全部パスしたので、封切り館と2番館での鑑賞が中心です。見逃してしまったものも多く、あと30本くらいはフォローしておきたかったところですが、運よく見ることのできた中から、日本語映画と外国語映画、それぞれ3本ずつ選んでみました。順位なし、並びは見た順。
○『プリンセスと魔法のキス』
まず本篇の始まる前のディズニーのロゴが、ミッキーマウスの出世作『蒸気船ウィリー』から採られたものであることにもうウルウル来てしまいました。おそらく1920年代の、都市文化華やかなりしニューオリンズとその周辺を舞台に、アフロ・アメリカンのヒロインがカエルになってしまい、ランディ・ニューマンらによる音楽をBGMに、ジャズ・トランペットを演奏するワニたちと一緒に、バイユーをさかのぼってヴードゥーの尼僧(200歳)に呪いを解いてもらいに行き、マルディ・グラの夜のニューオリンズへと戻る話。そんな映画があるのか! とびっくりするようなタイプのあなたは、すぐに見てみてください。
ヘルツォーク『バッド・ルーテナント』公開や、アルトマン『バード★シット』のリバイバルに代表されるように、西部劇ならぬ「南部劇」は近年のひそかなトレンドでもあるわけですが、ウディ・アレンがニューオリンズ・ジャズの映画を撮るまでは、とりあえず本作が、南部劇の王座に居座り続けるはず。
○『政治と暴力』2部作
『三島由紀夫』と『赤報隊』からなるこの2部作は、車体にJRと書かれた電車が走り、会議室にはワイドサイズのTVが置かれ、登場人物は平気で携帯電話で会話するヴァーチャルな昭和を舞台に、イイ顔の男たちが重厚なディスカッションを展開する、現代版山本薩夫と呼びたいモノクロ大作。合計3時間半のうち、大部分は鈍重な獣のように着実な歩みを続ける映画が、とある箇所で急に、フォト・モンタージュで走り出します。その快感に、血が逆流しそうになりました。
上映を経験したことのあるひとならばご存知の通り、渡辺作品を見ることは、監督、主演のみならず、撮影、配給、宣伝、はては券売、前説、映写までを兼任しまくる渡辺文樹という存在の日々のブレや揺らぎと、観客側もやや手間ヒマかけて付き合うことにほかなりません。映画とはいつどこで誰が見ても原則的には同じものである、という固定観念が壊される瞬間を発見するために、あなたは電柱にくくりつけられた渡辺文樹の上映会のポスターにそそのかされてみるべきでしょう。
○『Furusato2009』
2011年の話題をかなりの確率でさらうであろう新作『サウダーヂ』のための素材を編集したもので、いわゆる「富田克也の監督作」ではなさそうですが、便宜上こう表記してランクインさせます。畑から採ってきた野菜を水洗いして刻んで並べたような、あるいは小料理屋のまかないのような映画。甲府周辺の現実をざっくりわしづかみしたら、UFOも土方も移民も不況もヒップホップもいもづる式にくっついてきて、ぐんぐんと世界が膨張してしまいました。もし小川紳介が『8マイル』を撮ったらどうなるか? そんなありえない仮定に対する答えが、ここにあります。
○『ヒーローショー』
どいつもこいつも動機が浅い、行動が安い。作り手としてもそうしたキャラクターに正面から向き合うのは疲れるでしょうから、ふつうならついつい、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』みたいなイケメン・プロレタリアート映画にしてみたくなるところを、逃げずにどーんとぶつかった脚本(井筒監督、羽原大介、吉田康弘の共同)にまずは喝采を送りたいです。そして、それを立体化する演出と演技は、現代日本の劇映画としては限界というか究極に近づいていて、ドキュメンタリーよりもフィクションのほうがリアルなときもあるのだ、という当たり前のことを再確認させてくれました。
最初のほうで「帝国の逆襲だ。エンパイア・ストライクス・バックだ」といったセリフがありましたが、井筒監督の『ガキ帝国』への回帰宣言なのでしょうか。次作でもガツンとカマしてほしいものの、これ、まったくヒットしなかったようなので、ちょっと心配です。
○『アイアンマン2』
近年のアメリカ映画を見ると、「何が起こっているのかわざわざ分からなくしているとしか思えないアクション編集」が主流となっていることに本当にうんざりするのが常で、アクション映画作家・成瀬巳喜男の爪の垢でも煎じて飲んでほしい、といつも感じます。そんな中、2010年に見た新作アメリカ映画では、ほぼ『アイアンマン2』だけが、目にも頭にも心地よいアクション演出を実現していました。
1カットあたりの適度な持続時間、理路整然とした空間認識、そして重力の法則にのっとったカット割り。それに加えて、やや豪華なキャスト、全体にただよう軽度のバカバカしさ。パーティでのバトル・シーンで、ロバート・ダウニー・ジュニアがDJに対して、「怖がらなくていい。腹に響くビートをくれ」と、自分でBGMの指示を出すあたり、悩んでばかりのヒーローが跳梁跋扈する現代アメリカにおいては新機軸なのでは。あらゆる面で大人の余裕に満ちた、いい湯加減なこうした作品はいまどき貴重ですので、断固として年間ベストにねじ込ませていただきます。あしからずご了承ください。
○『ゴダール・ソシアリスム』
5月のカンヌ映画祭での上映のニュースを聞いてから半年、期待したり忘れたりしながら待ち続け、いざ見てみたら、結果として、あまりにも別格な映画でした。わたし(たち)がふだん、劣化した画像、もともと劣化している画像、デジタルのにじみ、カクカク動いたり飛び飛びに再生されたりする映像、輪郭のギザつき、割れた音声、エフェクトされた色彩etc、etcとこんなにも身近に接しているのだと、教えてくれた映画。というか、ほかの映画がそういうことを教えてくれなさすぎであることにわたし(たち)がいままで何の疑問も持たなかったことを教えてくれた映画。あのゴダールも休みの日にはYouTubeやニコニコ動画を見て6時間くらい平気で時間を無駄にしていることを教えてくれた映画。新現実という名の映画。映画がかろうじて映画の形のまま、まだ充分にかっこよくありえる映画。
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