さらばサントラ愚連隊
『ラジニカーントのロボット(仮)』/音楽:A.R.ラフマ-ン
インド製SF超大作映画のサントラには、ハリウッド映画音楽業界の大物作曲家の影あり

石田 航一

Amazon.co.jp: Robot: A.R. Rahman: MP3ダウンロード去年、インド(タミル)映画界で破格の巨費を投じて製作されて世界的に大ヒットを記録したインド初の本格SF映画「ラジニカーントのロボット(仮)」(原題:ENDHIRAN THE ROBOT)だが、日本では公開されずじまいのままで、国内の熱心なインド映画ファンから日本での劇場公開が懇願されていたが、ようやく来年、日本での劇場公開が決まったという。

既にこの映画の事を熱心に追いかけている方なら承知の事だと存じているが、公開前から本作品のサントラは高い評判を呼んでいた。
本作の音楽を担当したのはインドを代表する世界的音楽家、A.R.ラフマーン。
ラフマーンの名前が日本で浸透したのは、彼が音楽を担当した「ムトゥ 踊るマハラジャ」が日本で公開された時だと思うが、公開当時、日本の配給サイドがラフマーンの事を「インドの小室哲哉」と称した、今からみると恥ずかしすぎる宣伝コピーで紹介していたのが時代を感じさせる。
90年代からインド映画音楽界で活躍しているラフマーンは、タミル語圏の映画音楽でめきめきと頭角を現し、インド国内での大人気作曲家としての地位を不動の物にした。やがて、中国映画 やハリウッド映画に進出し、「ヘブン・アンド・アース」、「エリザベス ゴールデン・エイジ」(クレイグ・アームストロングと共同作曲)、「127時間」などのスコアを担当し、「スラムドッグ$ミリオネア」のサントラでアカデミー作曲賞・歌曲賞のみならず、グラミー賞も勝ち取る快挙を成し遂げ、その名を世界中に轟かせた。

「ラジニカーントのロボット(仮)」は、インドの国民的スーパースター、ラジニカーント扮する感情を持った最新鋭のアンドロイド・ロボットが巻き起こす大騒動を描いた作品だ。その音楽も本編の内容にあわせ、とにかくテクノ系アッパー・サウンドの連発になっており、観る者(聴く者)を圧倒する。
インドの娯楽映画の特徴は、劇中に多くのミュージカル仕立てのダンス・シーンが挿入される点にあるが、本作もド派手さと華麗さを極限まで追求したインド映画ならではのミュージカル・シーンが用意され、バックダンサーのロボット集団が主人公たちと披露する、インド舞踊+テクノ・サウンドによるダンス・シーンが圧巻だ。

サントラ(日本国内のiTunesとAmazonでもタミル語ヒンディー語の2つのバージョンが配信されている )はミュージカル・ナンバーを中心に収録されているが、曲を聴いているだけでも感じられるラフマーンの現代的なサウンド・メイキングのテクニックとセンスは、同世代の海外の映画音楽作曲家たちの中でも群を抜いている。
中でもロボットと美女との恋を激しいテクノ・ビートで彩ったダンス・ナンバー、恋の喜びを清楚なアコースティック・ギターの伴奏と爽やかなメロディーで綴った曲、ロボットの野心と情熱を荘厳な曲調で奏でたサイバー・ゴシック・ボーカル、人間社会でのアンドロイドの姿をトリッキーかつユニークなサウンドで描いた曲など、聴き応えのある曲が満載だ。

ラフマーンは現在の様々なジャンルの音楽シーンの流れを的確に捉えており、だからこそ手がける作風のレンジも大きいので、本作ではダフト・パンクを意識したボーカル・エフェクトを多用、シンセによるデジタル・ビートやループ・サウンドを駆使して立体的かつ多層的に音群を構成した、単なるミュージカル・ナンバーとは一味違う、ダンス・ナンバーとしても一級品のサントラをインドから世界に送り出した。
また、ラフマーンは自作のサントラでメインのボーカリストとして歌声を披露する事も多く、魅力的なハスキー・ボイスの持ち主である。歌手としても一流の腕前を誇り、本作でもボーカリストとして参加、大奮戦している。

ラフマーンの曲の魅力は、伝統的なインド歌謡の流れを下敷きにしつつ、万人受けするギリギリまで洗練されたポップなメロディーを持っている所にある。単なるポップ・ミュージック系のノリの良さだけでなく、ロンドンに留学した時に現代音楽の作曲の基礎をラフマーンはきっちり学んでいるので、彼の作る曲は音の一つ一つが自然に聴く者の印象に残るように論理的に繋がって構成されている所も特筆に値すると言えるだろう。
本作はインドの超大作映画のサントラだが、感情を持ったアンドロイドと美しいヒロインとの恋を魅力的な歌で綴ったアルバムだと意識して聴いてみると、そこはかとなく切ない気持ちに包まれて聴き終わるに違いない。

最後に少々触れさせていただくが、本サントラのミキシングの一部を現在のハリウッド映画音楽業界で頂点に君臨する作曲家、ハンス・ジマーが率いる音楽製作会社、リモート・コントロール・プロダクション社のスタジオで行っている事も注目して欲しい所だ。
ジマーは「グラディエーター」、「ラスト・サムライ」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ等の大作映画の音楽を担当し世界中で高い人気を得ている作曲家だが、後進の育成と高品質の音楽レコーディング&ミキシングを行う為に音楽プロダクション、リモート・コントロール・プロダクション社を設立し、ジマー自ら社長職に就いている。
同社には新進作曲家や録音エンジニア、プログラマーといった多数のスタッフが在籍し、ハリウッド映画音楽業界の一大勢力になっている。
社屋にはジマー自ら厳選した高品位の録音機材と同社でカスタマイズされた社外秘のサンプリング音源を内蔵したサーバーが多数完備された、世界でもトップクラスのサウンドトラック用に特化されたレコーディング&ミキシング・スタジオが設置されている。ジマーは同社のスタジオを部外の作曲家のレコーディングにレンタルする業務も行っており、商才に長けたビジネスマンとして映画音楽業界でも一目置かれている作曲家なのだ。
話が多少脇道にそれてしまったが、実はラフマーンとジマーはハリウッド最大手の映画音楽エージェンシー、The Gorfaine/Schwartz Agencyという同じ事務所に所属しているのだ。個人的な推測だが所属作曲家同士の繋がりが在ったからこそ、ラフマーンはジマーの会社のスタジオを割安の使用料で借りて、本サントラのミキシングを行えたのだろう。
インド映画界は映画の音楽面においても、ハリウッド映画音楽業界と密接な関係を持っている事について言及させていただいた所で、今回は幕を下ろしたい。

(2011.12.7)

ラジニカーントのロボット(仮)
監督:S・シャンカール
プロデューサー:カラーニディ・マーラン 撮影監督:R・ラトナヴェール
ハリウッド・ユニット・エグゼクティブ・プロデューサー:ジャック・ラージャセーカル アニマトロニック・スーパーバイザー:アラン・スコット
アニマトロニック・コーディネーター:ヴァンス・ハートウェル 衣装:メアリー・E・ヴォグト 音楽:A・R・ラフマーン
編集:アントニー・ゴンサルヴェス VFX:スリーニワーサン・モーハン
出演:ラジニカーント,アイシュワリヤ・ライ,ダニー・デンゾングパ,サンターナム,カルナース
スラムドッグ$ミリオネア [Soundtrack]
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  • アーティスト:A・R・ラフマーン feat.マドゥミーター, A・R・ラフマーン feat.ブラーズ&タンヴィー・シャー, A・R・ラフマーン feat.スザンヌ他
  • 発売日:2009/4/1
  • おすすめ度:おすすめ度2.5
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ムトゥ 踊るマハラジャ
ムトゥ 踊るマハラジャ

2011/12/07/15:41 | トラックバック (0)
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