ハンネス・ホルム監督/『幸せなひとりぼっち』

ハンネス・ホルム (監督)
映画『幸せなひとりぼっち』について【2/2】

12月17日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材・文:岸 豊)

『幸せなひとりぼっち』場面2 『幸せなひとりぼっち』場面3
――本作は予算が限られているかと思いますが、幼いオーヴェが汽車に轢かれそうになる緊迫したシーンはCGを用いているのではないかと思いました。どうやって撮影されたのでしょう?

ホルム監督 スカンジナビアの監督は、常に限られた予算を意識しなければなりませんが、あのシーンには多少のお金をかけました。いくらかのCGを用いて、古典的なトリックと織り交ぜて撮影しました。一方で、バス事故のシーンは、スカンジナビア的で倹約的なスタイルを採用しています。実際にバスの小さなトイレを転がすことで、バスの落下に対して、より強い恐怖を生むことができましたね。
オーヴェが自殺を試みるシーンには悩みました。視覚的には良くないものなので、あまり深刻にならないように、ユーモアを挿入しつつ、緊張を保つことによってバランスを取りましたね。また、オーヴェが電車に轢かれそうな男性を救うシーンは、本作で唯一の追加撮影を行っています。オーヴェが助ける模様をアイフォンで撮っている女性を描いたのです。スウェーデンでは、事故の目撃者が撮影を先行させてしまうことで、犠牲者を助けることができないといった事件も実際に起こっているので、追加撮影によってアイフォンの女性を描くことは重要でした。

――そういったことを生んでしまうデジタル・デバイスについてはどう感じていますか?

ホルム監督 デジタル・デバイスは若い文化であり、我々は学ばなけれなばらないわけですが、100年後も人々がああいった行動を取っているとは思わないです。なぜなら、どう使うか学んでいるはずですから。この映画自体は非常にクラシカルなもので、『アバウト・シュミット』(02)や『グラントリノ』(08)などと同様に、怒りっぽい老人を描くものです。しかし、そうしたクラシカルなストーリーに、新しい要素を入れていくことで、社会の変化を表現することができますね。

――お気に入りのシーンを教えてください。

ホルム監督 二つあります。どちらも原作にはないもので、一つはオーヴェとパルヴァネ夫人が通じ合って、ジョークを交わしながら、近所を幸せそうに歩く姿を、ワンショットで撮影したシーンです。このシーンでは、パルヴァネ夫人が「何か」を言ってしまって、オーヴェはこれが気に入らず、結果的には激高してしまいます。人生によくある場面だと思うのですが、人はお互い親切になったり幸せになることもできる一方で、誰かがネガティブな言葉を発することによって、いきなり険悪になることも起こりうる。そういう意味で気に入っています。もう一つは、ラストシーンです。私は希望という言葉が大好きなのですが、そういったシーンを入れたいと思って撮影しました。

ハンネス・ホルム監督1
――そもそも、映画監督になったきっかけは?

ホルム監督 私は人に会うことや、物語が好きなのですが、人生に退屈しないためでもあります。映画を作ることは大変で、努力しなければなりません。脚本を書いて、撮影し、編集して、人々に披露することは、仕事の良いミックスになっています。以前は、編集の作業が好きでした。外が寒い冬を、心地よく過ごすことができましたからね。でも、年を取って知識が増えて、撮影が好きになったのです。撮影には混沌としたものがありますし、人生を保つことができて、多くの人と会うこともできますから。

――映画作りにおけるポリシーはありますか?

ホルム監督 観客を驚かせることが大好きです。一つのきっかけから想定外のところに連れて行ってくれるというストーリーが好きで、その過程で観客の興味を保ち続けることができれば最高ですね。2時間で終わる一つの物語を語る映画が好きです。なので最近では、テレビシリーズは自分に向いていないと思っています(笑)。

――この作品はスウェーデンで、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)よりもヒットを飛ばしました。日本ではブロックバスターをインディペンデントが興行収入で上回ることは稀ですが、これが実現した要因は?

ホルム監督 サーブ(スウェーデンの国産車)が宇宙船よりも役に立つからでしょう(笑)。それはさておき、普通の人生を描くストーリーに、魔法のタッチがあることが大きいですね。私が子供のころ、スウェーデンでは、少年がパンツに手を突っ込んだらお金などが出てくるという内容のテレビ番組があったのですが、私は今もあのパンツが欲しいと思っています。普通の少年が、魔法のようなものを持っている。普通の人生の中に魔法がある物語は、ブロックバスターよりも影響力を持つ時があるのではないでしょうか。私は子供たちに、「この映画は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』よりもヒットを飛ばすぞ」とジョークを飛ばしていました(笑)。馬鹿げたジョークですが、現実になりましたね。驚きましたし、面白いことですよ。

( 取材・文:岸 豊 )

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幸せなひとりぼっち 2015年/スウェーデン/原題:EN MAN SOM HETER OVE /5.1ch/116分/シネスコ
監督・脚本:ハンネス・ホルム 出演:ロルフ・ラスゴード,イーダ・エングヴォル,バハー・パール
原作:フレドリック・バックマン 訳:坂本あおい(早川書房刊)
日本語字幕:柏野文映 後援:スウェーデン大使館 配給・宣伝:アンプラグド
© Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
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12月17日(土)より新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

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2016/12/06/20:07 | トラックバック (0)
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