高瀬 將嗣 (監督) 映画『カスリコ』について【3/4】
2019年6月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
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――もともと脚本にそこまで書き込まれていたんですか?
高瀬 いえ、やはりみなさんを見ていて、これはホンどおりではもったいないなと思いまして。これだけのメンバーがいるんですから、もっと贅沢にみなさんのキャラクターを引き出して自由にやってほしいなと思ったら、全員それに乗ってくれました。及川いぞうさんと大家由祐子さんが隣り合わせに座っていると、どうも相性がよくないんですが、あのくだりは全部二人のアドリブ(笑)。緊張みなぎる賭場の効果的な緩急になったと思います。
――そうなんですか。生々しくて面白かったです。物語としても、博徒という一般人とはかけ離れた世界の人の話かと思うとそうではなく、一人の男の成長記としてすごく身近に感じられました。
高瀬 吾一の場合は失敗して0になったというより、マイナスからのスタートなんですよ。冒頭の彼は絶望に暮れていたと思うんですが、それに対して、少ししかゆかりのなかった荒木五郎が助けてくれた。でも本人はかつて名を成した博打打ちだったわけですから、プライドがあってカスリコという仕事には馴染めなかったわけですよね。しかし心を入れ替えて再起を目指す。また、全体の流れで意識したのは、今の人はやらないでしょうけど「双六」なんです。順調に進んでいっても3つ戻るとか、場合によってはワンセクション飛んでいい具合のところまで進めるとか。人の助けに支えられ、一進一退しながらも吾一は少しずつ前進していくんです。
――映像の強さも印象的でした。白黒というのも映画に合っていましたが、これは脚本の國吉さんが希望されたことだそうですね。
高瀬 今のお客さんにとっては白黒というのは馴染みがなく、ともすれば拒否反応を招く恐れもあるのですが、この映画は始まって5分、10分ぐらいで白黒ということを忘れさせてくれる流れになっているんじゃないかなと自負しています。白黒ということで、カラーにはない苦労もありました。色が白か黒かグレーしかないので、大家さんが演じたママの着物は、シーンごとに全部違う着物で行くぞ、となっても色が映らない(苦笑)。だから柄や帯などで変化を出すようにしました。衣装合わせでは苦労しました。でも大家さんの取り組み方もあったんだと思いますが、全シーン違う柄が映えているんですよ。
――俳優さんは高知の方が多いですよね。
高瀬 できるだけ高知出身の俳優さんで固めてほしいという國吉さんの希望がありまして。土佐弁というのは土地の人以外には操れないからと。でも意外と高知出身の俳優は少なくて、この中で言ったら鎌倉さんと大家さん、西村雄正さん、賭場の客としてはこれだけでした。でも手練れの俳優陣が高知弁を駆使、俳優の力量は信頼して最たるものだなと再確認しましたね。
――昭和の匂いがする土佐の風景も素晴らしかったです。
高瀬 制作スタッフが一生懸命ロケハンをして見つけてきてくれました。ラストシーンがカラーになっていますが、「誰がなんと言おうと海に向けてカラーにしたい、これが土佐から見た太平洋だ!」と、あそこだけは色をつけたかったんです。ところがそんなに大事なシーンで、そこまでなんのアクシデントもない今回の組だったのに、あの日に限って移動車とレールを忘れたんですよ。
――えっ、そんな大事なものを!?
高瀬 「どうしよう? 取りに帰るか?」という話になったんですけど、雑物を乗せるトレーがありまして、その上にカメラマンが乗ってくれて、みんなで押そうって。すごくいい移動車になりましたよ(笑)。
――(笑)。そこがクランクアップですか?
高瀬 そうです。いちばん最後があのシーンでした。あの風景を撮るために3時間待ったかな。ロケハンのときは非常にきれいに晴れていて、太陽が水面に映ってという感じだったんですけど、その日は曇っていましてね。お昼前に行って、午後から晴れるという予報だったので待機していたら、だんだん晴れ間が出てきて、「それ今だー!」と準備をして、雑物用のトレーに乗せてグルグルグルっと。シリアスで感動的な幕の下ろし方なのに、やっていることはほぼ吉本新喜劇だったので、メイキングを回しておけばよかったなあ。
出演:石橋 保,宅麻 伸,中村育二,山根和馬,鎌倉太郎,金児憲史,高橋かおり,高橋長英,
小市慢太郎,西山浩司,高杉 亘,伊嵜充則,及川いぞう,西村雄正,大家由祐子,池上幸平,服部妙子
脚本:國吉卓爾(『カスリコ』第26回新人シナリオコンクール 特別賞 大伴昌司賞準佳作)
監督:高瀨將嗣 音楽:辻 陽 制作:臼井正明 撮影:今泉尚亮 美術監督:若松孝市 照明:守利賢一
録音:藤丸和徳,清水雄一郎 装飾:井隈啓太 記録:柳沼由加里 配役:空閑由美子 助監督:山本亮
制作担当:古森正泰 制作協力:シネムーブ 製作:珠出版 配給:シネムーブ/太秦 宣伝:太秦
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