(2007 / 日本 / 竹洞哲也)
ああ、あの人が幸せそうで何よりだ

膳場 岳人

 先ごろ行われた第19回ピンク大賞で、作品『悩殺若女将 色っぽい腰つき(恋味うどん)』によって、年間第一位(作品賞)、脚本賞 (小松公典)、女優賞(吉沢明歩、青山えりな)を受賞し、今もっとも波に乗る竹洞哲也(たけほらてつや)監督の最新作である。

 地方の小さな会社で事務をしている真希(佐々木麻由子)は、夫の浮気が原因で離婚したばかり。新しい恋に踏み出す気にもなれず、 女の盛りも今や風前のともし火だ。同級生の佳代子(梅岡千里)は若い男との情事に溺れ、真希の家に出入りする姪のスズメ(青山えりな)も、 鷹匠を目指す彼氏(松浦祐裕也)とセックス三昧。真希の孤独は募る一方である。そんな彼女の息抜きは、同級生で性転換したオカマ、 ソフィービー・ルミ(サーモン鮭山)の店で酒を呑むこと。そんな侘しい真希の日常に、変化の兆しが訪れる。昔の恋人、忍(那波隆史) が帰郷したというのだ……。

 これまでも『欲情ヒッチハイク 求めた人妻』『親友の母 生肌の色香』 といった作品で地方のロケーションを生かした映画作りに取り組んできた竹洞監督(筆者は未見だが、『美少女図鑑 汚された肉体』 『乱姦調教 牡犬たちの宴』といった作品も同様らしく、地方ロケは竹洞組のトレードマークのようだ)。ここでは長野県の地方都市を舞台に、 三十代なかばの男女が繰り広げる"終わらない青春"をコミカルなタッチで描いている。

 竹洞監督の映画はどこか小劇場のお芝居に似ている。青山えりな、倖田李梨、松浦祐也、サーモン鮭山、 柳東史といったレギュラー俳優陣が、座付き作家小松公典(こうすけと読む)によって役を振り当てられ、 時にはそこに他派の女優や男優が客演の趣で招かれる。多額の資本も大掛りな舞台装置も必要とせず、ささやかな劇場で、 気の合った仲間たちと好きな映画を上"演"する――もちろん、会社側の諸々の要請を飲み込みながら。

 こうした彼らの映画作りは、作家主義的な求道の面持ちや脱ジャンルの野心とは程遠い。その代わり、 馴染んだ仲間同士でなければ醸し出すことのできない、アットホームでリラックスした雰囲気が最大の魅力となっている。また、 作品のソフト化もままならぬため、成人映画館での上映を見逃すと二度と観ることができないかもしれないという一期一会の宿命も、 小劇場的な印象を強めているのは残念なところである。

 本作はヒロイン・佐々木麻由子の熟れた魅力がきわだっている。『喪服の女 崩れる』(後藤大輔監督)や 『OL性告白 燃えつきた情事』(池島ゆたか監督)のように、ドラマティックな役柄が得意な彼女だが、 この映画では周囲の人物の乱倫ぶりに呆れたり羨んだりしているだけ。自分から行動を起こすこともなく、周囲に振り回され、巻き込まれ、 お膳立てを待つばかり。現状維持が行動理念の受け身な女性なのだ。

 「人の噂も七十五日って言うじゃない。田舎じゃ七十五年よ」といった台詞でその精神的不自由を言い表すが、それは言い訳に過ぎない。 結婚生活に傷つき、恋に臆病になっているというのが本音らしい。いざデートに出かけようとしても、風呂で乳房を鏡に映して「昔の私……。 今の私……」と胸の上げ下げをして嘆息をつく。脂の落ちたそっけない乳房が彼女の黄昏を雄弁に物語り、 ニンゲンの体臭と哀愁とを濃厚に漂わせるのである。 こうしたリアルで微苦笑を誘う場面をやすやすと成立させうるのがピンク映画の強みであろう。

 そんな彼女のよき相談役は、サーモン鮭山がナチュラルに演じる、性転換したソフィービー・ルミ (好きな女優の名前を組み合わせたネーミングらしい)。与えられた台詞はいずれもベタだが、印象的なものが多い。 「切ったチンチンでぶっ叩いてやろうかしら」という爆笑ものの台詞から、「誰にでもお酒に抱かれたい夜があるの。特に女はね」「後悔なんて、 死ぬ五分前にしたって間に合うわ」といったものまで、酒場の箴言を繰り出してヒロインを癒し、あるいは鼓舞する。こうした言葉を浴びながら、 彼女はしだいに能動的な存在に変化していくのである。

 昔の恋人と再会した彼女は、ある瞬間、突拍子もない行動に出る。その衝動的な行動の理由を、彼女ははにかんでこう言う。 「弾けてみたくて……」。地味に慎ましく暮してきた彼女がぱっと花を咲かせる一瞬。その後の展開は至福の連続だ。 クライマックスを盛り上げる、鼻にかかったようなキュートな歌声はニナ・ザ・ワールド。スコーンと突き抜けたロケーション、 佐々木麻由子の満ち足りた笑顔と相俟って、(ああ良かった、あの人が幸せそうで何よりだ)――素直にそんな気分にさせられる終幕である。

 飲み明かした人物たちが、朝まだきの町をのろのろ歩く場面や、ふんどし一丁で暴れまわる松浦祐也の怪演。 冒頭で盗まれた自転車がひょんなところから出てくる意外性など見所は多い。笑いと感傷とエロが程よくブレンドされた本作は、 プログラムピクチャーとしてのピンク映画の魅力を横溢させ、人生に疲れた大人たちを束の間楽しませてくれる。

 ……束の間? いやいや、ことしの七月に大いなる楽しみの時間が訪れるのだった。

 「R18 LOVE CINEMA SHOWCASE vol.3」として、 ポレポレ東中野で竹洞哲也監督の特集上映が開催されるのだ。上映作品は『悩殺若女将色っぽい腰つき』(恋味うどん) 『ホテトル嬢癒しの手ほどき』(短距離TOBI-UO)『乱姦調教 牝犬たちの肉宴』(森鬼)『欲情ヒッチハイク 求めた人妻』 (舞う指は誰と踊る)『美少女図鑑汚された制服』(想い出がいっぱい)を一日二本、日替わりで上映予定だ! 東中野に駆けつけよう、 あったかい映画を見るために。

(2007.4.22)

不倫同窓会 しざかり熟女(再会迷宮)
監督:竹洞哲也
脚本:小松公典
出演:佐々木麻由子、那波隆史、サーモン鮭山、青山えりな、松浦祐也他

2007/04/23/15:15 | BBS | トラックバック (0)
膳場岳人 ,今週の一本 ,「ふ」行作品
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