今週の一本
(2006 / アメリカ / ジェフ・ブロードストリート)
看板に一部不適切な表現がありますが仕様です。

仙道 勇人

 2007年秋の封切り映画のトレンドは、ずばり「ゾンビ」だそうです。確かにアクション系ゾンビはハリウッドの大ヒットシリーズ「バイオ・ハザード3」(07)が、また、コメディ系ゾンビという新境地を開拓して話題の「ゾンビーノ」(06)が同時期に公開され、今秋は色々なゾンビを堪能できるまたとない(?)シーズンとなっています。

 さて、アクションバリバリでゾンビをなぎ払ったり、ペット化したゾンビが一騒動起こすのを観たりするのも一興ですが、王道であるホラー系ゾンビを外すわけにはいきません。そんな需要に応えるべく、コンサバルックなゾンビもちゃんと待機しています。それが今回取り上げる「超立体映画ゾンビ3D」です。

 タイトルが全てを物語っている本作ですが、「飛び出す腕!飛び出す血しぶき!飛び出す銃弾!スクリーンを突き抜け、ゾンビが眼の前に迫りくる!」という、公式サイトに溢れるやけに威勢のいいコピーに心惹かれたのは筆者だけではないでしょう。何せ「全米で失神者続出」の代物らしいですから!ゾンビ・フリークでもなんでもない身ながら、これは是非とも観なきゃと横殴りの雨風が吹き荒れる中、公開初日の劇場へ馳せ参じた次第であります。

 チケット売り場にて渡された、赤と青のセロファンが貼られた特製3Dメガネの余りのチープさに一抹の不安を覚えましたが、オープニングロールからまさかの3D!確かにキャストのクレジットやら手前のポストやらが浮かんで見える!……だけなんですけど。実際、本作で観られる3D映像は、ステレオ写真のように特定の物体が微妙な立体感をもって見えるパターンと画面全体に奥行きが生じるパターン、二つのパターンしかないようです。

 まぁ、あれだけ威勢のいい惹句で煽られていたので、その方面では些か物足りない感じがするのは否めません。画面の奥行き処理という恐ろしく地味な(それゆえに余り意味がない)3D効果は随所に施されていたような気もするのですが、いかにもなカットは差し出されたマリファナなど数えるほどしかなく、しかもその数少ないカットですらも3D感は微妙だったりもしますし。腕どころか銃弾も血飛沫すら飛び出さないので、いい歳してスクリーンから飛び出してくる映像にのけぞってしまったらちょっと恥ずかしいかも……などと、一人妄想を逞しくしていた上映前の自分自身にツッコミを入れたくなったことは素直に告白しなければなりません。しかし、実は本作における3Dはオマケみたいなものなので、それをもって本作をこき下ろすのは野暮なような気もします。

 その本作のもう一つの触れ込みは、ゾンビ映画の原点であるジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)のリメイクである、という点です。古典をリメイクする場合、現代的なアレンジをするのが定番ですが、この匙加減が実に難しい。オリジナルを蹂躙したような"リメイク作"が横行する所以です。

 本作も、女主人公バーブ(ブリアンナ・ブラウン)が冒頭でケータイを使用していることから、現代を舞台にしていることが窺えるものの、それ以外には現代的なアプローチが全く見られません。この驚くほどシンプルな作りは清々しく、却って好ましいくらいです。特にゾンビのように使い古された素材を扱った作品では、先行作品との差別化や素材を現代に最適化する狙いから、例えば、現代社会や文明批判、政治風刺といった時代性を取り込むことが少なくありませんが、本作にはそうした現代への目配せが皆無なのも大きな特徴です。スクリーンに映し出される光景や小道具類はアナクロなB級ホラーそのものであり、その意味で本作は極めてピュアなゾンビ映画と言っていいでしょう。ストーリーも「伏線?そんなの関係ねえ。とにかくゾンビに襲われて、逃げまどえばいいんだよ」とばかりに後から後から付け足されていく超展開と、登場人物達のグダグダな右往左往っぷりが素敵すぎです。

 また、本作を観る上で絶対に押さえておきたいのは、いわゆる「死亡フラグ」の存在です。先に「伏線がない超展開」と書きましたが、こと死んでいくキャラに関しては別で、本作では死ぬキャラは何らかの形で死亡フラグを必ず立てています。定番からマイナーまで様々な死亡フラグが次々と立てられていく様子は、さながら「死亡フラグの見本市」とでも言いたくなるほどでして、その見事なまでのフラグ立てに途中からニヤニヤが止まらなくなること請け合いであります。上島竜兵の「押すなよ!絶対押すなよ!」のノリに通じる予定調和的笑いとでも言いましょうか、キャラの間抜けさとアホアホっぷりで「死」すらギャグになってしまうのは、まさにB級ホラーならではの醍醐味ではないでしょうか。

 本作は「3D」と冠されてはいますが、なぜか3Dを強調する演出が殆ど見られないので、やはりあの惹句の煽りに思いっ切り釣られてしまった人にとっては、エーーー?と拍子抜けするところがあるのは事実です。「どこら辺が『超立体映画』なんだよっ!」と毒づきたくなる人もいるかもしれません(クレーム対策として「注・実際には飛び出しません」とでも書いておいた方がよかった気もします)。しかし、本作を解説通りのアトラクション・ムービーとは考えずに、B級ホラーと思って観ると、なかなかどうして愉快な一本になるのです。

 3D映画なのに3D感をちっとも前面に押し出す気がない反面、B級ホラー映画のクリシェを徹底的に踏襲してみせるという、やる気があるんだかないんだかさっぱりわからないジェフ・ブロードストリート監督のやり手?ぶりがなんとも微笑ましい限りですが、これから観に行こうと考えている人は、本編が始まる前のオープニングロールで3Dメガネのベストポジションを調節するといいでしょう。支給されるメガネは構造的にやわいくせに耳掛け部分が妙に硬いので、普通のメガネのように耳に掛けるよりも帽子などで挟んで固定してあげると、赤青フィルターによるアナクロなアナグリフ方式の立体映像ながら、そこそこの3D感が得られるはず。あとは死亡フラグ集でも予習して頭に叩き込んでおけば、近年でも稀なニヤニヤ体験があなたのものに!

(2007.11.12)

超立体映画 ゾンビ3D 2006年 アメリカ
監督:ジェフ・ブロードストリート 脚本:ロバート・ヴァルディング 撮影:アンドリュー・パーク
出演:ブリーアナ・ブラウン,ジョシュア・デロシュ,シド・ヘイグ,グレッグ・トラヴィス,ジョアンナ・ブラック
公式

2007年11月10日(土)より池袋シネマサンシャイン他にて全国ロードショー

2007/11/12/17:16 | BBS | トラックバック (1)
仙道勇人 ,「ち」行作品 ,今週の一本
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