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アン・リー監督公式インタビュー:
映画『ウッドストックがやってくる!』について

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2011年1月15日(土)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー!

アン・リー監督――最初にこの原作を知ったのは?

アン・リー監督 僕がサンフランシスコのテレビ番組に出たときに、原作者のエリオット・タイバーもゲストで出ていて、待ち時間に本を渡されたんだ。それから数日後、映画学校時代からの友人パット・クーポが電話をしてきて、僕がエリオットから本をもらった話をどこかで聞いたらしくて、「絶対に読めと」言ってきたんだ。

――原作のどの部分に惹かれましたか?

アン・リー監督 正直なところ、著者の家族の物語よりもウッドストックの話の方がインパクトがあった。でもウッドストック自体はとてつもなく壮大で、あまねく捉えることはできないし、ドキュメンタリーの再現をするつもりもなかった。もう古典的な傑作になってしまっているからね。だからそれはないと思った。もし60年代末あるいはウッドストックを描くとしたら、別の場所に碇をおろさなければいけなかった。こうして僕はあの小さなモーテルからの視点に気付いたんだ。そしてウッドストックを自分たちの生活のど真ん中に誘致したことでエリオットや彼の家族が遂げる変化を描くというのが、ウッドストックへのもう一つのアプローチだと思ったんだ。小さいけれど、ウッドストックを感じることができる可能性が見えたよ。こうして家族のドラマを描くことになった。僕はいつも家族のドラマを描いているけど(笑)。それがこの仕事の真髄でもあるわけだから。

――なぜこの本を映画化しようと思ったのでしょうか? この題材を取り上げようと思った理由は? 家族の何に惹かれたのでしょうか?

アン・リー監督 悲劇的な作品を連続して撮り続けてきたから、コメディを探していたんだ、皮肉じゃないコメディをね。それに自由と素直さと寛容さを兼ね備えた物語、そして絶対に忘れることのできない、そして無くしてはいけない“純粋な精神”を備えた物語を探していたというのもあった。家族の問題というのは、きっと解決できない問題だからだろうね。この作品には一応解決策があるけれど、芸術においては、僕らにできることは現象を提示することだけ。僕はずっと自由を求めて衝突する人間に興味を持っていたんだ。ある関係の中に縛られるのはバカらしいことだとは思うけど、でもそうやって自由を手にしても、悲しいよね。そして絆を失う。何度も描きたいと思うのはそういう空気なんだ。それはきっと人間の手管というか、関係性の中心にあるものなんじゃないかな。

――監督ご自身はウッドストックのことを覚えていらっしゃいますか?

『ウッドストックがやってくる!』1アン・リー監督 ニュースで見たことは覚えているよ。髪をふわふわに膨らませた男がギターをかき鳴らして、その周囲は人の海。噛みつきそうな勢いで「ウッドストックがこの国で、ここニューヨークで始まりました」って伝えていた。覚えているのはこれぐらい。でも音楽は話題になっていたよ。ベビー・ブーマーたちは世界の歴史を書き換えようとしていた。だからひとりの大人としてそこから逃れることはできなかったんだ。まだその雰囲気はあたりに漂っているし、年月を経てウッドストックは自由、新しい世代、そしてそのほか多くのものを象徴する伝説的なシンボルとなったんだ。

――この映画は、どの程度史実に忠実に描かれているのでしょう?

アン・リー監督 それは大変な質問だな。答えるのが大変だ。もちろん伝記という側面はある。でも著者のことをどの程度信用したものか…(微笑む)? 主人公のエリオットは確かにマイケル・ラングに電話をかけた。でもその部分のリサーチをした時に、ウッドストックの口述歴史を辿って、マイケル・ラング自身とも、ジョエル・ローズマンとも話をしたんだけど、彼らの話はまた少し違っていたんだ。まるで「羅生門」だよ。例えばあの牧草地を見つけたのは誰だったかについては、少なくても4パターンの答えがあったよ。「あの牧草地を見つけたとき、これだって思った。まさに運命だった」って、誰もが言うんだ。みんなあそこの土地、あの円形劇場を見つけた最初の人間なんだよね。だから本当にいい質問だよ。僕は原作バージョンで撮った。僕に言えるのはそれだけだね。ちなみに本作の中でウッドストックは出てこないんだ。面白いことに、ウッドストックはウッドストックで起こったわけではないんだけど、誰も開催されたホワイトレイクやベセルとは言わずに“ウッドストック”って言うんだよね。

――あなたの作品『アイス・ストーム』(’97年)とこの題材の関連性にはすぐに気づかれたのでしょうか?

アン・リー監督 そうだね。ウッドストックという言葉を聞いた時、ウッドストック後の話をやったことを思い出したんだ。ウッドストックは無邪気さの絶頂に起こったことだった。そしてあの時の情熱はやがて衰退していく。そしていろんなものが衰えていった時、いやな後味が残った。それが『アイス・ストーム』なんだ。

――過去を舞台にした映画をお作りになる時、その作品にふさわしいある種のスタイルというものを意図的に選ばれることはあるのでしょうか? 『アイス・ストーム』では70年代風でしたし、『ウッドストックがやってくる!』は60年代末のスタイルに見えました。

アン・リー監督 歴史は2部構成になっていると考えているんだ。ひとつは事実としての歴史。そしてもうひとつは文化。映画はリアリティに迫るもの。それが僕らが覚えているものだからね。だから僕はその両方を大事にしたいんだ。監督を始めてまだ間もない頃、『いつか晴れた日に』(95)を監督したとき、歴史的なリサーチを行って、それに忠実に撮ろうと思ったんだけど、そこで問題にぶつかった。忠実に描くと、イギリスっぽく見えないらしいんだな。そこで多少大げさな要素が必要だということに気づいたんだ。それが文化だ。そういった経験から学んだんだ。その両方の狭間でいつももがいている。その双方を捨てようと思う時もあれば、大切にしようと思うこともある。本作では意識的にスクリーンを分割して、16mmで撮影し、手ぶれのするカメラでズームも多用した。一番大きな決断はズームレンズを使うかどうかという点だった。もう40年ぐらい時代遅れのものだからね。ズームを使ってしまうと、その部分は編集もできないし。後戻りはできない。だからそこが一番考えに考えて決めたところだったんだ。

――主演のエリオット・マーティンを起用した理由を教えてください。

『ウッドストックがやってくる!』2アン・リー監督 皮肉なことに彼をキャスティングした当初、我々は彼は面白い奴に違いないと思っていた。でも実際に彼を撮影してみると、彼がもっと他の何か、期待していたものとは全く違う何かを見せてくれることに気づいたんだ。彼は映画界では新顔。彼がステージでやってきたことをそのまま映画に使うことはできない。僕の作品では、彼は面白いことはやっていないんだ。ステージの仕事では彼は面白い人間だって知られているし、彼が主導権を握っている。不格好な人間を演じているけど、実は彼自身はすごく頭のいい人。それが彼の手法なんだ。でも映画ではそうはいかない。だから彼がつくり出すその場面にふさわしい雰囲気にこちらが合わせていくことにした。このやり方は間違いではなかったと思うよ。でも僕自身はちょっとナーバスにもなっていた。コメディアンとしての彼を、この映画を面白くするために上手く活かすことができないとわかっていたから。彼の持ち味とこの作品にダメージを与えてしまうかもしれないとも思った。その代わり彼の別の面を見出したんだ。もっと感動的な部分をね。僕は、コメディアンと仕事をしたことはこれまで一度もなかったんだけど、すごくいい人選だと思っているよ。もっとディミトリを見たいと思うはずだし、皆が彼のことを、彼の初々しい顔が好きになると思うな。それに彼の物腰や気質が、脚本に書かれた性格にすごく近かったんだよ。

――ウッドストックを実現させた立役者であるウッドストック・ベンチャーズのマイケル・ラングを演じたジョナサン・グロフについて教えて下さい。

アン・リー監督 グロフは実際に何度もドキュメンタリー映像を観ていて、自分が第一印象で感じたマイケル・ラングの雰囲気を捉えていた。僕は、それをさらに解放して自分のオリジナルのマイケルを創り上げるという演技を引き出すべく心がけたんだ。

――実在した出来事を映画化するにあたって緻密な時代考証をするための苦労があったのではないでしょうか?

アン・リー監督 この映画の製作に携わるうちに、60年代に対する情熱を感じ始めたんだ。僕は、スタッフたちと“作戦司令室”を作り、30フィートの壁に大きなフローチャートを貼り、撮影スケジュールや撮影日、またそれぞれのキャラクターの感情や肉体的変化、シーンごとにモーテルのプールの水の色はどう変えるかなど、通常の流れに沿って細かくポストイットも貼っていった。これに加えて僕と歴史家のシルヴァーがタイバーの本やドキュメンタリー他、映像や写真記録などリサーチの過程で集めたちょっとした挿話用の情報もスクラップしていったんだ。例えば掲示された情報には、ありとあらゆるものがあって、食品に関するものもあった。フェスティバル開催中、いかにして食料が尽きていったか。わずかしかない売店は早々と売り切れ、町の財源はほとんど尽きていたからね。そしてどういういきさつでカリフォルニアから来たヒッピーの一団ホグ・ファーム(イベントの2年前にヒュー・ロムニーまたの名をウェイヴィー・グレイヴィーが設立)の尽力によって食事を無料提供してもらうことになったか、などについてもね。これだけの原資料があると、別の見方もできると思うから、最終的にはどこにクリエイティブな裁量を取り入れていくかということになるんだ。情報が増える度に壁に貼ったフローチャートを修正し、背景となるアーティストをウィロー集団、バイカー集団、プール集団など7つの“集団”に分けていった。このおかげで、当時の人々を演じたエキストラたちをまとめるために役立った。なにせ何百人もいるんだからね!

――ロック・フェスには行かれたことがありますか?

『ウッドストックがやってくる!』3アン・リー監督 ないんだ。唯一行ったことがあるといえば、セントラル・パークで開催されたサイモン&ガーファンクルの再結成の時だけ。フェスティバルに行った経験もないからLSDもやったことがない(笑)。言うのも恥ずかしいけれど!

――音楽はお好きですか?

アン・リー監督 若い頃はクラシックに傾倒していたんだ。僕はあんまりヒップなタイプじゃないんだよね。耳に入ってくる音楽は聴くという平均的なタイプだね。特にカッコいい人間じゃないんだ(笑)! でも映画作りはまた別のもの。もっと入り込んで、いろんなものを学ばなきゃいけない。映画を完成させたあと、作品について語らなきゃいけないことがあるじゃない。苦々しいことなんだけど、リサーチしたことを本当に覚えてないんだ。終わったら端から忘れてしまうんだよね。

――撮影時の印象に残るエピソードを教えて下さい。

アン・リー監督 演劇集団のアースライト・プレイヤーズのシーンにふさわしい納屋を探していて、その探索はやっとニューハンプシャーで実を結んだんだ。その納屋を分解してロケ地まで運ばせて、再建したんだよ。そして撮影が終了してから、納屋をまたもとの場所に戻したんだ。

――本作のゲイのシーンは、『ブロークバック・マウンテン』(’05)を支持してくれた人に対する感謝の意味があるのでしょうか?

アン・リー監督 (肩をすくめて)原作にあったんだよ。例えばタイムズ・スクエアの映画館に行くシーンなど、原作のちょっと重いシーンは使わなかった。汚いものもたくさんあったからね! でもそれはウッドストックじゃないし、それは彼(エリオット・タイバー)の人生であって、ウッドストックとは関係がない。だからある種のゲイの部分は軽く描写するにとどめたんだ。彼がゲイだというのは彼の人生のひとつの事実に過ぎない。リーヴ・シュレイバーが演じたキャラクターみたいに。彼がゲイなのか、服装倒錯者なのか、あるいはおかまなのかわからないだろう。彼をカテゴライズすることなんてできない。でも彼はあらゆる点においてとても気楽にしている。それが僕が考えるウッドストックなんだ。

――ウッドストックの思い出は、オバマが大統領になった今日のアメリカに共鳴するものを持っていると思いますか?

アン・リー監督 そう願うよ。あんまり説教くさくはなりたくないんだけど。ウッドストックに惹かれ、その映画を作ってみんなと共有したいと思う理由はその心理なんだ。そう思うよ。僕は運命や、僕らが意識しないところで動き続けるもっと大きなものも信じている。本当にそう思うんだ。そんなに意識はしてなかったんだけど、そういうものが雰囲気としてあったのは確かだね。

――この映画についてのメッセージをお願いします。

アン・リー監督 素晴らしいキャストとスタッフのおかげで、ウッドストックのエネルギーとスピリットを感じることができた。この撮影は本当に楽しかったよ! 皆にもきっと楽しんでもらえる映画だと思う。

ウッドストックがやってくる! 2009年 アメリカ
出演:ディミトリ・マーティン,ダン・フォグラー,ヘンリー・グッドマン,ジョナサン・グロフ,ユージン・レヴィ,ジェフリー・ディーン・モーガン,イメルダ・スタウントン,ポール・ダノ,ケリ・ガーナー,メイミー・ガマー, エミール・ハーシュ,リーヴ・シュレイバー
監督:アン・リー 脚本:ジェームズ・シェイマス プロデューサー:ジェームズ・シェイマス、アン・リー、セリア・コスタス
マイケル・ハウスマン(製作) 原作:エリオット・タイバー 共同著者:トム・モンテ 撮影監督:エリック・ゴーティエ AFC
プロダクション・デザイナー:デヴィッド・グロップマン 編集:ティム・スクワイアズ A.C.E. 音楽:ダニー・エルフマン
衣装:ジョセフ・G・アウリシ キャスト:アヴィ・カフマン C.S.A.
原題:Taking Woodstock/2009年/アメリカ/121分/カラー/ドルビーデジタル/ビスタ/
字幕翻訳:佐藤真紀 原作:エリオット・タイバー/トム・モンテ(河出書房新社)
(c) 2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
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2011年1月15日(土)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー!

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  • 監督:アン・リー
  • 出演:シガニー・ウィーバー, ケヴィン・クライン, クリスティナ・リッチ, ジョーン・アレン
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  • 映画原作
  • (著):トム・モンテ,エリオット・タイバー
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2011/01/13/16:34 | トラックバック (0)
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