インタビュー
『ビー・デビル』チャン・チョルス監督

チャン・チョルス( 映画監督 )

映画『ビー・デビル』について

公式

2011年3月26日(土)より、
シアターN渋谷にて公開中

今作も上映されたFilmexの開催前に映画会社から「日本での語学研修中にキム・ギドク監督の『魚と寝る女』を観て直ちに帰国。ひたすらキム・ギドク監督のもとを訪ねて『コースト・ガード』(01)の演出部として映画界でのキャリアをスタートさせた」という文章に魅かれた。そして、今作でチャン・チョルス監督は長編デビューしたわけだが、この行動力と映画資金を集めるのが困難になってきていると「TOKYO」の撮影中に取材したポン・ジュノ監督も言っていたのに、「チェイサー」「映画は映画だ」「息もできない」などの新人監督の意欲作を次々におくり出す韓国映画界のバイタリティに関しても聞いてみたかったのでインタビューを行った。監督は日本に住んでいただけあって、日本語を一部交えたインタビューとなった。 (取材:わたなべりんたろう
チャン・チョルス ( 映画監督 ) 2008年、韓国映画シナリオマーケット最優秀作品賞を受賞したチェ・クァンヨンの脚本を基に本作を完成させ、第63回カンヌ映画祭のダークホースとして急浮上し、国内外のマスコミと観客から大きな注目を集める。弘益大学視角デザイン科出身。2000年初め、日本での語学研修中にキム・ギドク監督の『魚と寝る女』(00)を観て直ちに帰国。ひたすらキム・ギドク監督のもとを訪ねて『コースト・ガード』(01)の演出部として映画界でのキャリアをスタートさせた。以後、『春夏秋冬そして春』(03)、『サマリア』(04)の助監督を経て、『恋する神父』(04)では商業映画的な感覚も身に付けた。そののち、初監督作となった本作で、カンヌ映画祭を熱狂の渦に巻き込んだ。
INTRO内ページ:『ビー・デビル』作品情報
――とても面白く観ました。ただ、これだけ残虐な作品を撮った方なので、監督はどんな人物なのかと思ったら静かそうな人で驚きました。

チャン・チョルス監督 チャン・チョルス そうでしたか。予想を裏切ってしまってすいません(笑)。

――いえいえ(笑)。日本でキム・ギドク監督作を映画館で観て、韓国に帰国して、ギドク監督のもとに何度も行って助監督になったという行動力に驚いたのですが。ギドク監督に会うまでは映画を撮ったりはしていなかったんですか?

チャン・チョルス はい、撮っていませんでした。

――映画は好きだったのでしょうか?

チャン・チョルス 日本に来たのは映画の勉強のためではありました。ただ、それ以前は映画には興味がなかったですが、日本に来る頃には映画が好きになっていました。

――それはどこの映画の学校だったのでしょうか?

チャン・チョルス 実は日本に来て、まだ映画の学校に入る前でして、まず日本語の研修を受けている頃でした。その最中にキム・ギドク監督の『魚と寝る女』を観て、「キム・ギドク監督を訪ねなくては!」と思いました。

――こちらも『魚と寝る女』を映画館で観ていて、おそらく同じ映画館で観ています。

チャン・チョルス そうなんですね。面白いことですね(笑)。

――おそらく、映画祭以外でキム・ギドク監督の日本での初公開作品で、ネットの映画評がメインのm@stervisionさんという方がいて、その方が絶賛していたのが、こちらが観た理由でした。観てみたら、にっかつロマンポルノのような作品に人間の持つ残虐性を加えた作品のようで面白くて、ギドク作品を観るきっかけになりました。

チャン・チョルス にっかつロマンポルノとは面白いね。『魚と寝る女』を観たきっかけは韓国映画だって理由だったんです(笑)。日本に来る前に韓国で『悪い女』は観ていたのですが、そんなに魅かれるものがなかったんです。「新しいな」とは思ったのですが『魚と寝る女』ほどの衝撃はなかったんです。日本は映画に対する関心が高いんだろうなと思ったら、日本に来た当事はそれほど映画に対する関心が高いようにはみえなかったんです。その時に『魚と寝る女』を観て、韓国では映画の新しい波が起きていると思って「早く韓国に帰って、この監督を訪ねなければ!」と思ったんです

――韓国に帰って、すぐにギドク監督には会えたのでしょうか?

『ビー・デビル』1チャン・チョルス 韓国にすぐに帰りましたが、やはりなかなかギドク監督に会うことはできなくて、まずはギドク監督の映画会社を訪ねました。それで、ようやく映画会社の社長とミーティングの機会をいただいて、それで監督と会うこともできてギドク監督の助監督になったわけです。

――日本では『魚と寝る女』で一部で話題になり、次の『悪い男』でギドク監督は多くの映画ファンに知られるようになりましたが、『悪い男』はどう思いましたか?

チャン・チョルス 韓国に帰ってから、『悪い女』が上映されていたので、最初から2回観ると決めていて、細部までじっくり観ようと思っていましたが、1回目を観終えたら、あまりの衝撃で2回目は観られなかったです。

――『カケラ』で監督デビューした安藤モモ子さんに会ったときに「素晴らしい映画を観ると、あまりの衝撃にあって他の作品をすぐに観られなくなる」と言っていたのですが、チャン・チョルス監督も強い感受性ゆえに、あまり映画を観ないほうですか? いわゆるシネフィルでないとは『ビー・デビル』を観たときにも作風に感じましたが、そういう方のほうが映画監督としては強みの面もあると思います。

チャン・チョルス はい、シネフィルではないです。映画を観始めるのが遅かったので、過去の良い作品と言われている作品でも観ていない作品がたくさんあります。これから良い作品にたくさん出会えるわけで楽しみです(笑)。マジメに答えると、でもそれが良い面もあるんですね。年齢を経て、ある程度、人生のことが分かったうえで観ると、より理解できると思うからです。以前は映画学校を出た人や多くの映画を観ている人を羨ましがったりしていたのですが、それは映画の世界ばかりしか見ている、もしくは映画の世界に閉じ込められているとも言えるわけです。映画よりも人の姿を見てきたので、だからこそ自分が映画で人を描くことに重点を置くようになっているとは思います。映画学校の人たちのようにテクニックを先に学んでいないで、いきなり映画の現場に入ったのも映画を実際に学んだ強みであって、もしかしたら長所になってくれているのかもとも思います。

――知人の映画監督の方が「映画をたくさん観ることと、映画的に生きることは違う」と言っていて印象に残っているのですが、そのことはどう思いますか?

チャン・チョルス監督2チャン・チョルス 映画をたくさん観るというのは難しいことではないことだと思うんです。だって、スクリーンやモニターの前に座っていればいいことですから(笑)。

――時間的に余裕があれば誰にでもできるということですよね。受け身なことですから。

チャン・チョルス そうです。「映画的に生きる」というのを鑑賞者や批評家ではなく、映画を作る側と解釈すると、そちらのほうが難しいと思うんです。映画を芸術としてどう捉えるかだと思うのですが、「映画を観る」=「人の生き方や営みを見る」ということだと思うんです。「映画を多く観る」ことが目的だと、そこが違うと思います。自分が映画を撮るのは、映画というのは等身大に人間を描けるからなんです。人間の生きる姿を描くことが大事であって「映画はこうあるべきだ」などの批評には興味がないんです。

――さっきのテクニックの話しにつながるんですが、映画のシーンつなぎが独特で面白かったです。つながっていないようなシーンをつないでいるというか。映画にはルールがあるようでないということもあるのですが、カメラは何台使ったのでしょうか?

チャン・チョルス 予算のこともあって、基本的には1台のカメラで撮っていたのですが、畑で主人公が殺人を始めるシーンは、補助のカメラをもう1台置いて撮りました。

――撮影はデジタルでしょうか?

チャン・チョルス レッド・ワンです。

――今作の前に撮った短編はあるのでしょうか?

チャン・チョルス はい、『天国のエスカレーター』という短編を撮っています。『天国の階段』という有名な曲がありますが、その曲のタイトルをもじって撮ったブラック・コメディです。

――ネットでのフィルモクラフィになかったですが、その短編は観ることはできるのですか?

チャン・チョルス 英語字幕付きがあるので送ります。

――ありがとうございます。取材前に映画会社の方にチャン・チョルス監督は今村昌平監督を好きだと聞きました。このポスターも昭和30年代の日本映画のテイストを感じました。 今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』や新藤兼人監督の『鬼婆』などです。

『ビー・デビル』2チャン・チョルス 楢山節考』は観ているのですが、それらの作品は知らないです。短編を送るので、韓国に送ってください(笑)。

――分かりました(笑)。今村監督作品は「重喜劇」と言われていて、『ビー・デビル』にも通じるものを感じます。

チャン・チョルス はい、そのとおりです。自分の作品も「重喜劇」だと思います。人間の営みのおかしいところと悲しいところの両方を描いているからです。これらは、自分が映画でやりたいことに通じるものがあるからです。

――映画における宗教的なことはどう思っているでしょうか? キリスト教であったりですが。

チャン・チョルス 特定の宗教を信じているわけではないのですが、韓国には仏教、キリスト教、天主教(中国・朝鮮・日本でのローマ-カトリック教の呼称)と呼ばれているもの、また宗教とは呼べないと思うのですが儒教もあります。これだけいろいろな宗教があるように、人間には宗教が必要なんだろうと思います。宗教そのものについては尊重しています。ただ、自分としては何か一つの宗教に決めたくないという思いがあります。なぜかというと、宗教の長所は吸収したいのですが短所まで一緒に吸収したくはないからです。だから、自分としては宗教に対してオープンな姿勢にしています。

――では神を信じるというか、神の不在などの考えはどう思うでしょうか?

チャン・チョルス 実は神は信じていないんです。神とか死後の世界はあまり信じていないですが、魂はあると思っています。一番大事なのは現実だと思っています。

――痛みは重視していますか? 心も身体もですが。トラウマも含めてです。今作には多くあると思いました。

チャン・チョルス 人と会った場合に、その人のことを知るには今までの成長過程の話を聞くようにしています。どんな環境にして、どんな経験をしてきたのか、どんな心の痛みがあって、どんなトラウマを抱えているのかを考えるんです。おそらく、それらが今のその人を作っているんです。どういう人か知るうえで、とても重要なことだと思っています。

――心理学的にきれいにまとまった回答なので驚きました。

チャン・チョルス (爆笑してから)心理学は脚本に必要ですから。

――日本では今、不況もあって映画製作が大変な状況なのですが、今作『ビー・デビル』はどうファンドさせた(資金集めをした)のでしょうか?

チャン・チョルス監督3チャン・チョルス 今作も内容が過激なのでファンドはとても大変でした。今作を撮ろうとしていたときは韓国映画界でヒット作が出ないで赤字の作品が続出していたんです。なかなか産業として映画が難しい時期でした。だから、新人の監督デビュー作にファンドさせるのにとても苦労しました。自分も「この脚本を何とか映画化したい」と強く思っていたので投資会社や出資会社を回ったり、製作会社に持ち込みもしたのですが全て断られてしまいました。KOFIC(韓国映像振興院)という映画振興委員会という、日本でいうユニジャパンのような組織が韓国にあります。そこには低予算の映画を支援するプロジェクトがあって、そこに企画申請して企画がとおってやっと製作することができました。ただ、それでも製作費が足りないので、追加の出資を探しましたが難しかったです。そして1年ぐらい経って、ようやく新たな追加出資先を見つけて製作にこぎつけました。

――総製作費はいくらぐらいでしょうか?

チャン・チョルス 7億ウォン(約6000万円)です。

――今の日本でしたら、潤沢な予算です。100万円の製作予算の映画もあります。

チャン・チョルス (日本語で)ああ、そうですか。

――日本のハピネット製作の作品もありましたが、助監督でついたギドク監督の作品は予算ないですよね。

チャン・チョルス そこまで少ない予算ではないですが、日本の映画の製作費がそこまで少ないとは思っていませんでした。韓国は今、映画の付加産業がないんです。

――ポン・ジュノ監督も取材したときにDVDが全く売れないと言っていました。だから、映画館のみの収入しかないので、その時に次に撮ると言っていた『母なる証明』は『グエムル』より予算をかなりかけられなくなっているので企画した作品でもあると。

チャン・チョルス その通りです。ネットで見てしまうのと、ものを所有するという欲が韓国人にはあまりないのでDVDは全く売れないです。でも、日本はDVDの市場があるので、韓国より映画製作状況がいいと思っていました。

――日本もDVDが売れないので、そこは同じです。だから、韓国の監督はポン・ジュノやキム・ジウン(『グッド・バッド・ウィアード』の後にアメリカ資本で撮るはずが1年の時間ができたので『悪魔を見た』を作った)を始め、海外に出始めていますよね。少し前に386世代と言われていた当事に30代で80年代に大学に行っていた世代の監督たちです。

チャン・チョルス キム・ギドク監督は海外に行かないみたいですが(笑)、映画を作ることはどこの国でも大変なのは確かです。頑張りましょう!というか、まずは自分が頑張ります(笑)。

――最後の質問ですが、今村昌平監督作品を入れてもいいので好きな映画を3本挙げてみてください。

チャン・チョルス 好きな映画はたくさんあって、3本選ぶと入らなかったほかの映画が可哀想なので(笑)、日本映画に限定してみます。『うなぎ』『ラブレター』『HANA-BI』ですが、4作にして『CURE』も入れます。とても面白いインタビューでした。ありがとうございました。

――こちらこそ、ありがとうございました。

( 11月25日 取材:わたなべりんたろう )
INTRO内ページ:『ビー・デビル』作品情報

ビー・デビル 2010年/韓国/
監督:チャン・チョルス 脚本:チェ・クァンヨン 主演:ソ・ヨンヒ、チ・ソンウォン
製作総指揮:キム・ハリー・H・W、ハン・マンテグ、ジョン・ヒョン 製作:パク・キュヨン 共同製作:チャン・ソクビン
撮影:キム・ギテ 照明:ナム・ジナ 美術:シン・ジョミ 録音:ソン・ジンヒョク 編集:キム・ミジュ 音楽:キム・テソン
日本語字幕:荒木芯 提供・配給:キングレコード
(C)2010 Boston Investments Co., Ltd. and Filma Pictures. All Rights Reserved.
公式 twitter:@bedevilled_jp

2011年3月26日(土)より、シアターN渋谷にて公開中!!

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  • 監督:キム・ギドク
  • 出演:チョ・ジェヒョン, ウ・ユンギョン, チャン・ドンジク, チュ・ジンモ, キム・ジナ
  • 発売日: 2007-11-22
  • おすすめ度:おすすめ度4.0
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2011/03/29/10:02 | BBS | トラックバック (7)
わたなべりんたろう ,インタビュー
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