カメン・カレフ( 映画監督 )
映画『ソフィアの夜明け』について
2011年1月8日(土)よりキネカ大森ほか、全国順次公開中!
全国順次公開中の「ソフィアの夜明け」の衝撃はいまだ消えない。こちらのustreamの映画番組の第一回でも取りあげたほどだ。なお、この映画番組でもゲストに出ていただいた「亡念のザムド」の宮地昌幸監督は「ソフィアの夜明け」の大ファンで、このインタビューにも同席していただいた。宮地監督、ありがとうございます。
(取材:わたなべりんたろう 協力:宮地昌幸)
<あらすじ> ゲオルギ(オヴァネス・ドゥロシャン)は17歳。絶えず両親と揉めていた。もっと男らしく見られたいと、彼はスキンヘッドのギャングに加わる。彼は兄イツォ(フリスト・フリストフ)としばらく会っていなかった。ゲオルギの兄イツォは38歳。職業は木工技師だ。彼はドラッグ中毒でメタドン治療を受けていた。ヘロイン依存のせいで生きることに投げやりな彼は、アルコールに頼る日々を送っていた。イツォの恋人ニキ(ニコリナ・ヤンチェヴァ)は学校で演技を専攻する学生。若く純真な彼女はイツォに恋をし、彼女にとって"アーティスト"イツォのいない人生は考えられなかった。
ウシュル(サーデット・ウシュル・アクソイ)は20代の女性でイスタンブール出身のトルコ人。ウシュルと両親は彼女の兄を訪ねるためベルリンに向かう途中だ。プルガリアを横断する長いドライブの後、一家は途中休憩し、ソフィアで一夜を過ごすことにする。だが、その夜は悪夢となった。一家はゲオルギを含むスキンヘッドのギャングによる暴行の犠牲となる。偶然現場に居合わせたイツォは、トルコ人一家を守ろうとして逆に激しく殴られ、やられてしまう。
ウシュルの父は怪我をして入院する。病院でウシュルとイツォは言葉を交わした。2人は互いに惹かれ合い、その一方でゲオルギとイツォは初めて心を通わせるが――。
――「ソフィアの夜明け」には本当に感動しました。1年に7本しか映画が作られないブルガリアから、このような現代に生きる者の心を打ち抜く作品が現れたことには驚きました。
カメン・カレフ(以下、カレフ) ありがとうございます。ブルガリア本国でも若者にとても支持されました。
――既存の作品だったら「タクシー・ドライバー」や「ファイトクラブ」と同じような作品だと思いました。とにかく観ている間中、「心が痛かった」です。
カレフ イツォを演じたフリスト・フリストフとは友人なのですが、パリのフェミス(フランス国立音響映像芸術学院)に行って帰ってきて、フリストと会ったら、フリストの人生を映画で描くべきだと思ったんです。
――結果として、映画の数シーンを撮り残してフリストは亡くなってしまいました。そのことが、この映画の悲劇性を高めていますが実際は映画の出来とは関係のないところです。フリストに何を見出したのでしょうか?
カレフ 苦闘する魂というか、今撮っておかないといけないとただ思ったんです。始めはフリストの生活を元に俳優に演じてもらおうかと思ったのですが、失われるものが多いので演技には全くの素人のフリストに演じてもらいました。始めは出演に積極的でなかったのですが、友人だからこそ出てくれたのだと思います。ただ、ご存知のように彼は亡くなってしまった。二度目のライブを観るシーンでのフリストはリハ映像です。そして、ラストも撮れなかったので本来考えていたラストとは違っています。でも、結果としてあれで良かったと思います。
――終盤の夜明けの路上で会った老人宅に行くシーンは予想もできない素晴らしさで唸りました。
カレフ あそこは自由に解釈してほしいところです。
――こちらは「ジェイコブス・ラダー」もしくは「ジェイコブス・ラダー」が元にしているダンテの「神曲」を想起しました。フリスト演じるイツォは冥界に行ってしまっているのかと。
カレフ その映画は観ていないですが、言いたいことはよく分かります。あのマンションは私が住んでいるところなんですが、うまく撮ることが出来ました。
――老人宅のマンションに入るときに外側に見えるファッション・ポスターの切り取り方にも思いましたが、画面の切り取り方が素晴らしかったです。
カレフ あそこはそれほど意識していないですね。ロケばかりの作品なので画面の切り取り方には気を使いましたが偶然性も高いです。
――だからこそ、編集がとても大事だったと思います。その編集も相当に秀逸でした。音楽も最低限に使っているように始めは思わせながら、大胆に使うところもあります。編集は新たに映画を作ることだと思いますが、編集に関してはどのように考えていますか?
カレフ 編集作業は好きです。編集が新たに映画を作ることは同感ですし、映画製作で一番大事なことかもしれません。わたしはあまりシネフィルではないので直感に従ってやっているのですが、直感が一番だと思います。
――同感です。映画を観過ぎている弊害として大胆で太い作品が生まれないことがあると思います。今作は人間の距離感や唐突な暴力の描き方も新鮮でした。89分という上映時間ですが、とても豊潤な時間が流れています。
カレフ ありがとうございます。この映画はブルガリアの若者が行くような所、つまり観光では出てこないようなスポットを多く出しているんです。そのことも本国で支持された要因だったようです。
――そうなんですね。イツォが弟と外で話すシーンで、後ろで少年たちが空中で回転しながら下に向かって飛んでいましたが、ああいう遊びがブルガリアにあるのでしょうか? とても印象的でした。
カレフ ああいう少年たちがあそこにいたので使いました。よくある遊びか分かりませんが、たまに見ます。
――終盤にイツォがドラッグの解毒の担当医に心情を吐露するシーンがあります。あのシーンはかなり即興性を感じましたが、どう撮ったのでしょうか?
カレフ 即興性が高いシーンですが、裏話をするとイツォを演じたフリストは権威主義的だとしてキリスト教がとても嫌いなんです。あのシーンで人間と神の関係性が語られますが、ああいう展開になったのは担当医役の方にある程度、そうなるように伝えておいたとはいえ、あそこまでのシーンになるとは思っていませんでした。
――今作はクリエイターが観たら、クオリティの高さにより驚くと思って、同席いただいている宮地昌幸監督、「へばの」の木村監督、「カケラ」の安藤モモ子監督などに観ていただきましたが、どの方もとても感動していました。
カレフ そうやって日本の映画監督にも伝わっているのはとても嬉しいです。
――ただ、ちょっと驚いたのがカレフ監督(共同監督)の短編「Get The Rabbit Back」がYoutubeにあったので見てみたら、全く違う作風のブラックユーモアのワンアイデアだったことです。
カレフ (笑って)短編は長編とは違うものですから。共同監督ですし。よい勉強になりました。面白かったですか?
――意外でしたが、とても面白かったです。ワンカットで撮っているのも見応えありました。ところで、最後の質問ですが好きな映画を何本か挙げてもらっていいですか?
カレフ 「殺人に関する短いフィルム」と、後はクエイ兄弟の「ベンヤメンタ学院」が大好きです。
――「ベンヤメンタ学院」とは意外です。監督作を見ても影響が全く分からないので聞いた質問でしたが予想外過ぎでした。
カレフ パリに留学中に観て、とても好きになりました。何度も観返している作品です。友人にすすめても、良い感想がないことが確かに多いですが(笑)。次回作はフランスのレティシア・カスタを迎えた「The Island」で孤島を舞台にしています。既に撮影を終えていますが、今作とは全く違った作品です。
――とても楽しみにしています。今日はありがとうございました。
取材:わたなべりんたろう 協力:宮地昌幸
- 監督:エイドリアン・ライン
- 出演:ティム・ロビンス, エリザベス・ペーニャ, ダニー・アイエロ, マコーレ・カルキン
- 発売日:1999-12-10
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- 監督:デイビッド・フィンチャー
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主なキャスト / スタッフ
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『ソフィアの夜明け』(2009)/ブルガリア E NiceOne!!
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